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一短一長


 玄関ドアに、喫茶店のようなゴロンゴロンと鳴るドアベルをつけたい。今ついているのは、リンリンリンとさわやかに鳴るベル。この高い音が聞こえにくくなってきた。わたしは難聴持ちだ。


 両耳に補聴器をつけて、早9年。


 毎朝、身支度を整えたら、メガネより先に補聴器をつける。ぼんやりした世界がはっきりする。いろいろな音が入ってくる。


 朝の家事をバタバタすましてから、録画してあるドラマを息子とみる。テレビの音は聞こえづらいので、字幕をつけながら。字幕はありがたい。最近は字幕対応番組が増えて、とても助かっている。朝ドラ、金曜ドラマなどなど。息子と感想をいい合い、次回を予想し合う。


 娘と買い物へいく。

 人が多くザワザワしているところでは、補聴器は雑音を拾いやすい。聞いているわたしは、聞き疲れてしまう。だから、わたしは補聴器をオフにして、買い物をすることもある。娘と一緒のときには、補聴器はオンのまま。

 楽しく会話していると、娘に「はは、もう少し声を小さくして。」といわれる。地声が大きいのだ。耳が悪いと、自分の声も聞こえづらくなる。
意識して声をしぼらないといけないが、時々忘れてしまう。

 レジに並ぶ。レジの人は透明なシートの向こう。マスクもつけてみえる。この状況、とてもとても聞こえづらい。話しかけられたら…と少し緊張する。

 「ゴミ袋はA市のものでお間違えないですか?」

 「はい。そうです。」

 ホッ、聞こえた。レジに表示されている金額をよくよく見て、支払いをすませる。


 うちに帰ってひと休み。
 お昼ごはん。


 2階のベランダに洗濯物をまた干す。本日2回目。子どもたちが大きくなって、洗濯物が減ると思いきや、サイズが大きくなった服たち、やっぱり洗濯機は1日に2回はまわさないと。

 「ピンポーン。」

 2階にある固定電話の子機が鳴る。うちの電話は玄関のチャイムと連動している。子機のボタンを押して、会話する。

「宅配でぇ〜す!」

「はぁ〜い。今いきます。」 



 夕方、麦茶を作る。

 2リットルのやかんいっぱいに。やかんはピーと鳴るタイプ。けれど、このピーがわたしには聞こえづらい。やかんは15分ほどで沸く。タイマーが楽だ。たいてい、リビングにいる息子が先に気がついて、麦茶作りを引き受けてくれる。


 いきなり、補聴器がポーンと鳴る。左耳だけ。補聴器の電池がなくなりそうだ。たぶん、あと30分くらいは持つかな。わたしは新しい電池を用意しつつ、本当に聞こえなくなるまで待つ。使い終えた電池は、テープをぐるぐると巻き付けてから、電池用ゴミ袋に入れておく。まとめて、有害ゴミの日に回収してもらう。


 夕飯を終え、片付けをしてから、洗濯物をたたむ。洗濯物をたたみながら、中国ドラマの録画をみるのが日課だ。中国ドラマはもともと日本語字幕がついている。俳優さんたちは表情豊かで、話もわかりやすい。奇想天外なストーリーも好きだ。


 補聴器を取るのは、お風呂に入るとき。

 ティッシュで補聴器の汚れを拭い、乾燥機に入れる。わたしの乾燥機は、紫外線を照射し、補聴器をしっかり除菌する機能付き。3分間の除菌が終わったら、乾燥が始まる。6時間乾燥。

 乾燥機のふたには、補聴器の電池を置いておくマグネットが貼り付けてある。ちょっとしたことだけれど、この工夫がありがたい。ボタン電池は転がりやすく、なくなりやすいから。うちには小さい子どもは常にはいないが、遊びにきた甥っ子がうっかり口にいれたら…と思うと恐ろしい。管理はしっかりとしたい。


 補聴器を取ると、ぼんやりした世界。静かで落ち着く。耳にふたをしているような日々だから、開放感もある。耳を休ませよう。


 ぐっすりと寝て迎えた翌朝のこと。

 夫も娘も息子まで、なぜだか眠たげだ。あくびをしつつ、夫がいう。

「夜中、バイクがうるさくて。よく、眠れなかったよ。」

 「大変だったねぇ。」

 たまに、わたしの耳も役に立つ。

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