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いちばん簡単なこと

最近は村上春樹さんの「ねじまきどりクロニクル」を毎日読んでいる.
すごく長い小説だ.
最近村上春樹さんの本を何冊か読み始めたのだけれど,とっつきにくい印象を僕が勝手に抱いていたことに反して,読んでみると普通におもしろい.

物語の展開も,小説をあまり読まない僕にとっても面白いなと思える.
また,彼の独特なオリジナリティというような部分(癖の強い部分)が,なんというか,読んでいるこちらも癖になる.
独特な言い回しや,回収されていないように見える奇妙な要素とかね.

ねじまき鳥クロニクルの第2部に「17 いちばん簡単なこと,洗練されたかたちでの復讐,ギターケースの中にあったもの」という章があった.

主人公の叔父が,彼の飲食店経営のビジネスで成功する秘訣を主人公に教えるというシーンだった.

そこで語られていたことは,

「世の中の多くの人は,ビジネスで飲食店を出店する時に,まずは色々と物件の家賃やら1日の見込み客の数,仕入れの金額,粗利率などなどの数字を集めて,それを元にいろいろな計算をする.
その計算結果から,そのビジネスがうまくいきそうだと考えられたら実行に移す.

これはつまり,物事の優先順位の高いことから順に考えて片付けていくという方法だ.だから失敗する.
一方で自分(叔父)は,物事を考える時に,いちばん優先順位が低い,簡単なことから取り掛かる.それも優先順位の低い簡単なところに他の人に比べて圧倒的に長い時間を,馬鹿みたいにつかう.

例えば,ある場所に飲食店の出店を考えていたら,その場所に行って,一日中そこを通りがかる人の顔をみる.朝から晩までずっとそこで通る人の顔をただみるのだ.それを10日なり2週間なり毎日繰り返す.
これは他の人のやり方と比べて全く簡単なことに馬鹿みたいに時間を使う行為だ.

でもこれをやると,そこを通る人の顔をずっとみていると,自分がその場所でやろうと考えていることと,その場所で求められているものが合うのかどうか,不思議とよくわかる.
自分はただそんな,優先順位の低い,いちばん簡単なことから順に実行するだけで,今まで飲食店の出店に失敗したことがない.」

こういうことが書かれていた.
もちろんフィクションの話であるし,実際にやってみないと本当にそういうことがあり得るのかどうかよくわからない.
それに僕は飲食店経営をやってみるつもりもない.

だけどなぜか,この話は僕にすごくリアルで説得力のある話に聞こえた.
理由は自分でも説明できないけれど,きっとそうなのだろうと思った.

村上春樹さん自身,20代前半から30歳くらいまでジャズバーの経営をなさっていて,それなりにうまく経営が回っていたという事実も説得力を持たせているのかもしれない笑

でも,その場所に行って,そこを通る人の顔を見る.というのはすごく良さそうだ.何日も何日もそこを通る人の顔を見ていると,何か共通点が見えるような気がする.

それは以前に読んだ「アイデアの作り方」という広告の良いアイデアを作るための方法について書かれていた本の内容と似ている.ターゲットになる消費者に関する情報と,売ろうとしている商品についての情報をうんざりするほど見比べて,各要素を比較して,組み合わせについて考える.という内容だった.それとどこか共通点があるように感じる.

そこを通りがかる人の顔を見て,自分のやろうとしていることと,その場所を比べる.
そういう「いちばん簡単なこと」こそ,実は確かにいちばん効果的なのかもしれないなあと思った.

人の顔や表情というのは実は読み取る力を鍛えたらとんでもない情報量を備えているのかもしれない.とかも思った.

人の顔をよく見て生きていこうと思う.

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