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オムライスにするよ!


 今日は朝から、雨が降っている。それで、ホッとしている。雨は、身に纏う空気を柔らかくしてくれる気がする。安心する。

 お母さんって、なんだろうな。
 洗濯を待つ間、思う。

 結婚して、子どもを持つこと、わたしには自然なことだった。大好きな人のと子どもが欲しい。そう思っただけ。深く考えたことがなかった。ありがたいことに、子どもに恵まれ、子育てが始まった。

 子育てが始まったら、覚悟なく子育てはできないって、思い知った。産まれたての娘が、きちんと息をしているかさえ、最初は心配になった。

 真夜中、ぐっすり眠る、娘の顔に頬を近づけ、何度も息を確認した。小さくて、ふにゃふにゃで、何もかもを、わたしたちに委ねている。そんな命を育てている。とても愛おしく、そして、わたしに育てられるのかって、とても恐ろしくもあった。

 息子が産まれて、子育てはもっと大変になった。息子は、片時もわたしの側を離れない。トイレも一緒。不安が強くて、眠るのさえ怖がる息子、なんとか寝かしつけた。今から思えば、わたしの周りだけが、息子の安全圏だったのだろう。17才になった今は、もうひとりで寝るし、側にいることも少なくなった。息子の安全圏は、ぐーんと広がってきている。

 数日前、息子とぶつかった。わたしは、言いたいことを言えたが、言うタイミングじゃなかった。まずは、話をきいてからだった。いつも割とできることが、その日はできなかった。

 自分のために、言い訳をする。

 その日は、息子の機嫌が悪かった。風邪の治りかけ、いつものしんどさに風邪のしんどさも加わって、トゲトゲが身体中から出ているみたい。なんとかしてほしいオーラと、言葉がやってくる。そうなると、わたし、息子の隣にさえいるのがしんどくなる。いろいろ、「こうしたら、あーしたら」と言うも、全て否定されて、「じゃあわたしはどうしたらいいのよ」となっていた。

 そんな中、お昼の11時ごろ、インターホンが鳴った。画面を確認すると、隣に住む母のようだ。母は小柄で、画面には頭しか映らない。

 玄関の扉を開けて、母を見て、びっくりする。顔にあちこち血が滲んでいる。母は、へにゃ〜と顔を歪めて、「転んじゃった」と、膝小僧を見せた。両方とも真っ赤だ。一瞬、血の気が引いたが、気を取り直し、急いで応急処置をした。

 庭先で、転んだらしい。土のところではなく、コンクリートのところで。「痛いけれど骨は大丈夫だと思う」と母は言った。歩くことはできているし、そうだろうなと思ったが、病院には行ったほうがいいだろう。この暑さ、傷が化膿してしまうかも。母に提案したら、病院嫌いの母だが、「行く」と言った。父が不在だから、わたしが連れて行かないと。

 となると、体調が悪い息子をひとりにすることになる。昼にもかかる。うー、困ったな。でも、仕方ない。不機嫌な息子に、事の次第を言い、とりあえず、おにぎりを握り、「作っておいたポトフも食べてね」と言いおいて、母と病院へ。

 骨折はしていなかった。よかった。傷も消毒してもらい、母もホッとしたようだった。父も帰宅していて、事の次第を説明した。「痛いわぁ」と言う母。うん。それは痛いよ…

 「お昼に食べる物はあるから大丈夫」と母が言うから、急いでうちに戻る。もう母は大丈夫。そうしたら、不機嫌がプラスされた息子が待っていた。でも、仕方ないよね。

 息子は「昼寝する」と言って、自室へ。わたしは、流石に疲れた。食欲が湧かないけれど、何か食べなくちゃ。残り物でいいや。

 食べながら、母のこと考えた。脚が上がらなくなっているみたいだ。「老い」なんだろうなぁ。この気温、転んで、動けなくなって、そのままだったとしたら…

 今回は、とても幸運だった。母は歩いて来てくれたから。これから、携帯をいつも持ってもらうのがいいのかな。先の事を考えると、心配しかない。いや、とりあえず、軽く済んで、よかったんだ。

 わたしも昼寝しようと思ったけれど、眠れない。

 そのうち、息子が起きて来て、また不機嫌モード。わたしも負けじと不機嫌モード。そして、夜にバァアーン!と、ぶち当たった。

 はい。わたし、冷静さを欠いていました。

 振り返ってわかる。いっぱいいっぱい同士、ぶつかるのも無理はなかった。その夜、夫に1日のことを話すも、受け答えがぼんやりしている。思わず、ムカッとしかけたが、熱を測ると微熱。「早く寝て!」と、夫を寝室へ送り出す。気づいてよかった。怒らなくてよかった。

 翌日、夫は熱が下がって、仕事に行った。ちょっとだけ心配。そうして、いつも通りの時間が過ぎていく。モヤモヤを味わっていたくなくて、手を動かしていたほうがよくて、バタバタと動く。トマト煮と寒天ゼリーを作って、記事を書いた。

 前の晩、息子への言葉がきつかったこと、自分がめちゃくちゃだったことを、反省した。これから、どうしようかな。頭を抱える。

 それから、お昼ご飯用に、トマト煮をご飯に盛り付けて、とろけるチーズを乗せて、トースターで焼いた。自室にこもってる息子に、「お昼ご飯できたよ」とLINEして、わたしは寝室へ。まだ、距離を置きたい。息子も、わたしとは一緒にいたくないかも。声もききたくないかも。

 息子は、お昼ご飯を食べたようだった。作ったトマト煮と寒天ゼリーも、おやつに食べてくれた。夕飯も食べてくれた。ホッとした。

 わたしも食べた。美味しかった。美味しいものって、いいなぁ。なんか、気持ちを和らげてくれる。作ってよかった。

 寝る前、ソファに座っていたら、息子が隣にやって来て、話し始めた。

 「昨日、ショックなことがあって、それで、もう何もかも嫌になって、そんな時、母さんがもっとがんばれって、がんばっていない自分が悪いんだって、そう言うからさ…」

 「そっか。がんばれってって言ったつもりはなかったんだけど、そう聞こえたんだ。そうじゃなくって、あー、言葉で表すのが難しい。考えてること、そのまま、渡せたらいいのに…」

 話してみたら、なんてことはなかった。息子の話、遅くなったけれど、今度はちゃんときくことができた。あの時、ただ話をきいてほしかったんだね。ショックを受けたことをきいてほしかったわけだ。それに、わたしは気がつけなかったんだね。

 それから、体調のこと。息子、体重がまた落ちたらしい。息子のしんどさをわかってなかった。しんどいことを、自分でしんどいとわかること、それをきちんと誰かに言えること。それが、できるようになってきたのに、きいてもらえないと、嫌になるだろうな。もう何も言いたくなくなるだろうな。なのに、話してくれて、ありがとう。

 それからそれから…反省はするけど、わたし、これからも言いたいことは言います。我慢は長続きしないし、お互いに言った方がいいから、出来るだけ。またぶつかるね、きっと。でも、まずは話をききます。それは気をつけます。言うときは、タイミングも考えます。ここに自戒を込めて、書いときます。

 さぁ、まずはゆっくりと身体を治そう。

 美味しいもの、また作りますか。
 オムライスはどう?
 わたしが食べたいの。

 ん。ありがと。
 じゃあ、お昼はオムライスにするよ!






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