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『うつわの歌』


 雨の日が続いている。ミストのような雨は柔らかく、全てを潤しているようだ。一雨ごとに暖かくなると思いきや、北風が強く、肌寒い日が多い。身体がだるい。しゃっきりしない。

 そんなとき、ふっと、一編の詩の冒頭が浮かんだ。


 わたしはうつわよ…


 どこで読んだっけ。記憶を辿る。

 そうだ!『うつわの歌』精神科医である、神谷美恵子さん作。

 本棚にある、神谷さんの著書『生きがいについて』を見直すが、見当たらない。ネットで探すも、全文はない。まだ、本棚に入れていなかった、『100分de名著 神谷美恵子』を取り出した。そこに、あった。元々、この詩は、『うつわの歌 新版』に掲載されていたものらしい。

『うつわの歌』

私はうつわよ、
愛をうけるための。
うつわはまるで腐れ木よ、
いつこわれるかわからない。

でも愛はいのちの水よ、
みくにの泉なのだから。
あとからあとから湧き出でて、
つきることもない。

うつわはじっとしてるの、
うごいたら逸れちゃうもの。
ただ口を天に向けてれば、
流れ込まない筈はない。

愛は降りつづけるのよ、
時には春雨のように、
時には夕立のように。
どの日も止むことはない。

とても痛い時もあるのよ、
あんまり勢いがいいと。
でもいつも同じ水よ、
まざりものなんかない。

うつわはじきに溢れるのよ、
そしてまわりにこぼれるの。
こぼれて何処に行くのでしょう、
——そんなこと、私知らない。

私はうつわよ、
愛をうけるための。
私はただのうつわ、
いつも受けるだけ。

『うつわの歌 新版』

 今のわたしは、この歌に惹かれる。ここにかかれていること、よくわからない。ただ、神谷さんの言葉が好きで、そうなんだろうなって思う。それから、雨のように、愛が絶え間なく降り注ぐ様を想像すると、右胸があったかくなるんだ。

 よくわからないのに、不思議。いや、わからなくても、いいか。わからなくても、あたたかなんだから。いつか、この詩のほんの一部でも、わかる日が来たら、うれしいだろうなぁ。まぁ、わからないままでも、いいけれど。

 声に出して読む。
 心地いい。



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