流通事件簿13「日本からスーパーストアが消える」

GMS(ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア)といわれる大型スーパーストアの原初的な形態、日本に登場したのは1960年代後半だった。以来60年弱になるが、いよいよその業態としての役割を終えようとしている。21世紀に入って2000年代にマイカルが消え、2010年代にダイエーが実質倒産、この2社はいずれもイオンに吸収された。
そのイオンは、24年2月末、ツルハとウエルシアの経営統合を発表した。枠組みはイオンがツルハの株式を買い増して子会社化して同社を傘下に入れる。事業会社はツルハがウエルシアを株式交換で子会社化して統合する。これでイオンのドラッグストア事業は売上高2兆円を超え、国内シェアは3割に迫る。この2社の店舗網は、北海道、首都圏を主体にほぼ全国に及ぶが、九州がやや弱い。したがって、九州に強いチェーンの取り込みを図るはずであり、うまくいけば3兆は確保でる可能性がある。

イオンの真意は主力業態の切り替え

このツルハとウエルシアの経営統合は、単に売上を積み上げるだけではなく、主力業態の切り替えが最終的な目的だ。国内売上高だけで行くと、ドラッグストア業態で3兆円を確保できれば、利益率5%として1500億円の経常利益が見込める。
これにグループのSMチェーンの売上高にイオンリテールの食品部門の売上高をプラスして、スーパーマーケット業態で、同じく3兆円の売上を確保し、3%の利益率を死守できれば900億円。つまり、イオンとしては現在、スーパーストアのイオンリテールがえている1兆円近い売上高がなくなっても、イオンモールのディベロッパー事業やイオン銀行の金融事業を抜きにして、売上高6兆円、経常利益2400億円を確保できれば、同社の株価は一定の水準で推移、資金繰りも優位に展開できる。
つまり、ツルハとウエルシアの経営統合とイオンの連結子会社化は、主力業態のスーパーストアからドラッグストアへの転換に他ならない。これはイオンのベースになっている「岡田屋」の家訓である「大黒柱に柱を付けて」を体現するものであり、過去の成功体験にとらわれず次世代の将来性のある事業に乗り換えることが、会社を存続させる要諦ということだ。

セブン&アイはイトーヨーカ堂の扱いがグループの将来を左右

スーパーストアをどのように位置づけるかという点では、セブン&アイグループのほうが、より深刻だ。同グループはセブンーイレブンジャパンの業績が突出しているため、連結決算ではそれほど目立たないが、イトーヨーカ堂はここ10年ほどは、ずっと赤字水準の飛行になっている。
この要因はイトーヨーカ堂の方がイオンよりもスーパーストア(GMS)としての完成度が高く、それ故に衣料品の売上をユニクロなど、カジュアル衣料チェーンにさらわれてしまうと、食品の売上だけでは店舗の利益を黒字で維持することが出来なくなるのだ。ダイエー倒産の時もそうだったが、最近のイトーヨーカ堂の2階、3階の衣料品売場は、下手すると従業員のほうが多い時間帯もあった。つまり地下1階から4階までの4層の店舗であれば、地下1階の食品と1階の化粧品・ビューティ用品売場以外には、ほとんどお客が入らない片肺飛行状態だったのだ。
そうした状況からすれば、いま実行しているイトーヨーカ堂の北海道、東北などから撤退し、首都圏、近畿圏、中部圏に展開エリア絞り込む戦略は生ぬるいと言わざるを得ない。そのように考えていたら、東洋経済の電子版にセブン&アイがイトーヨーカ堂の売却を投資ファンドと行っているという記事が出た。つまり、セブン&アイとしては、グループの健全運営を行うためには、イトーヨーカ堂の整理は不可欠と考えているということだ。
近い将来、セブン&アイとしてはセブンーイレブンとヨークベニマルなどのSMチェーンとそれを補完する専門店に経営資源を集中することで、高収益企業グループを目指す方向に舵を切ろうとしている。要するにセブン&アイも祖業のスーパーストアの切り捨てこそ、今後のサバイの条件と考えているのだ。

スーパーストアは、当面西日本で生き残る

これで日本のスーパーストアは、当面は中四国、九州に展開しているイズミだけとなる。しかし、イズミのゆめタウンで展開しているスーパーストアは、百貨店がなくなりつつある地域で、それらの店舗の代替機能にもなっている後進性ゆえに存在感を発揮、必ずしも業態として確立しているとは言えない。オーケーやロピアなどディスカウントスーパーが本格的に展開すれば影響はあるはずだ。
つまり、西日本もセブン&アイは天満屋ストアやイズミと提携して、影響力を残そうとしているが、果たして思惑通りにいくかわからない。

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