日常と非日常のあわいで
書店は、日常と非日常が同時に存在している稀有な場所だと思う。
一歩足を踏み入れれば、本たちが纏う不可視の匂いが溶けている、独特の空気が満ちている。
抑えめの照明に照らされた、背の高い本棚が、自分たちを手に取る来訪者を歓迎するように整列していて。
そこに、装丁も厚さも、題材も多岐にわたる書籍が、ぎっしりと隙間なく並んでいる。
ときに腰をかがめて、ときに少し背伸びをして、背表紙に目を凝らし、興味を引かれた“子”を手に取る。
数多ある娯楽施設の中でも、こうした行為をするのは、書店ぐらいではないだろうか?
(少なくとも私にとっては。)
そうした意味では、書店は《非日常》と言えなくもない。
もちろん、私を含めて、おそらく書店を利用する多くのひとは、特別だなどと考えたことはないだろう。
書店へ足を運ぶのは、日常の延長線上にある、ごくありふれた一場面に過ぎない。
なのに何故、こうまで心が弾むのだろう?
特に、お気に入りの一冊を手に取った時の、あの高揚感。
レジでの会計を終え、再び手元へ戻ってきた際の、何とも言えぬ愛しさ。
日常であって日常ではない、非日常ではあるけれど非日常ではない、どこか頭がふわふわして、足元が定まらない、あの感覚。
そこでは足元から立ち上る靴音さえ、ほかの場所より少し格好良く響いたりもして、楽しいのだ。
*
ここ数ヶ月、書店の閉店が相次いでいる。
あの特別な、同時に日常の中に溶け込んでいる場所が失われるのは寂しい。
かく言う私の地元でも、二年ほど前、この地域では最大規模を誇っていた大型書店が撤退してしまった。
書店だからこその出会いは、それこそ挙げればきりがないほどある。
大好きなあの場所のために、出来ることは何なのか?
大きな話になるけれども、この頃、そんなことを考えている。
…まぁ手っ取り早く(乱暴とも言う)まとめてしまえば、
とにかく書店へ行こう!!
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