街探シリーズ<15>吉祥寺と立川ライバル物語

住みたい街では、常に上位にある吉祥寺。中央線沿線の街としては、その人気は昔も今も高い。それを追うのが立川だ。中央線の一日の乗降客数では吉祥寺を抜いている。南武線、青梅線の始発駅であり、中央線の周辺駅からも集客が期待できる立川は、ターミナル駅としては、京王井の頭線だけの吉祥寺よりは圧倒的に優位に立っている。しかも、立川は多摩モノレールによって、これまで自家用車やバスしか移動手段のなかった、エリアを来街ゾーンに組み込むことに成功、懐の深い三多摩の中心都市になった。
かつて立川といえば、ギャンブルの街というニオイが強かった。立川競輪の開催日には、競輪場に向かう男女で北口タクシー乗り場が占拠され、タクシーを利用するのもままならなかった。また、南口にはJRA(中央競馬会)の場外馬券売場を誘致したため、中央競馬開催日には、南口サイドの街の雰囲気は一気にディープに変わった。これは街の雰囲気を犠牲にしてでも、市の財政を豊かにしたいための取り組みだった。
これは戦前、同じように軍需都市として成長した両市だが、戦後は吉祥寺が中央線サブカルの中心都市として人気になり、若者の街として集客力がアップ、武蔵野市全域で住宅開発が進んだことから住民税が増え、兵庫県芦屋市と並ぶ豊かな都市となった。
つまり、立川市は戦前の軍需都市から工業都市への転換もままならず、かといってターミナル駅の特性を生かして商業都市にもなれなかったため、ギャンブルによる税収までも組み込んだなりふり構わぬ財政政策を取らざるを得なかったのだ。

米軍からの基地返還の明暗

このように吉祥寺と立川との関係は、長らく吉祥寺優位で進んできた。それがか変化した切っ掛けとなったのは、米軍からの基地返還あたりからだ。立川は米軍基地跡地が、昭和記念公園となり、夏には花火大会、9月には箱根駅伝の予選会が行われるなど、様々なイベントの舞台となり、市外からも多くの人が来場している。武蔵野市も旧中島飛行機の武蔵工場跡地が、米軍に接収され通信部隊の基地になっていたが、そこが返還され、今は武蔵野中央公園になっている。ただ、この二つの基地跡を比較すると、その規模は比べようもないほどに昭和記念公園の方が広い。
立川は駅北口開発でも、着実に実績を上げている。百貨店ではまず高島屋が出来、それを追って駅前に伊勢丹がオープン、駅前通りにはビックカメラが出来て核になっているし、ダイエー立川店あとには、ドン・キホーテが入ってにぎわっている。
また、多摩モノレールが開通したことで、立川には北口、南口に二つのモノレール駅が出来、それと多くのビルをがペデストリアンデッキでつないだ結果、立川駅周辺の回遊性は一気にアップした。つまり、立川駅前は多摩モノレール沿線から、来街する人を受け入れることが出来るインフラ整備を着実に進めていったのだ。
それに対して吉祥寺は北口こそ駅前に小さなバスターミナルを設け、サンモールなどの商店街と接続することで、吉祥寺らしいにぎわいを実現している。しかし、南口に至っては細切れ開発のビルに多くの飲食店や小売店が入り、その権利関係を整理するだけで、気の遠くなるような手間がかかるため、武蔵野市にとっては永遠の課題になっている。しかも、かつては伊勢丹と東急百貨店の2店体制だった北口の核商業施設は、伊勢丹が撤退した後、東急百貨店とコピスに変わったが、いまひとつ活性化していない。
つまり、吉祥寺は開発が早かったために、大規模商業施設がないことと、吉祥寺へ来る交通手段に限界があることが大きなウィークポイントになっている。モノレールは無理でも、最近関心が高まっているLRTで、井の頭池、善福寺池、石神井池の東京の三大湧水を結ぶ「湧水 LINE」などを開発できていれば、練馬区からの集客は飛躍的に増えていたはずだ。

街をトータルにデザインし始めた立川

ところで、2023年には攻勢に出ているはずの立川で、高島屋立川店へのオーケー出店というニュースが流れて衝撃が走った。かねて駅前の伊勢丹との競合に敗れた高島屋がどこへ向かうのかが、注目されていたが、ついに激安スーパー導入かというわけだ。
しかし、実際に立川の街を歩いてみると、どうも様子が違う。確かに立川百貨店バトルに敗れた高島屋は撤退した。高島屋立川店は「TakashimayaS.C.」という商業ビルに転換し、各フロアにニトリ、ユザワヤ、地下1階の食品売場にはオーケーなどが入った。そしてこの転換は決して負け戦ではなく、逆に伊勢丹と明確に差別化したエリア全体での提案になっている。つまり、高質の伊勢丹と大衆性のTakashimayaS.C.の各店舗をペデストリアンデッキでつなぐことで、立川北口は街全体としての回遊性を挙げているのだ。このメリハリ演出は一見の価値ありだ。
それに対して、吉祥寺は伊勢丹の撤退以来、街の改造はうまくいっているとは言い難い。その要因は開発が早かったために、中規模の商業施設が多いことと、同質の店舗が多く利用動機が複合化されていないこと。例えば、スーパーマーケットでいえば、紀伊国屋、成城石井、三浦、京王ストアのキッチンコートなど高質・高級スーパーばかりで、いわゆる普通のスーパーはない。オーケーは吉祥寺南町に出店しているが、とても買い回りできる位置とは言えない。
つまり吉祥寺は、それぞれの店舗が多様な役割の部分を担って、街全体として提案力を上げるような「意志」は感じられない。その危機感があればこそ、吉祥寺のウエルカムゲートになっている駅ビルの「アトレ」が、テナント見直しを含む過去最大級の改装に取り組んでいるのではないか。



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