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新入社員もゆ、入社式を自己都合で辞退する。


Girls' Republic メンバー紹介

せな:春から大学院生。主に社会運動と抵抗思想を勉強中。

もゆ:春から社会人。フェミニスト(本人としてはこの言葉を古いものにしたいのであまり使いたくない...)。

記事概要

こんにちは!

Girls’ Republicメンバー、もゆです。この春、大学を卒業して地元では有名な企業に就職しました。入社早々、この会社のジェンダーやダイバーシティに関する意識の低さにぶちのめされ、そんな理由から入社式を辞退するまでに至りました。今回は、その経緯を、せなによるインタビュー形式で書いてみようかなと思います。

内定式

せな:入社してからどういったことがあったの?

もゆ:入社してから何してたかの前に、まず内定式の時の話からしないといけないんだけど。10月の内定式のとき、人事部の人から「男性は脚を開いて拳を太ももの上に。女性は脚を閉じてその上に手を重ねて。」という旨の指示が出て。せなならわかると思うけど、言われた瞬間もう私は本当に苦しくて…、たしかにそういうマナーがこの世にあるのはもちろん理解できるが、なぜ自分が女か男かどうかなんて決めなきゃいけないんだ、なぜ自分の行動を性別で決められなきゃいけないんだ、って思った。

せな:うんうん

もゆ:そもそも、これで苦しい思いをする人の存在について理解できないんだろうなとも。だから、不必要に「男の人はこうして~/女の人はこうして~」なんて言えてしまうのかなとも思ったし。とにかく、その一言が本当に悲しくて苦しくて、怒りが湧いてきちゃったんだよね。それで、ご存じの通り言えるタイミングがあれば言ってやりたいと思ってしまう質な私は、早速内定式後のアンケートで書けるだけ書いてやったんだよね。「『女だから』と自分の行動を制限された気がして苦しくなってしまいました」とか、「この場面では男女で分ける必要はなく、社長や役員の方々に失礼のない程度の姿勢で式に参加できていれば問題ないのでは」とかそんな旨のことを書いた。

せな:そうかー。まずジェンダーによるラベリングが苦しかったんだね。

もゆ:まさに。そして、「組織が問題だ」とか言うんじゃなくて「自分が苦しいんだ」を伝えることによってこの問題を伝えようと試みた。今となってはそのやり方が得策だったのかわかんないけど、笑。いきなり、「この会社のジェンダー意識は問題あります!」って書いちゃうより、「私にはこういう理由で苦しかったんです。それを問題として認識してくれませんか?」っていう話し方の方が伝わるかなと思って意見してみた。だけどね、入社式の頃になって分かったけど、どうやら私の言ってることはきちんと伝わっていなかったみたいなんだよね。

入社してからの違和感

せな:あー。そこから入社して以降の違和感に繋がるのね。

もゆ:そうそう。入社式の数日前だったかな、入社式での礼儀作法をレクチャーする動画が内定者全員に送られてきたんだよね。案の定「男性陣は、スーツのズボンの線に手を添えるような感じで立ちましょう」「女性陣は、手を前に重ねて立ちましょう」とか言ってて。

もゆ:...え!?内定式後の私のアンケート読んだ!?!?!?!?みたいな。もう、ね。人事部の人にメールしたよね。「単刀直入に申しますと、この動画にはジェンダーの観点から見て大きな問題があります。」ってはっきり書いちゃった。内定式の時に言ったのに!とはさすがに書かなかったけど、なぜそれが問題なのかを説明して、最後の文で「このままでは、入社式への出席を控えさせていただくことも考えています」って書いた。2回言ってダメなら実力行使だ!と思って。

せな:そしたらどんな反応きたの?

もゆ:メールして2時間後くらいだったかな、人材採用部のリーダーから直接電話かかってきた。結構驚いた。真っ先に「内定式後のアンケートでも書いてくれていたのに、同じミスをしてしまって申し訳ない」って言われた。その時は、新入社員の意見をきちんと聞いてくれるこの会社に入社決めたの間違いじゃなかったなとか改めて思ったりした。(もゆが入社を決めた理由も、古い会社だけど変革していきそうな感じがするから、だった。)

もゆ:その場で、どうやったら私が安心して入社式に参加できるかの話もできた。「入社式、出てくれるかな?」って聞かれたから、今のままでは参加したくないこと、あの動画に関して、『男女関係なく礼儀正しくしていればいい』というようなメッセージをみんなに向けてメール等で伝えてほしいこと、正直、同期がこの動画を観てその通りに作法をしているのを目にするのもつらいこと伝えた。

せな:なるほどね。

もゆ:その他には「弊社の方でも頑張って勉強している途中ではあるんだけど、またこうやって間違えてしまうかもしれないから新入社員だろうと是非意見を言ってほしい」、「だから(=勉強中だから間違えたことは仕方ないこととして)この動画のことを許してやってくれないか」というようなことを言われた。そもそも許す許さないの問題ではないし、そこは少し認識ずれてるかもだけど、まあ若い人の意見を聞こうとしてるのかなと思って嬉しかった。

せな:理解してそうな反応じゃん。でも、結局、タイトルで出オチしてるけど、そうは言われても入社式は出ないって決めたんだよね?

理解されたかに見えたが...。

もゆ:うん。結局、どうやらそれだけでは全く伝わってなかったみたいなんだよね。私からそのリーダーへのお願いは皆に向けて、「動画ではこんな風に言ってたけど、今回の式では男女関係なく失礼なくしてくれればいいからね」っていうのを伝えるような言葉がほしい、っていうつもりだったんだけど、当日まで動画を訂正したり、ましてや釈明するような動きはなかったんだよね。

せな:それはありえないね。

もゆ:で、当日は、とりあえず入社式の会場行ってギリギリまで動画のことを全体に話すような動きがなければ宣言通り参加を辞退するつもりで行った。式が始まる数十分前になってもなかったから件のリーダーに、「メールや電話でもお伝えした通り、辞退させていただきます」って言いに行った。そしたらさ、もうそれこそ鳩が豆鉄砲を食ったようというのはこういうことなんだろなってくらい驚いた顔になって、「エッ?」って言われて。いや、こっちがエッ?だよと思ったけど。とりあえず式場の外で話をしようか、って言われたんでリーダーと一緒に外へ出た。

せな:どうしてそれだけ説明してもゆの問題提起が伝わらなかったのか…。それで?

もゆ:そこで私が、皆に対して動画についての言及が一度もなかったので、というような話をしたらさ、「エッ?何の話?」って言われて。実は、電話の後、リーダーから「先ほどは電話での対応ありがとうございました。これからも、自分らしく振舞ってくれれば良いです」っていうメールがきてたんだよね。そのメールは私にとって全く意味を成さなかったし、(あ、どうも!)くらいの軽い気持ちで読み流してたんだけど、どうやらリーダーの中ではそのメールがあれば私が安心して入社式に出られると思ってたらしい。

せな:「自分らしく振る舞ってくれればいい」とか、なんでもゆに問題丸投げなん!?だって、あなたはあなたでいていいけど、わたしはわたしのままで変わりませんっていう宣言じゃんそれ。まずお前が変われよって思うんだけど笑

もゆ:いや、ほんとにそう!笑 もうびっくりしすぎて、「その前に電話いただいていたのに、わざわざメールしていただかなくても...」とかつい言っちゃった。その他にも色々話したんだけど、リーダーは「あの動画を観た子も観てない子もいると思うけど、観ていたとしても自分らしくありのままで式に出ていたと思うよ」、「採用の時からずっと社長や役員の方々にはお世話になってきたわけだしぜひ式には出てほしい」、「もっと時間があれば、あなたときちんと話せていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない」...って私からすれば的外れなことを言ってて。

せな:…多分その調子だとどんなに時間あっても理解されないと思うけど…。

もゆ:私も頑張って伝えなきゃと思ってさ、「あの動画を観たとか観ないとかはどうでもよくて、そもそもあんな動画がこの会社に存在することに苦しさを感じるんです」とか、「今日は動画についての言及がなければ式には出ないつもりでここに来ました」とか、「時間がなかったというか、伝えなければならないことが多すぎてまだ伝わってないのかもしれませんね(半分皮肉)」とかって話したんだけど...、どれだけ伝わったかはよくわからない。最後までどうしてこんなことになったのか分かってなかったようだったから...。

なぜ説明が伝わらなかったか?

せな:なんでそんなに説明しても伝わらなかったんだろ?こういうこと言われるのが初めてだったにしろ、その対応は真摯でなかったように思う。いきなり全部を理解できないにしても、まるで無視されてるのに近い反応というか。

もゆ:多分さ、「動画の内容を否定する」っていう考えがそもそもなかったんだろうね。電話だから単語を聞き洩らしちゃって全く違う解釈になってしまうこととか、なくはないだろうけど、あまりにリーダーの解釈がこちらの意図とはかけ離れてるじゃん。私が遠慮しながら話したせいもあるかもしれないけど、とはいえ、ね。やっぱり前提が違う気がする。

せな:これだけちゃんと説明と共に声をあげても、こうして無意識に弱者の声が虐げられてくのだなぁ…

もゆ:最後に。ある正しさが、別の面から見れば正しくないことがどうして伝わらないんだろう。どうやったら伝わる言葉で話せるんだろう。男性と女性を分けるマナーって、たしかに差別はしていないけど、区別はしてるじゃん。なんで差別と区別が近いところにあることが伝わらないんだろう、なんでだろう...って入社式の件以降ずっと考えてる。


次回、「新入社員もゆ、入社2週間で意見書を書く」に続く


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