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鈴木竜太教授の経営組織論を読む

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「法と経営学」の観点から、「経営組織論」を勉強します。テキストは、鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)です。教授にご了解いただき、同書で示された経営組織…
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2020年7月の記事一覧

経営組織論と『経営の技法』#100

CHAPTER 5:個人に能力を発揮してもらう モティベーションとリーダーシップ  たとえ目標や役割が明確に示され、効率的に仕事を進める準備ができたとしても、そもそも人に動いてもらわなければ目的を達成することはできません。「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざがありますが、組織を動かすうえで、それなら仕方がないというわけにはいきません。  そのために考えなければならない要素は、人を動かすことと、人に動いてもらうということです。第4章で

経営組織論と『経営の技法』#99

CHAPTER 4.4.2:ネットワーク型組織  最後に、ネットワーク型組織について考えることにします。ネットワーク型組織は、これまでの組織形態とは大きく異なります。その大きな違いは、組織の境界を考えない点にあります。これまでの組織形態は、事業部制組織であれ、チーム組織であれ、形態は異なるものの同じ組織に所属するメンバーによって構成されていました。  ネットワーク型組織には、この同じ組織という境界がありません。ですから、ある組織の1つの部署であっても、そこに所属するのは自組織

経営組織論と『経営の技法』#98

CHAPTER 4.4.1:チーム組織とプロジェクト組織  チーム組織は、組織全体が複数のチームによって構成されています。チームの人数はそれほど多くなく、1つ1つのチームは独立の目的を持っています。チーム組織では、それぞれのチームメンバーやチームリーダーに十分な権限を与えることが重要になります。  なぜなら、チーム組織においては、いわゆるここまで説明してきたような上層から下層へと流れる権限のラインがないからです。それぞれのチームは、予算と目的を与えられた後には、自分たちにとっ

経営組織論と『経営の技法』#97

CHAPTER 4.4:新しい組織  社会の中にある経営組織をはじめとする組織には、ここまで紹介してきた組織形態に限らず、さまざまな組織形態があります。ここでは、近年見られるいくつかの組織形態について紹介することにしましょう。まず、チーム組織あるいはプロジェクト組織と呼ばれる組織形態について見ることにしましょう。 【出展:『初めての経営学 経営組織論』93頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】  この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央

経営組織論と『経営の技法』#96

CHAPTER 4.3.2:マトリクス組織と一部事業部制組織(③カンパニー制組織)  一部事業部制組織と同様に、事業部制組織が進展した姿として、それぞれの事業部が1つの会社のようにより独立させた形のカンパニー制があります。これは事業部制組織の規模がさらに大きくなったときに起こる組織形態です。製品別事業部制組織では、トラックや乗用車、バイクといった1つの製品が事業部の単位となります。 (図4-6)カンパニー制組織  各事業部がどんどん規模を大きくしていったときに、その中で生ま

経営組織論と『経営の技法』#94

CHAPTER 4.3.2:マトリクス組織と一部事業制組織(①マトリクス組織)  ここまで基本的な2つの組織形態を紹介してきましたが、どちらもそれぞれのメリットとデメリットがあります。そこで2つの組織形態を組み合わせたような中間的な組織形態をとることで、両方のメリットを活かそうという組織形態もあります。ここでは2つの組織形態について紹介していきます。  職能別組織と事業部制組織は、それぞれ職能と製品や地域などの事業単位を軸として部門化がされている組織です。マトリクス組織は、こ

経営組織論と『経営の技法』#93

CHAPTER 4.3.1:職能別組織と事業部制組織  職能別組織は、部門化が職能あるいは機能によってなされる組織形態のことを呼びます。機能別組織と呼ばれることもあります。  たとえば製造業であれば、図4-3にあるように、まずライン部門は、研究開発部門と生産部門に分かれ、前者が新製品の開発などを行い、後者が製品の生産を行うことになります。そして、それを販売するのが販売部門となります。もしこの企業がいくつかの製品群を持つのであれば、各部門の下にそれぞれの製品群が置かれます。た

経営組織論と『経営の技法』#92

CHAPTER 4.3:基本の組織設計――機能別組織と事業部制組織 では、具体的な組織設計の形を見ていくことにしましょう。最も単純な組織構造はリーダーが1人いて、あとはみなリーダーの下にいるような単純構造と呼ばれる組織構造です。原初的な組織設計ですから、私たちが友人たちと共同作業をするときなども、このような組織で行うことは少なくありません。また、一般の経営組織に関していえば、設立当初のベンチャー企業などに見ることができます。  単純構造の組織においては、部門化の程度は低く、権

経営組織論と『経営の技法』#91

CHAPTER 4.2.3:分権と集権  さて、組織を設計するうえで、考えなければならない点の1つに、「意思決定をどの階層に任せるか」 という問題があります。権限は必ずしも高い層に置く必要はありません。高い層に意思決定の権限が集中する状態を集権といい、反対に低い層に意思決定を委ねている状態を分権と呼びます。  たとえば、カリスマ創業者がいる企業などでは、多くの意思決定がこの創業者によってなされるような集権構造であることが多いですが、企業規模が大きくなってくると、すべての意思決

経営組織論と『経営の技法』#90

CHAPTER 4.2.2 Column:アストン研究  初期の組織論ではどのように組織を理解することができるか、さまざまな研究がなされてきました。そのうちの1つにイギリスのアストン大学のデレック・ピューらを中心としたアストン研究があります。  アストン研究はさまざまな組織に対する調査研究を行いましたが、そのうちの1つの成果が、社会心理学のアプローチを用いて組織のフォーマルな構造を理解しようと試みたことです。  ピューらはまず組織構造を6つの構造に分けて分析を行いました。それ

経営組織論と『経営の技法』#89

CHAPTER 4.2.2:権限と権力  組織の規模や複雑化が進むにつれ、権限と権力(影轡力)の関係は一致しなくなることがあります。つまり、権限がなくても権力がある人、権限があっても権力がない人が現れてくるのです。ここまで説明してきたように、権限はその権限を持つ人の組織内での地位に基づいています。つまり、権限はその人の仕事に伴うものといえます。一方、権力とは、さまざまな意思決定に対してその人が及ぼす影轡力を指します。もちろん、権限は意思決定に対する影響力にかかわりますから、権

経営組織論と『経営の技法』#88

CHAPTER 4.2.1:ライン権限とスタッフ権限  もう少し権限の話を詳しくしていきます。組織における権限には、大きく分けてライン権限とスタッフ権限の2つがあります。  ライン権限とはここまで話してきたような、上位層に与えられる、下位層の仕事を管理する権限のことを指します。「部長→課長→係長→主任→平社員」というような権限関係は典型的なライン権限の関係です。  このときに重要なことは、指示命令関係が一元化していることです。ある人が、2人の上司から指示命令を受ける関係にある

経営組織論と『経営の技法』#87

経営組織論と『経営の技法』#87 CHAPTER 4.2:権限と責任  今度は組織図のタテの関係に注目しましょう。分業や階層といった組織図は、権限と責任を規定します。組織図は、情報や指示の伝わる経路を示すだけでなく、併せて組織の上層から下層へとつながる権限の経路を示すものでもあります。ここでいう権限とは、命令を与え、その命令が実行されることを期待する管理職のポストに固有の権利のことです。  ただし、この権限はポストに付与されるものであって、人に付与されるものではありません。

経営組織論と『経営の技法』#86

CHAPTER 4.1.2:部門横断的組織  しかしながら、どのように部門化したとしても必ず起こるのは、部門横断的な問題です。近年、製品やサービス、あるいは市場が複雑化することに伴って、ビジネスで起こる問題は複雑であることが少なくありません。ここでいう複雑とは、多くの部門にまたがって解決をしなくてはならないという意味です。もちろん、さまざまな部門化は、なるべく部門横断的な問題が起こらないようにすることで、問題解決をするのに効率的であることを考えてなされていますが、だからといっ