行きます! 通心空手のフータ 『もものき山のおばけ』(逆噴射プラクティス)

「リッくーん!」
「リッくん どこー!?」

 もものき山に親友を探すフータの声がこだまする。
名前に反して、この山に桃など生えていない。
フータは直感を信じて進む。首筋のぞわぞわが強くなる方へ。


「リクくーん?」

 苔むしたお地蔵様の横でうずくまっていたリクは、
自分を呼ぶ声に思わず「こっちだよ!」と返事をしてしまった。
フータが探しに来てくれた。安堵した次の瞬間、間違いに気付く。

『リッくん』
フータはいつも、リクをこう呼ぶ。

「こっち リクくん こっち」

 時すでに遅し。
藪を掻き分ける音が、信じられない速度で迫る。
幸い、足を動かす勇気は残っていた。
リクは声を上げ、がむしゃらに走る。
しかし山道に足を取られ転倒。

 藪から姿を表した化物を、リクは形容する言葉を持たなかった。

頭がある。
口がある。
牙がある。
大きい。

 他は解らない。
いや、いま腕が出てきた。
息を吐かれる。生臭い。死骸の臭い。

「たすけて……」

 牙が開く。腕が伸びる。

「たすけてぇ! フーちゃぁん!!」

 その時!
1匹の獣が藪を飛び出す!

 違う!
四肢がある!
顔がある!
燃える瞳がある!

「フーちゃん!」

 気付いた化物が腕を振るう!
フータは空中で木を蹴って方向転換、頭を狙って飛ぶ。

通心流空手2級技
塀越跳(へいごえとび)

― 通心流は心が通じる空手。切なる思いに応える者なり ―

「てやぁぁぁぁ!!」

 身をひねり、渾身の回し蹴りが化物の頬を打つ!
堅い。しかし手応えあり。

 化物はギャンと鳴き、堪らず草薮へ駆け込む。
着地したフータは構えを解かない。
まだ気配がある。が、襲ってはこない。

「立ってリッくん。にげるよ」

 目尻をぬぐい、手を繋いで駆け出す。

「なんだろう、あれ」

「……わかんない」

「でも、フーちゃんならやっつけられるよね?」

 繋いだ手に力がこもる。

「……わかんない」


 二股道が見えた。
倒れたお地蔵様が、錫杖で片方の道を指す。
朽ち看板には『キナト様のお社』

【2人の冒険は続く……!】

作者より

こちらは『第3回逆噴射小説大賞』への応募……を考えていたけど、
「シリーズ物を複数投稿するのは控えるように」とのお達しを受け、ボツとなった原稿です。
もう殆ど出来ていたので、折角なので公開した次第です。

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