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労働判例を読む

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2021年1月の記事一覧

労働判例を読む#225

【加賀金属事件】大阪地裁R2.1.24判決(労判1226.84) (2021.1.29初掲載)  この事案は、従業員Xが会社Yの①役員となり、②常務取締役となっていく過程で、いつ、従業員性が無くなったのかが問題となった事案です。すなわち、解雇の有効性、残業代、退職金、に関し、仮にXに従業員性が認められれば、解雇は無効で従前の地位にあることが認められるでしょうし、所定の残業代や退職金が支払われることになるでしょう。  裁判所は、①役員となった段階では、従業員性が無くならない

労働判例を読む#224

【日本電産トーソク事件】東京地裁R2.2.19判決(労判1226.72) (2021.1.28初掲載)  この事案は、採用から諭旨解雇・普通解雇されるまでの6年弱の間に6つの部門に配属され、それぞれで問題行動を起こしてきた元従業員Xが、諭旨解雇・普通解雇を無効と主張した事案で、裁判所は、諭旨解雇を無効としつつ、普通解雇を有効としました。 1.諭旨解雇  諭旨解雇に関し、裁判所は、懲戒解雇と同様、相当性を厳格に判断する(労契法15条)という解釈を示しました。諭旨解雇も、懲

労働判例を読む#223

【学校法人信愛学園事件】横浜地裁R2.2.27判決(労判1226.57) (2021.1.27初掲載)  この事案は、有期契約が8回更新されて通算9年間、法人Yが経営する幼稚園の園長だったXが契約更新拒絶された事案で、裁判所は更新拒絶を無効としました。 1.労働者性  Xは、Yの理事・評議員でもあり、会社で言えば取締役に相当する立場にあると言えるのでしょうか、YはXとの契約が雇用契約ではなく準委任契約であると主張し、労契法の適用に反対しています。  ここで、役員であっ

労働判例を読む#222

【ザニドム事件】札幌地裁苫小牧支部R2.3.11判決(労判1226.44) (2021.1.22初掲載)  この事案は、元送迎バスの運転手Xが、会社Yを退社後、未払いの残業代などの支払いを求めた事案で、裁判所は、Xの請求をほとんど否定しました。 1.労働時間  裁判所は、日報をベースに、待機時間(休憩時間)、点検業務、車内清掃業務、洗車業務、給油業務、修理業務などについて、実際に指揮命令下にあったかどうか、実際に業務を行った日時が特定できるかどうか、等を一つひとつ丁寧に

労働判例を読む#221

【社会福祉法人ネット事件】東京地裁立川支部R2.3.13判決(労判1226.36) (2021.1.21初掲載)  この事案は、定年延長に関し、理事会承認が必要とされている会社Yで、理事会承認が無いまま定年後も従前どおり勤務してきた従業員Xが、定年から約10年後の理事会決議により定年延長を承認しない、との決議がなされ、失職した事案です。裁判所は、Xが従業員としての地位を有することなどを確認しました。 1.定年延長  理論的には、10年後の理事会決議で定年延長が否決された

労働判例を読む#220

【博報堂(雇止め)事件】福岡地裁R2.3.17判決(労判1226.23) (2021.1.20初掲載)  この事案は、有期契約社員として30年近く勤務してきた事務系契約社員Xが、5年を超える有期契約が無期契約に転換される制度導入の際、5年目の更新を拒絶された事案で、裁判所は、Xが会社Yの有期契約社員であることを認めました。 1.退職合意  最初の論点は、退職合意の成否です。  裁判所は、Xが更新しないことが明示された契約書に数回署名押印しており、「そのような記載の意味

労働判例を読む#219

【東京キタイチ事件】札幌高裁R2.4.15判決(労判1226.5) (2020.1.15初掲載)  この事案は、タラコの計測・パック詰め・運搬などを行う作業員Xが、作業中にバランスを崩してザルを受け止めようとして小指を痛め、業務遂行できずに休業していました。約2年半、複数回手術をするなどして、小指の機能が戻らなくなった状態で、復職を希望し、会社Yと話し合いを行い、Yは掃除部への配属を示しましたが、Xは従前の業務を希望しました。Yは、小指の機能は回復しない、という趣旨の医師

労働判例を読む#218

【地方独立行政法人山口県立病院機構事件】山口地裁R2.2.19判決(労判1225.91) (2021.1.14初掲載)  この事案は、有期契約社員として10年以上勤務してきた看護師Xが、5年を超える有期契約が無期契約に転換される制度導入の際、5年目の更新を拒絶された事案で、裁判所は、Xが病院Yの有期契約社員であることを認めました。 1.雇止めの有効性  裁判所は、まず、労契法19条の更新の期待がある、と判断しました。  これは、5年を更新の上限とする規定が雇用契約に入

労働判例を読む#47

【ケンタープライズ事件】名古屋高裁平30.4.18判決(労判1186.20) (2019.2.22初掲載) この事件で、二審は、居酒屋の店長として働いていたが、管理監督者に該当しない元従業員について、役職手当がいわゆる固定残業代に該当しない、として、時間外手当と付加金の支払いを命じました。一審と二審で判断が異なる部分もあり、論点は多岐に亘りますが、ここでは、以下の点について検討します。 1.勤務時間 この事件では、業務開始時間、休憩時間、業務終了時間の認定が問題

労働判例を読む#217

【木の花ホームほか1社事件】宇都宮地裁R2.2.19判決(労判1225.57) (2021.1.8初掲載)  この事案は、幹部社員として期待されて中途採用された社員Xが、会社(関連会社内での転籍がありますが、この経緯は省略します)Yでは能力などが評価されず、減給やパワハラ等を受けたため、未払の給与やメンタル疾患の損害賠償の支払いを求めた事案で、裁判所はXの請求を概ね認容しました。 1.減給  減給の合理性について、裁判所は山梨県民信組事件(最判H28.2.19労判113

労働判例を読む#216

【池一菜果園ほか事件】高知地裁R2.2.28判決(労判1225.25) (2021.1.7初掲載)  この事案は、長らく勤務してきた従業員Kが、経営者に叱責されたことにショックを受け、自殺したことについて、遺族Xが会社Yの責任を追及し、裁判所がこれを肯定した事案です。 1.労働時間  近時、労基法上の労働時間と労安法上の労働時間は算定基準が違うのではないか、などと指摘されていますが、この事案はその指摘を先取りした事案と言えます。例えば、出張の際の移動時間について、書類

労働判例を読む#46

【日本ケミカル事件】最高裁一小平30.7.19判決(労判1186.5) (2019.2.20初掲載) この事件は、基本給の他に業務手当が支払われていた薬剤師に関し、(雇用)契約書に「月額562,500円(残業手当含む)」「給与明細表示(月額給与461,500円 業務手当101,000円)」と記載され、採用条件確認書に「月額給与 461,500」「業務手当 101,000 みなし時間外手当」「時間外勤務手当の取り扱い 年収に見込み残業代を含む」「時間外手当は、みなし残業時間

労働判例を読む#215

【社会福祉法人緑友会事件】東京地裁R2.3.4判決(労判1225.5) (2021.1.1初掲載)  この事案では、保育園Yの保育士Xが、園長Bと対立し、賛同する保育士と共に保護者も参加するようなYの重要な行事などで反抗的な対応をしていましたが、妊娠して産休育休を取得し、育休給付金も受領しました。Xの休職中、Xの仲間だった2人の保育士が退職しましたが、Xは休暇明けに復職する希望をXに伝えました。  これに対し、Yは、XがYの理事長と面談した際、退職合意がなされ、あるいは解