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労働判例を読む

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2020年11月の記事一覧

労働判例を読む#203

【北海道・道労委(札幌交通・新賃金協定)事件】札幌高裁R1.8.2判決(労判1222.117) (2020.11.27初掲載)  この事案は、タクシー会社Yに4つある組合のうち1つの組合に所属する従業員Xらが、賃金規程の改定に応じていない組合員Xらに対してだけ、旧賃金体系を適用し、協定外残業の禁止・公休出勤の要請なし・シフト変更不同意、などの対応を示したことが、不当労働行為(労組法7条1号)に該当する、と主張したものです。  裁判所は、Xらの主張を否定しました。 1.実務

労働判例を読む#202

【すみれ交通事件】横浜地裁R1.9.26判決(労判1222.104) (2020.11.26初掲載)  この事案は、タクシー運転手Xらが、タクシー会社Yに対して、有給取得を妨害した、更新拒絶や復職拒否は無効だ、などと主張した事案です。裁判所は、いずれも否定しました。  ここでは、有給取得の妨害の問題を中心に検討しましょう。 1.有給のルール  Xらの請求にも、相当な理由があります。  というのも、Yの有給のルールが非常に曖昧だからです。  これは、給与体系や人事体系その

労働判例を読む#43

【相鉄ホールディングス事件】横浜地裁平30.4.19判決(労判1185.5) (2019.2.1初掲載)  この裁判例は、相武鉄道の持ち株会社(親会社)から相武バス(子会社)に出向していたバス運転手らに対する、親会社への復職命令が違法であることを前提に、復職後に与えられた業務(トイレ掃除など)に従事する義務がないことや、損害賠償を求めた事案に対し、バス運転手らの請求を否定しました。  論点は多岐に亘りますが、特に、2つのポイントを検討します。 1.権利濫用  1つ目は、

労働判例を読む#201

【圓満院事件】大津地裁R1.10.3判決(労判1222.87) (2020.11.20初掲載)  この事案は、僧侶らXが、寺院Yを解雇されたところ、解雇が無効であり、従業員としての地位があることを求めた事案です。裁判所は、Xの請求を認めました。  たくさんの論点がありますが、ここでは、解雇の効力について検討しましょう。 1.解雇の有効性  Xが解雇されたのは、Yの改革を呼びかける活動の発起人として案内文を配布したことに端を発しています。  とは言うものの、案内文配布後、

労働判例を読む#200

【みんなで伊勢を良くし本気で日本と世界を変える人たちが集まる事件】名古屋高裁R1.10.25判決(労判1222.71) (2020.11.19初掲載)  この事案は、忍者村などのテーマパークを運営する会社Yに採用された原告らXが、不当に解雇されたとして、従業員としての地位確認や給与の支払いを求めた事案です。裁判所は、従業員としての地位を認め、給与などの支払いも一部認めました。  ここでは、解雇の効力について検討しましょう。 1.解雇の有効性  裁判所は、一方で、Xのうち

労働判例を読む#42

【東京エムケイ(未払賃金等)事件】東京地裁平29.5.15判決(労判1184.50) (2019.1.31初掲載)  タクシー業界では、一度の乗車勤務時間が長時間に及ぶことがあり、そこでさらに残業をさせてしまうと、運転手の健康問題や、道路交通秩序の安全の問題(要は、危険運転のリスク)が生じますので、多くのタクシー会社で、運転手に残業をさせないための様々な方策が導入されています。  他方、労基法37条は、残業代の割増支払を課すことで、使用者が残業させることを控えるだろう、と

労働判例を読む#199

【北海道二十一世紀総合研究所ほか事件】札幌高裁R1.12.19判決(労判1222.49) (2020.11.13初掲載)  この事案は、シンクタンクYの研究員Xが、うつ病に罹患して休職をし、復職後給与などが半額に減らされ、復職7年後に再度休職した事案です。  労働基準監督署は、うつ病の罹患について、労災認定しています。  次に1審は、うつ病の罹患についてYの責任を否定しつつ、復職後の給与の減額や退職強要についてYの責任を肯定しました。  これに対して2審は、うつ病の罹患だけ

労働判例を読む#198

【社会福祉法人青い鳥事件】横浜地裁R2.2.13判決(労判1222.38) (2020.11.12初掲載)  この事案は、社会福祉士の資格を有し、障害者の就労支援センターYで、有期労働契約者として働くXが、産休育休に関し、「同一労働同一賃金」のルールに反し、無期契約社員よりも不利な取り扱いを受けた、と争った事案です。  裁判所は、Xの主張を否定しました。 1.判断枠組み(ルール)  裁判所は、判断枠組みを明確に示していませんが、「同一労働同一賃金」に関する一般的な判断枠

労働判例を読む#41

【東京港運送事件】東京地裁平29.5.19判決(労判1184.37) (2019.1.25初掲載)  この裁判例は、労働契約書も作成せず、当初の約束どおりの給料も支払わず、多い月の総労働時間が330時間を超え、過労による交通事故の責任を従業員の責任として逆に損害賠償責任を追及するなど、いわゆる「ブラック企業」の典型のような会社に対する、トラック配送担当者の未払賃金等の請求を認容し、さらに付加金の支払いも命じました。請求は認容されて当然なものばかりです。  ここでは、技術的に

労働判例を読む#197

【学校法人日本学園事件】東京地裁R2.2.26判決(労判1222.28) (2020.11.6初掲載)  この事案は、中高学校Yの職員Xが、事務職員から用務員として営繕業務を担当することになった人事異動に関し、人事権の濫用であり無効、と主張した事案です。裁判所は、Xの請求を否定し、Yの人事異動を有効としました。 1.判断枠組み(ルール)  裁判所は、人事権の濫用が認められる場合の判断枠組みとして、①業務上の必要性が無い場合、②(必要性があっても)不当な動機・目的の場合、

労働判例を読む#196

【豊和事件】大阪地裁R2.3.4判決(労判1222.5) (2020.11.5初掲載)  この事案は、うつ病が過重労働によって発生した、と主張する元従業員Xが、会社Yの責任を追及した事案です。労基署も労災認定していますが、裁判所はYの民事責任も認めました。  なお、裁判手続きでは固定残業代の合意が成立していたかどうか(結論として、否定されています)も議論されていますが、ここではYの健康配慮義務違反の問題に限定して検討します。 1.業務の過重性  本判決で特に注目されるの

労働判例を読む#40

【公益財団法人東京横浜独逸学園事件】横浜地裁平29.11.28判決(労判1184.21) (2019.1.24初掲載)  この裁判例は、ドイツのカリキュラムに基づく教育を行うインターナショナルスクールで、第二外国語(HPや関連するデータを見る限り、おそらくフランス語)を指導する教員が、19年間12回更新された労働契約(1年契約10回、3年契約3回)の更新を拒絶され、これを不満とする教員の請求を認め、学園と教員の間の労働契約の存在を確認したものです。 1.19条1号と2号