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45歳・教員の「越境学習」 ~日本財団での1年間~(23)

かち歩き大会①

 1年間の研修期間中、日本財団が助成している様々なイベントに参加をさせてもらう機会があった。その中でも特に印象深いのは、公益社団法人 青少年交友協会が主催する「かち歩き大会」である。

 主催者のホームページにも記されているように、「かち歩き」の「かち」とは【勝(勝つこと)】と【徒(歩くこと)】を意味している。
 1969年(昭和44年)に始まり、毎年3月と11月に開催されているこの大会は、順位やタイムを競うのではなく、長い距離を「飲まない・食べない」で歩くという自己鍛錬が目的なのだ。
 自己鍛錬。その具体的な内容として、次の4つが示されている。

1.健康と体力の向上
2.心身の鍛練
3.疲労の体験
4.自己への挑戦

 ちなみに、どのくらい長く歩くのかというと、東京の新宿から青梅までの約43kmである。フルマラソンとほぼ同じ距離だ。
 スポーツ関連の事業を担当するM常務からの勧めもあって、11月の大会に私も参加してみることになった。

 2006年(平成18年)11月12日(日)の朝、私は都庁の近くにある新宿西口中央公園に集合した。ここが「かち歩き」のスタート地点なのである。いっしょに歩くのは、やまと競艇学校での研修にも共に参加した新人職員のY君とS君の2人だ。
 このうち、S君は市民マラソンに何度か参加した経験があるということなので、おそらく歩くのであれば楽勝だろう。一方のY君の脚力は未知数だが、それでも私よりは二回りも若い。不安があるとすれば、やはり私自身の体力である。それでも、「まあ、走るのならともかく、歩くんだから大丈夫だろう」と楽観的に考えていた。

 集合場所には、Y君とS君の1年先輩であるAさんの姿もあった。しかし、彼女は我々に配られたのとは違う種類のゼッケンを着けている。聞いてみると、
「43kmの青梅コースではなく、23.5kmの東村山コースにエントリーしたから」
 なのだそうだ。周囲を見回すと、彼女と同じ種類のゼッケンを着けているのは家族連れが多い。
 そんな「ファミリー向けプラン」というか「ハーフサイズ」があるんだったら、そっちにすればよかったかも、という気持ちもよぎったが、このときも、「まあ、走るのならともかく、歩くんだから大丈夫だろう」と考えていた。

 午前8時30分。いよいよスタートである。とは言え、順位やタイムを競うわけではないので、スポーツの大会特有の張りつめた空気はない。周囲には笑顔もあるし会話もある。なにしろ、「歩くんだから」なのである。

 だが、スタートしてから5kmほどで、自分がこの大会を甘く見ていたことを思い知らされた。なぜなら、いっしょに歩いているY君が、しきりに生あくびを始めたのである。これは明らかに酸欠の症状だった。(つづく)

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