流通事件簿12「イオンが覇権を狙うよなったった日」

いまドラッグストア業界では、イオンによる「ツルハ」の本格グループ入りのため、香港系投資ファンドのオアシスのツルハ持ち株のTOBが大きな話題になっている。これが成功し、ツルハがウエルシアとともに、イオンの傘下に入ることになれば、ドラッグストア業界に占めるイオンの売上は、ウエルシア、ツルハ以外のチェーンも含めると2兆円を超え、シェアは優に3割を超える。
さらにツルハを子会社化することで、北陸から信越、中部、関東、近畿などへ出店エリアを拡大し、売上高は3000億円を超えてきたクスリのアオキまでもが、ツルハ、イオンの持ち分を併せれば、支配権を確立できる可能性が出てくる。そうなれば、他のチェーンもイオン傘下入りをすることも考えられる。つまり、イオンの業界シェアは50%近くまでアップすることも考えられるのだ。

ドラッグの「ハック」とSMの「キミサワ」を守り抜く

そもそも岡田屋、シロ、フタギの3社合併で生れたジャスコ(イオンの前身)が発展して、セブン&アイと並んで、日本を代表するメガチェーンとなったイオンだが、数多くの吸収合併劇のなかで、どうしても負けられないディールがあった。
それは2007年にアインホールデイングスの間に発生した、「ハックドラッグ」の取り込みデイールだ。発端はイオン傘下で将来展望が見えなくなったハックドラッグ(会社としてはCFSコーポレーション】が調剤薬局大手のアインホールデイングスと経営統合を発表したことだった。
CFSコーポレーションの筆頭株主だったイオンは面子の上でも、業界売上高の面でもCFSコーポレーションは、他社には譲れない存在だった。当時の勢力図でいえば、ハックドラッグは発祥の地である神奈川県と東京都に強く、イオンとしては守り抜きたいエリアだった。
また、SMのキミサワは静岡県の三島や駿東郡に強く、イオンが管財人となって企業再生したマックスバリュ東海(旧ヤオハンジャパン)と商勢圏が重なる。逆にいえば、この2社が一緒になれば、静岡県東部では圧倒的なシェアを確保できることになる。
つまり、ハックドラッグがアインホールディングスと統合して、イオングループを抜けてしまうと、ウエルシアが弱かった東京、神奈川のエリアがさらに弱体化してしまうのだ。SM業態でも、キミサワが抜けることで、静岡東部での競争が激化し、その後のマックスバリュ東海の規模拡大はなかったはずだ。
そのためイオンとアインホールディングス及びCFSコーポレーションの連合軍は、議決権の委任状集めに奔走し、臨時株主総会を迎えることになる。結果的にはM&Aで大きくなってきたイオンが、機関投資家と一般投資家の支持を集め、CFSコーポレーションはイオングループに残留し、その後ドラッグとSMに解体され、ウエルシアとマックスバリュ東海と合併されていく。
このような経験を経て、イオンは事前に勝てるような準備をしたうえで、デイールに取り組むようになる。そうした意味では、今回のオアシスのツルハ株のTOBは十分な勝算あってのものではないかと思う。



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