マガジンのカバー画像

鈴木竜太教授の経営組織論を読む

348
「法と経営学」の観点から、「経営組織論」を勉強します。テキストは、鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)です。教授にご了解いただき、同書で示された経営組織…
運営しているクリエイター

2020年5月の記事一覧

経営組織論と『経営の技法』#39

CHAPTER 2.2.3:水平分業のメリット・熟練形成の推進  また、機能別に分業されサブタスクに分かれていることは、熟練を形成するうえでもメリットとなります。英語と数学どちらかだけを教える人は、英語と数学の双方を教える人に比べてそれぞれを教える技能が習熟するスピードは一般的に速くなります。習熟ならびに熟練の形成においても、機能別分業にはそのスピードを上げる点でメリットがあるのです。 【出展:『初めての経営学 経営組織論』32頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

経営組織論と『経営の技法』#38

CHAPTER 2.2.3:水平分業のメリット・人的資源の活用  次に、機能別分業のメリットについて考えましょう。機能別分業は、1つの仕事を機能別に複数のサブタスクへと分け、それぞれのサブタスクの成果を合わせることで1つの仕事を成し遂げます。そのため必要とされるスキルや知識は、1つの仕事を1人で行うよりも少なくなります。このことによって人的資源を有効に活用することができます。  たとえば、学習塾で英語と数学を教える人を雇いたい場合、英語と数学の両方を教えることができる人を2人

経営組織論と『経営の技法』#37

CHAPTER 2.2.3:水平分業のメリット・共通費の節約  まず、並行分業が持つメリットとして共通費の節約が挙げられます。これは、分業を行うことで、本来はそれぞれの仕事で必要になる資源を共同利用することで節約できることを意味します。たとえば、コンビニチェーンは全国にありますが、商品を店舗ごとではなくチェーンで開発して各店舗に置くことで開発の費用が節約できます。あるいは、一店で仕入れることで、各店舗がそれぞれ仕入れるよりも安く仕入れることができます。また、レストランの支店な

経営組織論と『経営の技法』#36

CHAPTER 2.2.3:水平分業のメリット  では、それぞれの分業のタイプのメリットとデメリットを考えることにしましょう。実は、水平分業の中でも並行分業と機能別分業では機能別分業のほうが多くの分業のメリットがあります。それは、並行分業が分業していても実際は同じ作業を同時に行っているだけであり、それぞれは独立して仕事をしていることが多くなるためです。  水平分業のメリットとしては、共通費の節約、人的資源の活用、熟練形成の推進、機械や道具の進歩の4つが挙げられます。 【出展:

経営組織論と『経営の技法』#35

CHAPTER 2.2.2:分業のタイプ  ここまで分業のタイプについて述べてきましたが、改めて分業についてまとめてみると、図2-1のようになります。  この図からわかるように、これまで説明してきた分業のタイプは、完成物に対してそれぞれの分業の仕事がどのように結びつくのかという点と、それぞれの作業が工程上どのように置かれるかという点から分けることができます。  それぞれの分業の仕事がどのように結びつくのかという点に関しては、それぞれが加算的な類型か機能的な統合かによって分け

経営組織論と『経営の技法』#34

CHAPTER 2.2.1:水平分業と垂直分業  さて、私たちが1人では手に負えないような仕事を任されたとき、あるいは複数の人とある目標を達成しようとしたとき、どのように仕事を分けることができるでしょうか。その仕事の内容にもよりますが、大きく分けると、仕事の分け方にはヨコに分けるか、タテに分けるかの2つの考え方があります。ヨコ方向の分け方は水平分業、タテ方向の分け方は垂直分業と呼ばれます。  たとえば、6人で120人分のカレーライスを作ることを考えましょう。まずヨコに分けるこ

経営組織論と『経営の技法』#33

CHAPTER 2.2:組織における分業の基本構造  共通の組織の目標を立てれば、それに向かって参加者が自律的に行動し、それが成果につながるのであれば、これほど簡単なことはありません。しかし、実際にはそうはいかず、たとえ共通の目標を認識していても、個人がそれぞれ勝手に行動してしまえば、目標の達成はきわめて非効率なものになります。  そのために、組織設計をするということが求められてきます。組織設計をするうえでの基本的な設計原理は、分業と調整です。この節では分業と調整の基本原理に

経営組織論と『経営の技法』#32

CHAPTER 2.1.3:組織の目標  組織は協働のシステムですが、それは特定の目標のために行われるものです。組織を作る目的から考えれば、組織によって実現したい目標があるために人々は組織を作るわけです。この目標がなければ人々は協働ができませんし、そもそも協働しようという意欲が出てきません。しかし目標があっても、それだけで十分ではなく、次のような点も考えなければなりません。  1つ目は、組織の目標は組織のメンバーである個人によって理解されるだけでなく、受容されていなくてはいけ

経営組織論と『経営の技法』#31

CHAPTER 2.1.2:市場か組織か  人々が協力して何かを作るためには、必ずしも組織を作る必要はありません。市場を使って大きな付加価値を得ることも可能なはずです。市場メカニズムが働くのであれば、わざわざ組織を作らずとも、取引を通して付加価値を生むことができるはずです。たとえば、ケチャップを作っている企業には、農家などからトマトを購入して仕入れている企業と、自分たちでトマトを栽培している企業があります。食材の仕入れと調理の関係でいえば、前者は市場により、後者は組織によって

経営組織論と『経営の技法』#30

CHAPTER 2.1.1:組織を作る目的  組織を作る目的は、何より1人ではできないことが組織を作ることで可能になるからです。1人では持ち上げられない道路を邪魔する岩を、何人もの人が協力することで除くことができます。  また、もう少し学問的にいえば、1人では作ることができないような付加価値を組織によって作ることができます。つまり組織を作る理由は、この付加価値を大きくすることができるからです。  付加価値とは、組織あるいは個人が新たに生み出した価値のことで、たとえば原材料に何

経営組織論と『経営の技法』#29

CHAPTER 2:組織は何のために作られるのか  私たちの社会には数多くの組織があります。それらの組織は、それぞれ目標(ゴール)を持っています。つまり、目標を達成するために組織を作るのです。では、なぜ私たちは組織を作って目標を達成するのか、組織を作る目的について触れたうえで、それぞれの組織が持つ目標について考えていくことにします。 【出展:『初めての経営学 経営組織論』23頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】  この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村

経営組織論と『経営の技法』#28

CHAPTER 2:組織を動かす基本設計  組織の力を用いて何ごとかを成し遂げようと考えるのであれば、組織とは何かばかりを考えていても進みません。まずは組織を作るところから始めなければならないでしょう。  この章では、組織を作るうえでの基本設計について考えたいと思います。第1章で、組織とは何かという問いかけから組織の定義について話しました。そこでは、組織とは「2人以上の人々による、意識的に調整された諸活動、諸力の体系(システム)」と定義しました。  しかしながら、定義だけでは

経営組織論と『経営の技法』#27

CHAPTER 1.4.2:調整の及ぶ範囲としての境界  さて、より私たちの実感に近い組織の境界として、調整の及ぶ範囲としての境界という考え方を紹介することにしましょう。  組織の定義では意識的に調整された人間の諸活動や諸力の体系を組織と呼ぶのですから、意識的に調整できる人が組織のメンバーで、そうでない人との間に境界を置こうというわけです。  では、意識的に調整できる人にはどのような人が含まれることになるでしょうか。先の定義では、投資家、労働者、顧客、そして供給業者が組織の境

経営組織論と『経営の技法』#26

CHAPTER 1.4.1:ドメインとしての境界  そこで、第1の境界は、組織を成り立たせている行動とその行動にかかわる参加者を組織の境界とする考え方です。この参加者は何らかの貢献を組織(組織目標)に対して行いますが、一方で組織は貢献を引き出すための誘因(インセンティブ)をそれぞれの参加者に対して持つことになります。  つまり、誘因があるから参加者は貢献するわけです。このような組織に対して誘因を持ち、貢献をする参加者を含む境界をドメインによる境界と呼びます。ドメインとは範囲や