「エコほど素敵な商売はない」ノート

第1回「棚池発電」

エコロジーをベースとした、スターための「アイデア」「コンセプト」などをまとめてみた。当然アイデアベースのため、それが実現できるかどうかについては、フォローしなければならないことはある。ただ、それにこだわりすぎるあまり、大筋を見失うとビジネスの方向性も見えなくなるため、技術開発が必要かも知れないところは、そのままにした。

新規連載の第1回として「棚池発電」を取り上げることにした。棚池とはやや聞きなれない言葉だが、インバウンドで来日した外国人に人気が出ている「棚田」とか「段々畑」をイメージしてもらえればと思う。これには理由があって、私の出身地の淡路島は、東京23区ほどの面積にピーク時2万個ほどの「ため池」があった。というのも、気候は温暖なのだが雨が少ないうえに、大きな川がないため水田耕作に苦労してきた。その水不足を補ったのが「ため池」だった。正確な記録ではないが、戦国時代末期に約7万石と言われたコメの取れ高は、江戸時代に蜂須賀氏が領主となり、大型の「ため池」を開発すると倍以上の15万石近くまで増えた。このとき開発された「太郎池」「次郎池」「三郎池」は、兄弟池は淡路島唯一の平野である三原平野を潤し、コメの増産や明治以降は玉ねぎ栽培に不可欠の「水」として活用された。

淡路島の北部は丘陵地帯、平野部は南部に集中

淡路島の地形は北部は300~500m前後の丘陵が続き、南に行くに従い平野部が増えてくる。したがって島に多いため池も、北は小さく南に行くほど大きくなる。ただ、今回ビジネス化できるのではないかと考えているのが、北部のため池だ。そのイメージがよくわかる光景が明石大橋ができてから運行を始め淡路島行きの高速バスからよく見える場所がある。バスに乗って20分ほどすると、淡路島に入り、さらに15分ほど走ると旧北淡町棚田が見えてくるが、田んぼの中にため池が点在している。つまり川がない北淡町あたりでは、棚田を維持するためには、ため池が不可欠なのだ。
この棚田に点在するため池の高低差を利用して小水力発電で発電できないだろうかというのが、原初的なビジネスモデルだった。そして小水力発電の機器としては、少量の水で発電できる「らせん水車」を利用してはどうだろうかと考えた。仮「らせん水車」1台の出力が毎時10kwの発電モデルが組み立てることが出来れば、5段のため池で[5kw/h×5台×24時間=600kw]になる。メンテナンスで休む日が年間35日必要として、330日稼働すれば、年間出力は19万8000kwになる。このような棚池モデルの小水力発電が100か所開発できれば、1980万kwの出力になる。
淡路島の南部に行くと、平野部が多いので比較的大きいため池ー専門用語では「皿池」が増えてくる。これは単純に言ため池では「らせん水車」の取水口を5か所ほど設定して、一つのため池の出力を上げるようにする。こちらも一つのため池で、[5kw/h×5か所×24時間=600kw]の発電ができる設備が100か所のため池で開発できれば、これでも1980万kwの発電が可能になる。つまり、この二つを合わせれば、3960万kwの発電能力を手に入れることが出来るのだ。

水の循環をどのように実現するかがポイントになる

棚池にしろ皿池にしろ、問題は水の循環をどうやって確保するかである。たとえば、5段の棚池の場合であれば、1台目のらせん水車を回すのに必要な「水」が確保できなければ何も始まらない。そこで近くの段々畑で、営農型太陽光発電で発電を行い、その電力で吸水ポンプを回して最初のらせん水車を回す。
この最初のらせん水車を回した水を、そのまま2段目のため池に落としてしまうと、次のらせん水車を回すために水を汲み上げなければならない。そこで2段目以降の池には木の板、もしくはグラスファイバー板で間仕切りして水路を作り、自然の高低差で水を流し取水口から放水して2台目のらせん水車を回す。これが3段目、4段目のため池に続いていくわけだ。
しかし、最後の段の池で水を放水してしまうと継続的に発電できない。そこで最後のため池では溜まった水を、営農型太陽光発電で起こした電力を使い、一番上のため池までホースで戻すようにする。これで考え方としては循環型小水力発電モデルが、完結することになる。ただ、現実はもう少し複雑で、日照りが続くとため池の水は蒸発したり、雨水の浸透水がなくなるので水量は減少する。そこでそのような事態を見越して、予備のため池を用意しておく必要もあるし、中長期的にはため池の周りに雨水桝を埋め込み、雨水を有効活用する必要がある。

淡路島の電力需要を小水力発電でほぼ賄う

では先ほどの年間発電量、3960万kwで淡路島の電力需要量のどれほどを賄えるのだろうか。淡路島は温暖な瀬戸内海にあり、海沿いの集落では、大都市のようにエアコンをつけっぱなしという事はない。しかし、農家では農繁期に夜中仕事をするため、一般家庭よりも電気は使う。そこで仮に、1か月1世帯が300kwの電気を使うとすると、全島合わせて約5万2000世帯強なので、年間1872万kwになる。これに洲本市、南あわじ市、淡路市の3市の行政機関や関連施設、最近は廃校が増えているとはいえ、小中高校、病院、一般事業所などを合わせても、循環型小水力発電でほぼすべてが賄える可能性が高い。
淡路島は従来から、太陽光発電、風力発電など再生可能エネルギーを積極的に開発してきており、これら既存エネルギー源だけで、かなり電力自給率は高い。したがって、もし循環型小水力発電が稼働すれば、自然エネルギーの輸出ができる島になるはずだ。

電気自動車(EV)を蓄電池として活用する

もう一つ、淡路の電力が小水力発電で自立してビジネスモデルとして成立させるために必要なのは、電気自動車(EV)を蓄電池として活用することで、大手電力会社ー淡路島の場合は関西電力ーのくびきから自由になることだ。小水力発電の場合は、太陽光発電と違って理論的には24時間度の時間帯でも発電できるという利点はあるが、送電を大手電力に頼ると、いつ寝首をかかっるとも限らない。
そこで淡路島小水力発電モデルでは、棚池、皿池の発電ユニットごとに大型蓄電池を備え、利用者にはセルフのガソリンスタンドで給油するイメージで急速充電してもらい、夕方から翌朝にかけてはそのEVを電源として生活してもらう。幸い淡路島の多くの家庭では夫婦2人はそれぞれ車がなければ生活できなため、車の複数所有が普通だ。その上、兼業農家であれば軽トラや島独特の農民車まである。これらの所有車を、行政からの補助金を利用してEV化していけば、1台を夜間は蓄電池として利用することは可能だ。軽トラにしろ農民車にしろ兼業農家であれば、農繁期の利用が中心であり、小水力発電の蓄電ステーションで軽トラに充電して使用電力を賄えば、大手電力の送電網からは自由になる。しかも大災害があっても、停電などの影響は免れる。
電気料金面でも小水力発電は有利だ。現在主力となっている火力発電では、化石燃料はほぼ輸入であり、ウクライナの戦争などがあると、それが急騰することもある。それに対して淡路島の「棚池」や「皿池」を利用した小水力発電の場合は、水の確保とその循環システムを構築できれば、化石燃料よりもはるかに安くエネルギー源は確保できる。電気料金をいくらにするかは、綿密な計算が必要だが、現在の電気料金より高くなることはないと思う。
また、この小水力発電では、地元自治体や個人が出資する形で、新しい会社を作ってオペレーションすれば、その売上は地元に残り、今後の淡路島成長の原資となる。これは各家庭のエネルギー料金が大手電力に吸い上げられ、地元には何も残らないこととは大きな違いである。

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