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労働判例を読む

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2020年7月の記事一覧

労働判例を読む#174

「京都市(児童相談所職員)事件」京都地裁R1.8.8判決(労判1217.67) (2020.7.31初掲載)  この事案は、児童相談所の職員Xが、児童に対する虐待があったとして公益通報制度によって通報を2回行ったものの、不適切な対応がなかったという2回の報告に対して不満を抱き、当該事件に関する資料を閲覧し、持ち出した事案です。任命者である京都市Yが、停職3日の処分を下したところ、Xがその効力を争い、裁判所はXの請求を認めました。 1.判断枠組み(ルール)  裁判所は、神

労働判例を読む#173

「狩野ジャパン事件」長崎地大村支R1.9.26判決(労判1217.56) (2020.7.30初掲載)  この事案は、ロングライフ麺の製造工場の作業員Xが、数年間にわたり、ほぼ毎月、月90時間以上、多い月には月150時間以上(7か月)勤務したことから、退職後、未払残業代や、長時間勤務による苦痛に対する損害賠償を求めて争った事案です。会社Yは、固定残業代の定めがある、などと主張しましたが、裁判所は固定残業代の定めの効力を否定しました。 1.固定残業代  固定残業代について

労働判例を読む#21

「建通エンジニアリング業務委託契約者ほか事件」東京地裁平29.8.31判決(労判1179.71) (2018.10.26初掲載)  この裁判例は、建築人材派遣事業等を目的とする会社の代表取締役だったYが、この事業をXに事業譲渡し、Xの「建築事業本部長」として「業務委託契約」を毎年締結していたところ、同様の事業を行うZ社の取締役副社長に就任し、そこでの事業の経過をXに報告しなかったことなどを理由に「業務委託契約」が解消された事案に対する判断を示しています。  ここでは、XY相

労働判例を読む#172

「日本郵便(北海道支社・本訴)事件」札幌地裁R2.1.23判決(労判1217.32) (2020.7.24初掲載)  この事案は、北海道内で営業指導を行う業務を行う広域インストラクターXが、1年半、100回以上の出張旅費の不正精算を行い、50万円以上を不正に利得したとして、会社Yから懲戒解雇されたところ、懲戒解雇が無効であると争った事案です。裁判所は、懲戒解雇を有効と判断しました。 1.背景事情  Xは、様々な主張をしていますが、特に注目されるのは、使途や金額です。  

労働判例を読む#171

「協同組合つばさほか事件」東京高裁R1.5.8判決(労判1216.52) (2020.7.23初掲載)  この事案は、技能実習生Xらと、それを受け入れて農作業をさせていた農家らや実習生を受け入れていた協同組合Yの間のトラブルです。X以外の実習生に対するセクハラの有無(否定)や、「大葉巻」という作業の労働時間該当性(肯定)も問題になりましたが、ここでは、Xの解雇の有効性を検討します。  これは、YがXの解雇のことを離職票に「重責解雇」と表現したことから、Xがこれを「懲戒解雇」

労働判例を読む#20

「A社長野販売ほか事件」東京高裁平29.10.18判決(労判1179.47) (2018.10.25初掲載)  この裁判例は、会社代表者が、その会社の全女性従業員4名に対し、退職を強要するような言動を行い、実際に4名とも退職に追い込まれた、と争われた事件で、一部従業員への降格処分、賞与減額処分の違法性、4名に対する退職強要の違法性について、(金額はともかく)原告の請求をいずれも認容した事案です。実務上のポイントとして特に注目している点が1点あります。 1.間接的な退職強要

労働判例を読む#170

「しんわコンビ事件」横浜地裁R1.6.27判決(労判1216.38) (2020.7.17初掲載)  この事案は、週6日48時間勤務を前提に給与を支払っていた会社Yに対し、従業員らXが、給与の未払があるとして、その支払いなどを求めた事案です。実際の勤務時間の認定や、管理監督不行届きを理由とする給与の減額の可否(否定)、管理監督者性(否定)、健康保険料の不適切な控除などの問題もありますが、ここでは、週40時間を超える部分の取扱いについて検討します。  裁判所は、週5日40時間

労働判例を読む#19

「長澤運輸事件」最高裁平30.6.1判決(労判1179.34) (2018.10.19初掲載)  この判例は、定年退職後に有期契約となった従業員と無期契約の従業員の間の給与、賞与、諸手当などの違いのうち、精勤手当と超勤手当を除く全てについて、適法と判断した事案です。実務上のポイントとして特に注目している点が1点あります。  ここでは、ハマキョウレックス(差戻審)事件(2018/10/18、労働判例を読む#18)と違う点だけ、検討します。 1.基本給、能率給、歩合給、職能給

労働判例を読む#18

「ハマキョウレックス(差戻審)事件」最高裁平30.6.1判決(労判1179.20) (2018.10.18初掲載)  この事案は、有期契約の従業員X(トラック運転手)が、同じトラック運転手で無期契約の従業員と比較した場合の諸手当(無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当)の違いを不合理と主張した事案で、最高裁は、住宅手当を除く全てについて、不合理と判断しました(皆勤手当てについては、より審理を尽くすために、高裁に差し戻し)。 1.判断基準①(

労働判例を読む#169

「福井県・若狭町(町立中学校教員)事件」福井地裁R1.7.10判決(労判1216.21) (2020.7.10初掲載)  この事案は、所定勤務時間外に、119時間~169時間勤務していた教員Kが自殺したことが、校長の安全配慮義務違反に基づくとして、遺族Xが県・市Yに賠償を求めた事案です。裁判所は、Yの責任を認めました。 1.判断枠組み(ルール)  裁判所は、著名な「電通事件」最高裁判決の示したルール(会社は健康に配慮する義務があること、監督者がこの義務を果たすべきこと)

労働判例を読む#17

「シュプリンガー・ジャパン事件」東京地裁平29.7.3判決(労判1178.70) (2018.10.12初掲載)  この裁判例は、産休育休取得中に行われた解雇を無効とし、いわゆる職場復帰を命じた事案です。実務上のポイントとして特に注目している点は2点あります。 1.産休育休との関係  均等法や育休法は、産休育休を理由とする解雇を禁じています。  裁判所は、たとえ形式上、産休育休を理由にしていなくても、解雇の合理的な理由がない場合には解雇が無効になる、というルールを示して

労働判例を読む#16

「NPO法人B会事件」福岡高裁平30.1.19判決(労判1178.21) (2018.10.5初掲載)  この裁判例は、障害者支援サービスを行う事業者の理事兼職業指導員が、サービスの利用者(1名は精神障害者、1名はその疑いがある者)に対してパワハラとセクハラを行ったとして、当該利用者が、法人と当該指導員に対し損害賠償を求めた事案で、裁判所がその一部を認容した事案です。 1.ハラスメントの判断方法(ルール)  ハラスメントに関し、①契約関係や人間関係上の優位性のある者が

労働判例を読む#168

「ロピア事件」横浜地裁R1.10.10判決(労判1216.5) (2020.7.3初掲載)  この事案は、スーパーマーケットYの従業員Xが、商品を会計せずに持ち帰ったことを理由に懲戒解雇された事案です。Xは、懲戒解雇が無効であって、依然として従業員の地位にある、と主張し、裁判所はこの主張を認めました。 1.判断枠組み(ルール)  ここで問題になったルールは、就業規則の規定です。  すなわち、Yの就業規則で、懲戒事由として、①「刑法その他刑罰法規に違反する行為を行い、その

労働判例を読む#15

「国立研究開発法人国立循環器病研究センター事件」大阪地裁平30.3.7判決(労判1177.5) (2018.9.28初掲載)  この裁判例は、かつてはいずれも厚労省の一部であったが、現在は民間企業扱いとなったため、人事異動に伴い国家公務員でなくなる(そのため辞職願を提出する)場合の人事異動に関し、異動を拒否した職員の解雇を無効とした事案です。実務上のポイントとして特に注目している点は2点あります。 1.同意の要否  裁判例は、この異動命令は、「在籍出向」ではなく「転籍