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奈良教育大学附属小学校で何が起きていたのか?【上】

 国立奈良教育大学附属小学校の教育課程を巡って、母体である奈良教育大学のWebページに、1月17日付で「お詫び」の文章と報告書が掲載された。

 その冒頭には、学長と校長による「お詫び」の言葉が載っている。

 令和5年5月、奈良教育大学附属小学校において、教育課程の実施等に関し法令違反を含む不適切な事案がある旨、奈良県教育委員会から連絡があり、奈良国立大学機構理事長の指示のもと調査委員会を設置しました。
 調査の結果、明らかになった不適切事項は、学習指導要領に示されている内容の実施不足(授業時数・履修年次・評価の実施不足等)、教科書の未使用等です。
 本事案の発生は、当校児童や保護者はもとより、広く国民からの信頼を裏切ることとなり深く謝罪いたします。また、正義を教え尊ぶ教育機関であり、さらには将来の教師を育成する教員養成大学附属学校でありながら、その使命と責任を果たすことができなかったことは、学長として慙愧に耐えません。
 今後は、在校生と卒業生に対しては回復措置を実施し、失った学びを確実に保障するとともに、二度とこのような事案を発生させることのないよう、諸関係機関の協力を仰ぎ、当校並びに本学教職員が一丸となって信頼回復に努めます。

   令和6年1月17日
奈良教育大学長 宮下 俊也

 奈良教育大学附属小学校は、我々奈良県で教育に携わる者にとって、唯一無二の存在であって、他の公立学校がお手本にする存在であると、公立教員であった私自身はこれまで考えてきました。しかし、校長として4月に赴任し、毛筆指導、道徳、外国語などが不十分であることや、職員会議の決定権が強く校長の権限を制約していることなどに疑問を感じました。その改善に向けて職員会議に提案や指示をすることで本来の姿を取り戻したいと努力しましたが、私自身の力不足によりその改善を図ることは出来ず、今回このようなことになってしまいました。保護者・児童の皆様、関係者の皆様には、心よりお詫びを申し上げます。
 本校の教員は子どもに対して実に丁寧にきめ細かく指導していたことは間違いなく、驚くほど前向きに自分の言葉で話せる児童が多いことも事実です。今回、このようなことになり、保護者・児童の皆様の信頼を失うことになってしまいましたが、今後は、法令遵守を心掛けることを大前提とする中で、職員一丸となって地域のモデルとなるような研究を進める優れた小学校をめざし、一から努力を重ね皆様の信頼を取り戻す所存です。  

令和6年1月17日
奈良教育大学附属小学校長 小谷 隆男

 この件に関する報道内容などをもとに、問題点や議論になっていることを整理してみたい。
 まずは、次の5つの点である。

① 各学校の教育課程における学習指導要領や教科書の位置付けの問題
② 学習内容に対する学校や教師の裁量の問題
③ 校長の権限や職員会議の役割の問題
④ 教職員の組織体制の問題
⑤ 心理的安全性や「風通し」など、組織風土の問題

 また、国立大学附属校に特有の内容としては、次の5点があるだろう。

⑥ 研究推進、学生の教育実習の受入など、学校の役割に関する問題
⑦ 公開授業、研究発表等に関する問題
⑧ 教員の採用、異動、人事交流の問題(特に校長の人事)
⑨ 母体である大学との連携に関する問題
⑩ 国立大学附属校の存在意義に関する問題

 このうち⑥と⑦は、今回の「不適切な事案」と直接の関係はない。だが、研究や教育実習、発表などが同校の教育課程に少なからず影響を与えていることは間違いないだろう。


 ①~⑩については、それぞれが単独の問題として存在しているわけではなく、相互に関係している。

 しかし、一つ一つ問題を整理して考えていかないと、その本質を見誤ったり、過剰な反応を生んだりする危険がある。 

 そして、
「学校教育への政治の介入」
 という問題につながる可能性も出てくるだろう。(つづく)

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