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労働判例を読む

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2021年2月の記事一覧

労働判例を読む#233

【P興産元従業員事件】大阪高裁R2.1.24判決(労判1228.87) (2021.2.26初掲載)  この事案は、会社Xに対して仕事で与えた不利益の賠償を約束させられた元従業員Yが、Xから賠償を求められた事案で、1審はXの請求を認めましたが、2審は逆にXの請求を否定しました。 1.合意の有効性  この事案では、Yの「自由意思」の存否が問題となりました。  これは、明確に定義されていませんが、山梨県民信組事件(最判H28.2.19労判1136.6)で示された判断枠組み

労働判例を読む#232

【アルゴグラフィックス事件】東京地裁R2.3.25判決(労判1228.63) (2021.2.25初掲載)  この事案は、54歳で死亡した従業員Kの遺族Xら(Kの妻と子)が、会社Yに対し、過労死に基づく損害賠償を請求した事案です。先行する労災申請手続きでは、労災が認定されましたが、Yの民事上の損害賠償責任について、Yは責任がないと主張しました。裁判所は、Xらの請求を概ね認めました。 1.相当因果関係  Xらの請求が認められるための要件のうち、1つ目の問題は相当因果関係で

労働判例を読む#51

【ベルコ事件】札幌地裁平30.9.28判決(労判1188.5) (2019.3.21初掲載) この裁判例は、互助会員の募集等を行う会社Yの代理店として業務を行っていたAに、代理店従業員として採用された2名のXが、Yの従業員であること(XY間に労働契約があること)の確認などを求めた事件について、XY間の労働契約を否定しました。  特に問題となる条文は、会社法14条です。 (ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人) 第十四条 事業に関するある種類又は特定の事項の委任

労働判例を読む#231

【日の丸交通足立事件】東京地裁R2.5.22判決(労判1228.54) (2021.2.19初掲載)  この事案は、67歳を定年とするタクシー会社Yで、定年後の嘱託雇用の69歳の運転手Xが、軽微な交通事故を起こし、直ちにこれを報告しなかったことなどから更新拒絶された事案で、裁判所は更新拒絶を無効とし、Xの労働者としての地位を認めました。 1.判断枠組み  裁判所は、労契法19条2号を問題にし、更新の期待の有無は、「当該雇用の①臨時性、②常用性、③更新の回数、④雇用の通算

労働判例を読む#230

【日本貨物検数協会(日興サービス)事件】名古屋地裁R2.7.20判決(労判1228.33) (2021.2.18初掲載)  この事案は、派遣社員Xらが、派遣先の会社Yに対し、これがいわゆる「偽装請負」であるとして、労働者派遣法40条の6の1項5号に基づく労働契約の申込みがみなされると主張し、これに対する承諾を前提に労働契約の成立を主張したものです。  裁判所は、「偽装請負」終了から1年内にXらの承諾がなかったとして、Xらの請求を否定しました。 1.派遣法40条の6 

労働判例を読む#50

【東京商工会議所(給与規定変更)事件】東京地裁平29.5.8判決(労判1187.70) (2019.3.15初掲載) この裁判例は、年功序列型の賃金体系から成果主義型の賃金体系に変更した結果、給与減額となった従業員が、給与規定の変更の無効を主張したところ、この主張を退け、給与規定の変更を有効と判断しました。 1.そもそも変更して良いのか 従業員側は、①会社が苦境に陥っているわけではなく、②現行の賃金規程で実害が発生しているわけでもなく、③人件費抑制が目的であって

労働判例を読む#229

【バンダイ事件】東京地裁R2.3.6判決(労判1227.102) (2021.2.12初掲載)  この事案は、アルバイト・パート・準社員として、12年14回、契約更新してきた有期契約社員Xが、会社Yによる更新拒絶を無効と主張した事案で、裁判所は、更新拒絶を有効としました。 1.労契法19条 (有期労働契約の更新等) 第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約

労働判例を読む#228

【国・中労委(国際基督教大学)事件】東京高裁R2.6.10判決(労判1227.72) (2021.2.11初掲載)  この事案は、大学Kに派遣されていた警備員Aに対し、Kの女性職員を食事に誘うなどの批判があったことから派遣会社がYを解雇した事案で、Aの所属する組合Xが、Kに対して団体交渉を求めたにも関わらずこれに応じなかったことが不当労働行為に該当すると争った事案です。Xは、Kが団体交渉の相手方たる使用者に該当する、などと主張しましたが、都労委、中労委Y、1審、2審いずれも

労働判例を読む#49

【森町・町長ほか事件】函館地裁平30.2.2判決(労判1187.54) (2019.3.8初掲載) この裁判例は、経費や出張費をごまかした公務員に対する停職処分の有効性が争われた事案で、停職処分を有効と判断しました。 1.官僚の労働法の特徴 民間企業で、従業員にとって不利な処分の有効性が争われた場合、例えば解雇が顕著ですが、会社の側が処分の合理性を主張立証すべき負担を事実上負うことになります(労契法22条1項参照)。 他方、公務員の場合には、行政庁の処分行為と

労働判例を読む#227

【フジ住宅ほか事件】大阪地裁堺支部R2.7.2判決(労判1227.38) (2021.2.5初掲載)  この事案は、会社Yの経営者が、①右翼的排他的な内容の配布物の配布、②イベント参加の勧誘、③Xによる本件訴訟提起を非難する配布物の配布、を行ったため、これに不満を持つ在日外国人の従業員Xが、差別などを理由に損害賠償を請求した事案です。裁判所は、Xの請求を概ね認めました。 1.労基法3条 (均等待遇) 第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金

労働判例を読む#226

【加古川市事件】最高裁三小H30.11.6判決(労判1227.21) (2021.2.4初掲載)  この事案は、市役所Yの職員Xが、行きつけのコンビニ店員にセクハラをしたことなどを理由に停職6か月の処分を受け、Xが処分の取り消しを求めた事案です。  1審・2審はXの請求を認め、Yの処分を取り消しましたが、最高裁は、Xの請求を否定し、Yの処分を有効としました(確定)。 1.私生活上の非行  原則として、従業員による職場を離れた私生活上での非行に関し、会社は責任を負わず、

労働判例を読む#48

【神奈川SR経営労務センター事件】横浜地裁平30.5.10判決(労判1187.39) (2019.3.1初掲載) この裁判例は、メンタルの病気による休職からの復職申請をした2名の従業員に対し、会社側は、従前の職務に復帰することは不可能と判断したため、2名の従業員は休職期間満了による自然退職となった事案に対し、従業員側の主張を概ね認め、労働契約上の地位の存在確認と給与などの支払命令をしたものです。 1.主治医対産業医 本事案で、裁判所は、一方で主治医側の診断書の信用性