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大魔神カノンとの決着

今年2023年、髙寺成紀プロデューサーが角川を定年退職したそうです。
高寺Pをざっくり開設するとその昔、東映に所属していた時代に『激走戦隊カーレンジャー』や『仮面ライダークウガ』を生み出し、『仮面ライダー響鬼』で途中降板するというアクシデントに見舞われ当時のネットで大論争が巻き起こった(今で言うけものフレンズ問題みたいなもの)りもしましたが、現在でもファンの多い作品を作り上げたという功績はあります。

で、角川に移籍して制作費10億円を掲げて大魔神の名を冠した深夜ドラマ『大魔神カノン』が報じられ、当然のように興味を持ちましたが地方民のためネット配信で遅れて観ました。
全体的な雰囲気も響鬼前期譲りという事もあってか当時のmixi日記にも「面白い」と書いたりと割と好意的に見てました。

…他の人の反応はどうだろうとネット検索するまでは。

割とショックでしたよ。見る評判の尽くがものすごい大不評で多くの響鬼前期派の人達すらも匙を投げてしまってたのには。
これのおかげで「言われてみれば話がなかなか進展しないような…」「あれ、この話に2話分も使うの…?」「俺はこの作品のどこを見て面白いと思ったのか」と思うようになり結果として目覚ましになったとも言う自分が作品を見る目に自信が持てなくなったってのは…多分あると思う。

そして程なくして大学サークルの後輩に掟を破ったからとガンダム00のガンプラ焼却命令をTwitter上で堂々と出し、言うまでもなく水島精二監督に速攻で見つかるわで炎上沙汰になるというそこそこの地位にいるいい歳した大人がやる事かぁ!?としか言えない事件も起こし、
気がつけば高寺Pが映像作品に携わる事はほぼ無くなり『怪獣ラジオ』なるラジオのパーソナリティになり、つい最近ガチョシアターなるCM映像を作ったのを最後に引退状態という…
言っちゃなんですが凋落としか思えない現況となっています。

で、年月が経つにつれて高寺Pはどうすればよかったのか、大魔神カノンはどうすればよかったのかとモヤモヤが燻り続けてきて、複雑な気持ちを抱えたままになっていましたが、ここで高寺Pの退職と来て「そろそろ向き合うべきだな」と思い、カノンを再視聴する事にしました。

で、見た結果思いました。…話進まねぇ。

いや確かに仮面ライダー響鬼の時も二週した時は『トドロキ出るのこんなに遅かったっけ!?』となったけど、それに輪をかけて「ここまで進みが遅いものだったか…?」と驚きました。

箇条書きすると、

1話…ほぼほぼカノンの私生活に終始。人間関係の描写はふわっと。タイヘイと対面。
2話…するが互いに気づかずそのままスルーしちゃった。過去に何かあることが語られる。
3話…カノン、バイトを始めるが周囲に馴染めず人間の悪意(サラダバーでよそってるお婆さんに悪態を付く行為)に涙を流す。
4話…イパダタが本格的に活動を始める。なお、カノンは飲み会に誘われていた。ここでカノンのトラウマ(歌の盗作、傘を盗まれる、都会の人を信じにくくなる)が語られる。ブシンコ、カノンの部屋に侵入。
5話…元彼との未練あり。タイヘイ、強引な態度がかえって嫌がられる。何とか打ち解けるために大学で音楽活動。カノン、1週間ずっと無断欠席で単位がヤバい。なお、代返を頼まれ最初は拒否するが結局騙されたことを知り、何やっても上手くいかないまま一日を終えた。
元彼のバンドは調子に乗ってた。そしてイパダタは元彼に憑依してた。アクションシーン特に無し。
6話…もう人と関わるのやめると決めた途端にタイヘイに怒られた。紆余曲折の末にタイヘイと触れ合い仲直り。なお、イパダタは逃げてる。

ごめんもうやめていいですか?
誇張抜きでずーーっとこんな感じです。1クールの半分ほどまででこの進みの遅さって…追いかけっこも終盤まで続くし。
おかげで「こんなに見るのがキツかったかな…?」とまで思ってしまいました。
理由として、まず「この話いる?本筋に絡まないし無くても良いのでは」というのが多すぎる上に肝心のカノンも本筋である大魔神に絡まなさすぎる。
響鬼の明日夢くんですら鬼の仕事にそれなりに関わってたのに…ぶっちゃけこの辺に関しては後期の路線の方が表現出来てた気もするが。
あと情景描写が非常に多い。というか多すぎる。響鬼にもあったけど、あれは結果的に響鬼というライダーの異色性も描いてはいたし、妖怪である魔化魍とも合う世界観に適合してはいた。でもカノンは違う。確かに情景描写は美しいけど、一応特撮ドラマを謳ってる割にアクションシーンが非常に少ないうえに内容も延々とイパダタとの追いかけっこが続く。さらに戦闘が無い回もあるわで「いいから話進めろ」としか思えない。
ガンダムといったロボアニメにもメカ類出ない話はあるけど、あれだって話自体は面白い事が多いのでまだ受け入れられる。

いやね…毒にも薬にもならないと揶揄される日常系アニメですらも1話あれば一通りのキャラ紹介や新キャラの登場といった事が出来てキャラや話の掘り下げが出来るし、比較対象になってる連続テレビ小説ですら1話15分の尺で話ガンガン動きますよ。
なんでこんなに本筋動かないの?…改めてそう思いました。
高寺Pのやりたい事伝えたい事は何となく解る(クウガや響鬼にもあったヒーローの影響を受けて成長する若者の姿)けど、それらと視聴者(と高寺ファン)が期待していた事見たかったもの(たぶん「格好いい大人のヒーロー」だと思ってる)とのズレが大きすぎる。代弁者ヅラして断言するのもおこがましいけどここは敢えて言わせて頂きます。
たらればの話はどうにもならないとは言うけど、結果として一歩間違っていたら響鬼も似たようなことになっていたのでは…とすらも思えてしまいます。
要はこだわりが過ぎて空回りしているって事ですよ。「違う、そうじゃない」というべきか。

で、肝心のストーリーは…正直つまらないを通り越して気持ち悪い。
一般ドラマとしてみても鼻につく要素が多い。ほぼ毎回のようにセコい悪事(自転車泥棒とか傘泥棒とかチンピラとか毒親とか)をする人間がノルマ達成と言わんばかりに出てきて、地味にフラストレーションが貯まる。
なんかこう人間の嫌らしい所を初っ端からネチネチと描いて、「みんなピュアな心を持とうぜ!」と言ってるようで、あまりにも潔癖かつカルト思想みたいで逆に露悪趣味に感じるんですよ。
綺麗事すぎる上にカノンを聖人のように描いているのがかえって胡散臭いというか…俺も人が悪くなったもんだ。
こういう所はクウガや響鬼でも無いわけじゃなかったけど、ここまでメッセージが露骨でもなかったと思います。

「世の中上手くいかない時は多いよ、それでも頑張って人と触れ合ってね」と未来を担う若者たちへ向けたメッセージだとしても、描き方が説教臭いというか押し付けがましいというか、時代遅れと言うべきか。
コミュ障を全肯定して周りが悪い環境が悪い俺らがいるから大丈夫と言ってるようにも見えて…それはどうなんだろうかと、自分には受け入れ難いものがある。
そればかりだけじゃなくて、その慣れない環境でどう動いていくかが大切なんじゃないかと自分は思います。
なんと言いますか、思い描いた視聴者層しか向いていない感じがして、ある種の子供騙しにも思えるんですよ。

それでいて、面白くなりそうな要素を自分からかなぐり捨てている点があるってのも完全にマイナス。実のところ、オンバケとイパダタの戦い自体は割と好きなんですよ。オンバケ達の変身した姿は割と好み。衣装も凝ってて良いし、肉弾戦多めで雰囲気も良い。でも確かに全体的な地味さも否めない。
せっかくの善の妖怪とも言えるオンバケなんだし、もっと能力を活かした戦いを見せたら良かったのではないだろうか…。
何より、序盤でイパダタに憑依されたカノンの元カレが自分がイパダタに憑依された事を本人だけでなくカノンもタイヘイを始めとするオンバケたちも一切知ること無く、新聞で逮捕された記事が出てそのままフェードアウトって、いくらなんでも投げやりすぎないか普通活かすでしょ改心も無しかよとしか思えないですもの…一応カノンの成長要素は描かれてたけど、それだってイパダタ全く関係なかったわけで、なんなんだよもう、としか。

良いところ。
役者陣の演技。とても良くて好感触。
女優としても実績のある柴田理恵や『忍風戦隊ハリケンジャー』の長澤奈央、ブレイク前で小さな頃の鈴木福がいたりと結構豪華。
OPEDにBGM全般も良い。サントラが円盤特典のみなのが惜しい。
結果、映像と相まって雰囲気そのものは極上。ここは響鬼前期譲りではある。

以上。
うん…書けば書くほど愚痴の方が多く出る…。

総評:押し付けがましい現代ファンタジー。
正直、これは干されて当然では…としか思えなくなりました。
こち亀に例えるなら「固い文章だけ載せたホームページを作って興奮していたら誰一人閲覧する人が来なかった葛飾警察署の面々」って感じです。
ちゃんとエンタメとして楽しませようとしてるし見ていてストレスがそんなに溜まらない分、絵面はともかく映画版デビルマンや仮面ライダーBLACKSUN、ギーツの方がマシだったとすら感じてしまう…。
おかしいな、カノンってこんなにストレス溜まる作品だっけかな…。

もしかしたら自分は高寺Pの作る作品なら無条件で喜んでいたのかもしれない。凄く好きだからこそ都合の良いとこしか見ていなかったのかもしれない。
そんなわけでクウガや響鬼が好きな方は1回大魔神カノンと向き合っても良いんじゃないでしょうか…なんやかんやでらしさは確かにありますから。
え、周りのスタッフが悪い?カノンのスタッフ、クウガや響鬼と組んでた人たちばかりですよ。

癒し役なブチンコ。ある意味大魔神ではある。

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