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労働判例を読む

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2020年10月の記事一覧

労働判例を読む#195

【国立研究開発法人理化学研究所事件】東京高裁H30.10.24判決(労判1221.89) (2020.10.30初掲載)  この事案は、日本の研究所Yで使用され、研究者(当初)として約10年勤務するXが、日本で雇用継続されずに、中国の事務所長として雇用された事案です。Xは、Yの中国での雇用契約に関し、1年で更新しないこととしましたが、Yがこれに抵抗したことから、Xが雇用契約の不存在の確認などを求めて、日本で訴訟を提起しました。  裁判所は、日本の労働法が適用されるとして、日

労働判例を読む#39

【A住宅福祉協会理事らほか事件】東京地裁平30.3.29判決(労判1184.5) (2019.1.18初掲載)  この裁判例は、特定の従業員(被害者)に退職を強要するようなパワハラが繰り返された、との被害者の主張に対し、その一部を認容し、加害者2名についてそれぞれ40万円、使用者である協会について50万円の支払いを命じたものです。  ここでは、パワハラの認定についてポイントを指摘します。 1.検討対象  まず、検討対象です。  永年に及ぶ言動を全て一体とするのではなく、

労働判例を読む#38

【日本アイ・ビー・エム(解雇・第5)事件】東京地裁平29.9.14判決(労判1183.54) (2019.1.17初掲載)  この裁判例は、ロータスからIBMが事業譲渡を受けたことに伴って、ロータスから転籍してきた従業員が、Lotus Notes Domino等の障害について、顧客への技術的サポートを提供する業務などを担当していたところ、その勤務状況が芳しくないことを理由とする解雇について、①解雇は無効(したがって、雇用契約の存在を確認、賃金賞与の支払を命令)、②不当労働行

労働判例を読む#194

【学校法人近畿大学(勤続手当等)事件】大阪地裁H31.4.24判決(労判1221.67) (2020.10.23初掲載)  この事案は、勤続手当と共済掛金負担金の支給の有無・金額が変更されたことに関し、労働組合にH24・25に加入した原告Xらが、その変更の効力を争い、使用者である大学Yに対し、未払い分の支給を求めた事案です。  裁判所は、Xの前者の請求を否定しましたが、後者は肯定しました。 1.就業規則の変更  まず、H19.4.1付で、就業規則を変更し、勤続手当がH1

労働判例を読む#37

【凸版物流ほか1社事件】東京高裁平30.2.7判決(労判1183.39) (2019.1.11初掲載)  この裁判例は、日雇派遣労働者が仕事を得られなかったとして、派遣元と派遣先に損害賠償を求めた事案で、いくつかある請求のうち、日当の送金手数料の天引きと、別の派遣先を紹介しなかった点の2つについて、派遣元・派遣先の責任を認めたものです。  ここでは、前者の天引きと、否定された主張のうちの、本件日雇派遣の違法性に絞って検討しましょう。 1.送金手数料の天引き  問題は、特

労働判例を読む#36

【サニックス事件】広島地裁福山支部平30.2.22判決(労判1183.29) (2019.1.10初掲載)  この事件は、48歳で就職した従業員(171㎝、101.3㎏)が、新人研修プログラム(28名、平均年齢約45歳)での24㎞の歩行訓練等(計4回)により右足関節離断性骨軟骨炎等になったとして、損害賠償を求めた事案で、裁判所は、①不法行為責任を否定した一方で、②債務不履行責任を肯定しました。 1.①②の構造  ①不法行為責任も、②債務不履行責任も、同様の判断構造をして

労働判例を読む#193

【La Tortuga(過労死)事件】大阪地裁R2.2.21判決(労判1221.47) (2020.10.16初掲載)  この事案は、オーナーシェフが経営するレストランYの調理師Kが、恒常的な長時間勤務(裁判所は、1か月の時間外勤務が250時間と認定)の中、「劇症型心筋炎による補助人工心臓装着状態における重篤な合併症である脳出血によって死亡した」事案です。  少し詳しくこの経緯を示すと、リンパ球性心筋炎(ウィルス性?急性?)→緊急入院→同劇症化→重症心不全(ショック状態、両

労働判例を読む#35

【高知県立大学後援会事件】高知地裁平30.3.6判決(労判1183.18) (2018.1.4初掲載)  この事件は、有期労働契約が2回更新され、通算雇用期間が2年9か月であった従業員の、3回目の契約更新が拒絶されたことの適否が争われた事案です。労契法19条1号2号の適用が否定され、更新拒絶が有効と判断されました。  ここでは、1号2号の関係に絞って、検討しましょう。 1.労契法19条1号2号の違い  条文を見てみましょう。  1号(実質無期契約型)は、①過去に反復更新

労働判例を読む#34

【学校法人V大学(人事措置等)事件】東京地裁平29.8.10判決(労判1182.73) (2018.12.28初掲載)  この裁判例は、学生への配慮のない言動を繰り返す大学の準教授に対し、大学側が行った様々な処分(会議への参加禁止処分、必要科目担当から外す処分、研究室への卒業生配属停止処分、戒告処分)の無効確認や損害賠償を求めた事案で、准教授の請求を全て否定しました。 1.特徴  最近の労働判例では、学校や病院のトラブルを多く見かけます。  それは、研究者や医師を相手に

労働判例を読む#192

【国・札幌東労基署長(紀文フレッシュシステム)事件】札幌地裁R2.3.13判決(労判1221.29) (2020.10.9初掲載)  この事案は、会社Aのチルド食品の配送などを行う会社の受注データの受信や伝票の出力を行うセンターにアルバイトとして1年半近く勤務した女性原告Xが、上司Bからたびたびセクハラを受けた(卑猥な言動の対象となった)ことによって精神障害(うつ病)を発症した、として労災認定を申請した事案です。  労基は労災認定しませんでしたが、裁判所はこれを認定し、労災

労働判例を読む#33

【日本マイクロソフト事件】東京地裁平29.12.15判決(労判1182.54) (2018.12.27初掲載)  この裁判例は、勤務態度が著しく不良である従業員を解雇した事案で、裁判所がこれを有効と判断したものです。 1.特徴  本事案では、既に従前から勤務態度が著しく不良であるだけでなく、会社側も継続的に教育指導していたのに改善しない状況にあった従業員が、平成25年2月9日(土)に無断で休日出勤して、職場で転倒して左足を骨折したため、その後、本来欠勤すべき状況にあった

労働判例を読む#32

【名港陸運事件】名古屋裁平30.1.31判決(労判1182.38) (2018.12.21初掲載)  この裁判例は、トラック運転手が、業務と無関係に罹患した胃癌の術後の管理のために休職していたが、休職期間満了前に治癒したとして復職しようとしたところ、会社が、休職事由が存続するとして復職を認めず、休職期間満了による退職となった事案に対するものです。  裁判所は、休職事由が消滅していた、として運転手が労働契約上の地位にあることを認めました。 1.復職トラブルの一般的な形  

労働判例を読む#191

【朝日放送グループホールディングスほか1社事件】大阪府労委R2.2.3命令(労判1221.5) (2020.10.2初掲載)  この事案は、派遣会社の従業員組合Xが、当初派遣されていた派遣先(旧会社)に団体交渉を申し入れましたが、団体交渉は拒否されました。その後、旧会社が分割・事業譲渡が行われた結果、旧会社の法人格をY1が承継し、派遣に関するラジオ放送事業をY2が承継しました。Xは、Y1とY2に、団体交渉の継続を求め、旧会社による断交拒否は不当労働行為であると主張しました。

労働判例を読む#31

【井関松山ファクトリー事件・井関松山製造所事件】松山地裁平30.4.24判決(労判1182.5、20) (2018.12.20初掲載)  ここでは、2つの裁判例(同日に言い渡されたもの)を併せて一緒に検討します。いずれも、有期雇用契約者と無期雇用契約者の処遇の違いが労働契約法20条に違反するかどうかが争われた事件で、事案の背景となる事情も共通するところが多いからです。 1.判例のポイント  この2つの裁判例は、6月1日付の2つの最高裁判例(ハマキョウレックス事件、長