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鈴木竜太教授の経営組織論を読む

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「法と経営学」の観点から、「経営組織論」を勉強します。テキストは、鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)です。教授にご了解いただき、同書で示された経営組織…
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2020年6月の記事一覧

経営組織論と『経営の技法』#69

CHAPTER 3.3.1 Column:MUJIGRAM  この章で紹介したようなマニュアルや規則による管理はもう古いのではないか、と考える人もいると思います。確かに、経営環境の変化のスピードが増す中で、それに対応してマニュアルや規則をいちいち作成している場合ではありません。それよりも従業員の力量を信じて、柔軟に現場レベルで対応してもらう考え方のほうが組織としてはふさわしいと考えられます。しかし、反対にマニュアルを徹底することで業績をあげた組織があります。それが良品計画です

経営組織論と『経営の技法』#68

CHAPTER 3.3.1:科学的管理法の 4つの原理  科学的管理法の1つ目の原理は、作業を科学的に発達させることです。それまでの管理方法は、労働者任せの恣意的な成り行きによる管理の仕方でした。官僚制がそれを排除しようとしたように、仕事はそれを担当する人々によって、そのやり方ややるべきことが異なり、「精進と奨励」によっての管理でした。  ですから、前向きな人は生産性や能率が上がるように工夫をしながら 自分の腕を上げていきますが、そうでない人はまさに最低限の仕事しかしないよう

経営組織論と『経営の技法』#67

CHAPTER 3.3:科学的管理法 ―― 良い方法を分析し共有する  もう1つの合理的な組織のモデルとして科学的管理法を紹介します。科学的管理法と名づけられているように、これは組織のあり方というよりは、管理のあり方ということができるかもしれません。  18世紀初めにアメリカで科学的管理法を提唱したフレデリックW・テイラーは、まず組織にとっての利益は、そこで働く組織メンバーにとっても利益であると考えることが重要であると考えました。そうでなければ、第2節で説明したような 官僚制

経営組織論と『経営の技法』#66

CHAPTER 3.2:官僚制の逆機能  組織において制度や仕組みは、組織目標に直接的あるいは間接的に貢献する成果をもたらすことをねらっています。しかし、そのように設計された制度や仕組みが、時に組織目標の達成を妨げてしまうことがあります。これを逆機能と呼びます。  ここまで説明してきたように官僚制は、組織目標を永続的に果たしていくために合理的に考えられた組織であり、そのためにいくつかの特徴を有しています。しかし、これらの特徴が組織目標の達成を妨げてしまうことが少なくありません

経営組織論と『経営の技法』#65

CHAPTER 3.1.3:官僚制組織のまとめ(「専門能力と年功に基づくキャリア形成」の最後の部分)  改めて官僚制の特徴を整理すると、専門化された職務とヒエラルキーによって設計がなされていること、そして個性や人格を職務から分離するためにルールの重視、非個人化、文書主義が行われます。さらに組織活動を安定して行うために専門能力と固定給によるキャリア形成が行われています。  このような特徴を通して、官僚制は永続的で機械のような正確な組織活動を行うことが可能になっているわけです。も

経営組織論と『経営の技法』#64

CHAPTER 3.1.3:専門能力と年功に基づくキャリア形成  最後の2つの特徴は、専門能力と年功に基づくキャリア形成です。官僚制では、報酬はその専門能力と年功に基づいて固定給で払われることになります。これは、官僚制の特 徴として挙げた専門化された職務を行うためには専門能力の養成と職務の専従者としての能力の発揮が求められるからです。  そのために、官僚制では専門能力を十分に習得できる能力と組織内部での専門的訓練が特徴として挙げられます。公務員試験が行われるのは、決して採用す

経営組織論と『経営の技法』#63

CHAPTER 3.1.2:個性や人格の分離―規則による行動、非個人性、文書主義  権限のヒエラルキーにおいてもそうでしたが、官僚制では個人としての人格と組織としての人格を明確に分離します。官僚制の根本には、特定の個人の力に頼ることによって組織の永続性が失われるということがあるので、能力としての専門性は重視しますが、その人の個人的背景や人格は組織の中に入らないように考えています。そのことの反映とし て、ルールに基づく個人行動と職務遂行における非個人性、そして文書主義という特徴

経営組織論と『経営の技法』#62

CHAPTER 3.1.1:官僚制組織の基本設計―専門化とヒエラルキー  官僚制の特徴としての専門化とは、官僚制では仕事が明確に分業化されて、行わなければならない仕事が専門化、つまり専門的訓練を前提とした仕事になっていることを指します。そのために官僚制組織に参加する者は、何かしらの専門化された仕事を持ち、その仕事を専業としている必要があります。また、専門化されているということは、誰がその仕事をするのかが明確に定まっているといえます。  そして明確に分業化された仕事は、権限のヒ

経営組織論と『経営の技法』#61

CHAPTER 3.1:官僚制組織 ―永続性を持つ精密な機械  第1節と第2節では2つの組織のあり方を紹介します。両者に共通するのは、ここまで説明してきた設計の考え方に準じて、きわめて合理的に設計、管理することを考えた組織のあり方です。  まずこの節では、官僚制組織を取り上げます。官僚制組織は、20世紀初頭に活躍したドイツの社会学者のマックス・ウェーバーによって示された組織のあり方です。彼は古代中国や古代ローマなど、さまざまな政治形態を研究した結果、最も理想的な組織として官僚

経営組織論と『経営の技法』#60

CHAPTER 3:組織を動かすメカニズム  時計を設計し、さまざまな部品をその設計図どおりにはめ込んでも時計は動きません。時計を動かすためには動力が必要になります。組織も同様に、組織目標を達成するのに必要な活動を分析し、それをつなぎ合わせただけでは組織は動きません。そのためには動かす力が必要になります。基本的な組織設計とそれを動かす力があって組織は目標の達成に向かって動いていきます。  この章では、まず、合理的な仕組みとして組織を考えた2つの古典的な組織の考え方について紹介

経営組織論と『経営の技法』#59

CHAPTER 2.3.3:事前と事後の調整の考え方  最後に、事前と事後の調整についてどのようにバランスを取るかについて考えていきます。もし事前の調整が完璧にできるのであれば、事後の調整を考える必要はありません。反対にどのような想定外のことが起こっても、事後の調整で十分に効率良く対処できるのであれば、事前の調整の必要性はないかもしれません。  このことを考えるうえで重要になるのは、自分たちの組織活動の予測可能性です。自分たちの組織活動において起こりうる出来事が十分に予測でき

経営組織論と『経営の技法』#58

CHAPTER 2.3.2:事後の調整としての階層の設計・Colomn「ファヨールと管理の考え方」  アンリ・ファヨールは、フレデリック・テイラーと並んで経営管理論や組織論の祖となる1人です。ファヨールは、1841年に生まれ、鉱山のエンジニアとして教育を受け、エンジニアとして仕事をした後、30代後半から鉱山の会社の管理を行った人物です。テイラーと同様、彼は純粋な学者ではありませんでしたが、自身の経験に基づき、1916年に『産業ならびに一般の管理』という本を著しました。この著作

経営組織論と『経営の技法』#57

CHAPTER 2.3.2:事後の調整としての階層の設計・部門化  さて、管理の幅が決まっても、誰と誰を同じ調整役の人の下で分業させるかを考えなければなりません。これが部門化の考え方です。調整における部門化の基本的な考え方は、相互依存的に働いている人ほど同じ調整役の下で分業させる必要があるということです。  なぜなら、相互依存的に働いている人同士ほど調整が必要になり、そのときにより階層の上に上がらないと調整ができないとすると、スムーズな分業による組織活動ができなくなるからです

経営組織論と『経営の技法』#56

CHAPTER 2.3.2:事後の調整としての階層の設計・管理の幅  分業における事後の調整役としての階層を決めるには大きく2つの要素があります。1つが管理の幅、もう1つは部門化です。  管理の幅とは、1人の人が何人を管理するかということです。つまり何人の仕事の想定外の出来事に関して調整をする仕事を行うかということになります。管理の幅が広がれば、1人当たりの調整の仕事は増えることになります。ですから、あまり管理の幅を広げてしまうと、調整の仕事が滞ってしまうことも考えられます。