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自由進度学習(下)

 このクラスには、34名の児童が在籍している。このうち、最初から最後まで一人で活動していた子は10名ほどで、他は2〜4名のペアやグループで学んでいた。これらのペアやグループは、本時の課題別に集まったというよりも、日常の人間関係などをもとに構成されているように見受けられた。

 また、一人で活動している子どもたちのなかにも、時々近くの子と情報交換をする姿が見られた。さらに、各自が学習の途中経過を「ロイロノート・スクール」に投稿することにより、学んでいる内容を相互に参照できるようになっていた。これは「孤立した学び」になることを防ぐための手立ての一つだといえるだろう。

 ・・・25分間の「自主学習(もしくは学び合い)」が終わると、最後は10分間の「答え合わせ、ミニ練習問題、振り返り」の時間である。しかし、「自主学習(もしくは学び合い)」の時間が少し伸びたことに加え、片づけや元の座席に戻るまでに時間がかかったことなどから、正味の時間は5〜6分というところだった。


 自由進度学習については、次のような疑問や批判の声を耳にすることがある。

・一定の「学習規律」が確立されていない学級や学年で実施することは難しいのではないか。
・思ったほど学力が向上しないのではないか。
・教師の負担が増すのではないか。

 まず、1つ目の「学習規律」の必要性については、そのとおりだろうと思う。今回のクラスの場合には特に問題は感じられなかった。しかし、「自由」とは名ばかりの「無法地帯」になってしまうようなケースもあることだろう。

 2つ目の「学力」の向上については、今回の参観だけでは判断が難しい。たとえば「知識・技能」については、一斉学習のなかでドリル等による反復練習を取り入れたほうが、もしかすると学力は向上するのかもしれない。

 また、時間の関係もあってか、今回は求積の仕方を「同じ三角形を逆向きにして重ね、平行四辺形にする」という方法に絞っていた。けれども、一斉学習のなかで子どもたちからもっと多様な方法を引き出し、話し合っていったほうが「思考・判断・表現」の力が向上した可能性もある。

 しかし、子どもたち一人ひとりが最後まで集中して学習に取り組んでいた様子から、少なくとも「主体的に学習に取り組む態度」の向上については、自由進度学習の効果が出ているように見受けられた。

 3つ目の「教師の負担」については、個に応じた多様なプリント類を準備することだけを取っても、一斉授業に比べて大きいと言わざるを得ないだろう。ただし、校内で学習資料や学習支援のノウハウが蓄積されるとともに、子どもたち自身が自由進度学習に慣れることによって、ある程度は負担が軽減されていくのではないかと思われる。


 この学校で、5年生の算数の学力について見てみると、C層とD層を合わせた人数が全体のおよそ3分の2を占めるという実態がある。
※注:市全体の学力・学習状況調査(算数)の成績(通過率)によって、A層から順に人数を4分の1ずつに分けたもの。

A層(21%) B層(16%) C層(34%) D層(29%)

 こうした実態から、5年生の担任教師たちは一斉学習の限界を感じていたという。

「通常の授業では、C層とD層の子どもが理解できない」
「だからと言って、C層とD層の子どもに合わせた授業をすれば、A層やB層の子が飽きてしまう」

 こうしたジレンマのなかで辿りついたのが、自由進度学習だったのだという。

 たしかに、今は様々な課題があるだろう。だが、5年生の担任教師たちに自由進度学習に対する必要感や切実感、そして続けていく覚悟があるのならば、次第に課題を克服し、定着をしていくのかもしれない。他の学年に展開していくことも可能だろう。

 逆に言うと、そうした必要感や切実感、覚悟がない学校が形だけを真似したとしても、自由進度学習は上手くいかないのではないか、と感じた。

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