マイフェイバリットフーズ/食でたどる70年第25回「焼き豚」

食肉メーカーの市販の焼き豚や、スーパーの惣菜売場で販売している焼き豚を食べると違和感がぬぐえなかった。食べた感じで、どうしても焼き豚特有の香ばしい感じがしないのだ。その製法を聞くと、さもありなん。名前は焼き豚でも、実際には煮豚なのだから、香ばしい香りなどするはずもない。
この煮豚を焼き豚と称するようになったのは、焼き豚とチャーシューが混同されたからではないかと思われる。そもそも「焼き豚」とは、中国のチャーシューを日本風にマネした料理で、最初にうまみを閉じ込めるため、豚肉の外側を焼いてから、特製タレに漬けて煮こむ料理だ。
これがなぜ「焼き豚」というネーミングの料理になったのかは不明。中国料理のチャーシューは焼いて作るのでは別だが、名前だけが伝わったということかもしれない。
したがって、店頭で売られている焼き豚が、煮豚であるのは日本の料理の常識から行けば正常であり、これに文句をつけるほうが間違いということになりそうだ。

50年前の記憶が勘違いのもと

では、なぜこのような勘違いが私のなかで起こってしまったのか、と考えるとそれは50年前のアルバイト体験にまで遡る。以前にも少し触れたが、私は神戸で1年間大学受験の予備校に通った。その時、夕方と日曜日は、親戚の精肉店でアルバイトをしていた。
そして、その店で扱っていたのが中国のレシピによる本格焼き豚だった。2本、3本と配達された焼き豚を、食べやすい大きさにカットして100g単位で販売していたが、商品にならない端っこを、小腹が空いたときにつまみ食いしているうちに、知らず知らずのうちに舌が覚え込み、「焼き豚」の原体験になっていたようだ。
それはある時、その仕入先の製造現場を見せてもらって、より一層、印象が明確になったのだと思う。ある日曜日、仕入れていた焼き豚の大量購入があり、午前中に品切れになってしまった。そこで追加発注したのだが、届ける便がないという。今のようにバイク便があるわけではないので、急遽私が自転車で取りに行くことになった。
その時、神戸元町の老舗の焼き豚専門店で、豚肉の選び方、こだわりのタレの仕込み方、特製レンガ窯によるつるし焼きの工程までを見せてもらった。その体験が焼き豚は、特製レンガ窯で長時間かけて、じっくり焼き上げるものという学習をしたのだ。
ところが、日本のメーカーやスーパーの焼き豚は、名前ばかりで実際には煮豚に過ぎない。このギャップをしばらくは理解できず、まがい物が販売されているという誤解をしていた。日本の料理の慣習からすれば焼き豚=煮豚であることが分かっていなかったのだ。
しかし、日本のスーパーにも中国のチャーシューに近い、焼き豚を販売しているチェーン遭遇したことがある。それはサミットストアの「グリルキッチン」コーナーで扱っている焼き豚だ。これは「グリル」を調理コンセプトにしているコーナー商品だけに、食べたときスモーキーな香りがあって、本格焼き豚に近い味わいがある。


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