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鈴木竜太教授の経営組織論を読む

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「法と経営学」の観点から、「経営組織論」を勉強します。テキストは、鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)です。教授にご了解いただき、同書で示された経営組織…
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2020年10月の記事一覧

経営組織論と『経営の技法』#192

CHAPTER 8.4:組織エコロジー論 ④信頼性と説明責任  この組織慣性の根本には、組織の持つ信頼性と説明責任の能力が影響しています。信頼性とは、組織が一定の品質を繰り返し生産できる能力を指し、説明責任とは、組織が自分の活動を合理的に説明できる能力を指します。当たり前ではありますが、社会においては信頼性の高い成果を示して、自分の活動をきちんと合理的に説明できる組織が、生き残る確率を上げることになります。味が安定せず、何が入っているかが示されないような食品を消費者は買いませ

経営組織論と『経営の技法』#191

CHAPTER 8.4:組織エコロジー論 ③内的制約と外的制約  先に述べたように、組織エコロジー論では、このような組織形態を組織は環境において、簡単に変えることができないと考えています。それは組織慣性があるからです。では、なぜ組織慣性が生まれるのでしょうか。その理由には内的制約と外的制約があります。  内的制約には、以下の4つがあります。  1つ目は、組織が今の状況のために設備投資などの大きな投資をしているため、組織形態を変えることで埋没コストが発生してしまうからです。  

経営組織論と『経営の技法』#190

CHAPTER 8.4:組織エコロジー論 ②組織形態と組織慣性  組織エコロジー論では、組織が環境に応じて簡単に組織形態を変えられない状況を組織慣性という点から説明します。組織慣性とは、組織自身を変化させる能力が低く、生まれながらに持つ「組織形態」という特性は、簡単に変えられないことを指します。この組織形態とは、単に組織の構造だけを指すのではなく、行動パターンやその組織を特徴づける価値観なども含むものです。  たとえば、病院には総合病院、個人病院、あるいはガン専門や小児医療専

経営組織論と『経営の技法』#189

CHAPTER 8.4:組織エコロジー論 ①意義  コンティンジェンシー理論では、組織は環境に合わせて適合することが重要であることがいわれました。つまり、環境が変わったのであるならば、それに合わせて組織構造を変えていく必要があるということです。  しかし、本当に組織は環境に合わせて適宜組織構造を変えることができるのでしょうか。私たちも状況に合わせて態度や行動を変えることが大事だといわれますが、そう簡単に自分のタイプを変えることができるでしょうか。  また、先の節では組織フィー

経営組織論と『経営の技法』#188

CHAPTER 8.3.2:3つの制度的同型化 ⑥まとめ  人事は流行に従うといわれます。成果主義やメンター制度、さまざまなキャリア支援の施策、採用におけるインターンシップや面接方法など、ある施策ややり方が取り上げられると多くの企業が横並びでそのやり方を導人していき、多くの企業で同じ時期に新しい同種の人事施策が導入されるケースが多くあります。  組織フィールドは産業や企業規模などによって、さまざまに規定される可能性はありますが、日本という労働市場においては同型化が結果として起

経営組織論と『経営の技法』#187

CHAPTER 8.3.2:3つの制度的同型化 ⑤模倣的同型化  模倣的同型化は、組織の中で手段と目的の関係が曖昧であったり、組織の技術がよく理解されていなかったり、目標が曖昧なとき、あるいは環境が不確実であるときに、組織フィールドの組織間で模倣行動が促され、模倣的同型化が起こります。組織は、他の成功している組織やすでに正当性を有する組織をモデルとして模倣することによって、不確実なものに対処しようと考えます。 【出展:『初めての経営学 経営組織論』189頁(鈴木竜太/東洋経済

経営組織論と『経営の技法』#186

CHAPTER 8.3.2:3つの制度的同型化 ④規範的同型化  規範的同型化は、主に専門職化することから生じる同型化です。専門職化とは、専門的教育による知識に甚づく資格によって正当化される専門職のコミュニティの成長を意味します。この専門職化によって、同じ専門職である人々の間でネットワークができ、そのネットワークによって、さまざまな組織規範が組織間を横断して伝わるようになります。そして、それらの組織規範が組織内の専門従事者を通じて、組織に導入されることで、同じ組織フィールドの

経営組織論と『経営の技法』#185

CHAPTER 8.3.2:3つの制度的同型化 ③強制的同型化  一方、制度的同型化には強制的、規範的、模倣的の3つのタイプがあります。強制的同型化とは、自分たちが依存する他の組織や社会全体からの文化的期待などによって生ずる公式、あるいは非公式の圧力によって同型化されることをいいます。  たとえば、法律や規制によって政府は、組織に対して同一の組織構造や手続きを用意するように圧力をかけることがあります。あるいは、世論も同じように組織に圧力をかけることがあります。法律で最低賃金が

経営組織論と『経営の技法』#184

CHAPTER 8.3.2:3つの制度的同型化 ②競争的同型化  競争的同型化とは、主に市場の競争の下で起こる合理性の下での組織構造や手続きの採用による同型化です。つまり、それぞれの組織が競争に打ち勝つために、合理的に活動しようとした結果、同じような組織構造や手続きになるようなケースです。このような競争的同型化は、組織フィールドの初期の段階において起こるといわれます。 【出展:『初めての経営学 経営組織論』188頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】  この「経営

経営組織論と『経営の技法』#183

CHAPTER 8.3.2:3つの制度的同型化 ①組織フィールド  このような制度的規則は、同じような環境にいる組織に等しく影響を与え、それぞれの組織が制度に対応する行動をとることになります。また、同じような環境にいる組織が制度的規則を形成することもあるかもしれません。このような、集合体として制度的営みが認識されている領域を構成する組織群を組織フィールドと呼びます。たとえば、文部科学省、国公立大学、私立大学、受験生、予備校などは、同じ組織フィールドを構成する組織といえるでしょ

経営組織論と『経営の技法』#182

CHAPTER 8.3.1:制度的環境の影響  この制度的環境は、市場における取引とは異なる形で組織にさまざまな影響を与えます。特に、法律や認証制度、資格など社会にあるさまざまな分類のシステムを制度的規則と呼びます。たとえば、特許という法律があるために、組織は自分たちが開発した新しい技術や方法を他社が許可なく使うことを制限することができる一方で、他社の持っている特許を使用したくとも使用することができず、組織的な活動を制限されることになります。  あるいは、たとえば JIS(日

経営組織論と『経営の技法』#181

CHAPTER 8.3:組織の同型化  ここまで環境を実際にかかわる市場として主に捉えてきました。しかし最初に述べたように、環境には市場のように実際に組織がかかわるものもありますが、一方で法律や文化など、社会に根差すさまざまな仕組みや制度があります。もちろん、市場もその仕組みや制度に根差していますので、市場の中にもこのような仕組みや制度は潜んでいます。  このような仕組みや制度は、単なる仕組みや制度としてだけでなく、そこに価値や意味も含まれるときがあります。たとえば、江戸時代

経営組織論と『経営の技法』#180

CHAPTER 8.2.2:機械的組織と有機的組織 ③分化と統合  環境は組織に1つしかないと考えることもできますが、そうともいえません。第1節で述べたように、組織は原材料市場や労働市場、金融市場、販売市場など、さまざまな市場において環境と向き合っています。大きな組織であればあるほど、これらの環境に個別の部門が向き合うことになります。それぞれの環境が不確実であればあるほど、組織は、より部門を細分化して、その対応を行うことになります。なぜなら環境を一括に捉えるより、分化したほう

経営組織論と『経営の技法』#179

CHAPTER 8.2.2:機械的組織と有機的組織 ②機械的組織と有機的組織  環境の不確実性の高低によって、それに適する組織は、どのように定まるのでしょうか。ここでは、組織の形態と部門間の分化と統合のあり方から環境との関係を考えることにします。  第2章で述べたように、環境の不確実性に影響を受けるのは組織における規則やルールなど標準化、責任と権限の関係による事前の調整です。なぜなら、環境が変わることによって、それまでの事前の調整がうまくいかなくなり、それを再度定めるために組