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「五円玉」と社会科の授業

 小学校5年生の社会科の授業。4月上旬に行うその第1回目の授業で、「五円玉」を用いる実践が広く知られている。

 まずは授業の始めに、「五円玉」の表面の拡大図や写真を提示し、そこに何が描かれているのかを子どもたちに問うのだ。

 稲穂が描かれていることは、すぐにわかると思う。一方、「五円」という文字の周囲にある横線が海を表しているということについては、教師からのヒントが必要になるかもしれない。また、穴の周りに描かれている歯車については、クラスの中に何人かは気づく子どもがいるだろう。

 続いて、これらの稲穂、海、歯車が、それぞれ農業、水産業、工業を意味しているということを説明する。そして、
「5年生の社会科では、この『五円玉』に描かれていることについて学習していきます」
 と、まとめるのだ。

 私自身も、5年生を担任したときには、社会科の「授業びらき」でこの実践を行っていた。いわゆる「鉄板」のネタである。また、子どもたちの意見が活発に出るのか、「海」や「歯車」に誰が気づくのかなど、そのクラスの状況を把握するためのバロメーターにもなっていた。


 たしかに昭和の時代には、農業、水産業、工業に関する学習が、5年生の社会科の大部分を占めていた。

「5年生の社会科では、この『五円玉』に描かれていることについて学習していきます」
 と言っても、けっして間違いではなかった。

 けれども、このデザインの「五円玉」が最初に発行された昭和24年(1949年)の日本と現代とでは、事情がずいぶん異なる。今の小学校5年生の社会科では、農業や水産業、工業以外にも、情報産業、防災や環境保全、国土の様子などに関する内容を扱うことになっており、「五円玉」の内容は全体の半分以下なのだ。

 これには、日本の産業構造が昭和の時代とは大きく異なってきたことが関係している。国立社会保障・人口問題研究所の産業別就業人口および割合の統計によれば、2020年の場合、
・第一次産業(農業・林業・漁業):3.3%
・第二次産業(製造業・建設業・鉱業):23.4%
・第三次産業運(運輸・通信業、卸売・小売・飲食業、金融・保険業、不動産業、サービス業など):73.4%
 となっているのだ。


 この「五円玉」の授業は、子どもたちにも印象的らしい。卒業生から、
「5年生のときの『五円玉』の授業のことは、今でも覚えています」
 と言われることもある。

 だが、もうアップデートが必要なのかもしれない。

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