教員の「残業代」が3倍になるわけではありません
本日(8月22日付)の『読売新聞』の一面トップに、
教員の「残業代」3倍に増額へ
という記事が載った。
しかし、正確に言うとそれは「残業代」ではない。記事の本文にもあるように、
「残業代の代わりに一律支給されている「教職調整額」を、基本給の4%から13%に引き上げる方針」
を文部科学省が打ち出し、概算要求をするという話なのだ。
・・・仮に、概算要求のとおりに「教職調整額」が4%から13%に引き上げられたとして、東京都の初任者が受け取る額を試算してみた。
次に、「もしも勤務実態通りに『残業代』が支払われたら」という場合を想定して試算をしてみたい。
時間外勤務手当の額(残業代)は、1時間当たりの賃金(時給)に25%分を上乗せしたものが基準となる(ただし、1か月の残業時間が60時間を超えた場合は、それ以降の上乗せ分が50%になる)。
1日に8時間、週に20日間働くとすると、東京都の初任者の場合、
265,100(円)÷8(時間)÷20(日間)=1656.875(円)
時給は「約1,657円」という計算になる。これに1.25を掛けた「約2,071円」が基準額になるのだ(60時間を超えた分についは、1.5を掛けた「約2,486円」が基準額となる)。
もしも「過労死レベル」と呼ばれる「月80時間」の残業をしたとすると、「残業代」は次のような額になる。
先ほどの「約34,460円」と比較すると、14万円近い開きがあるのだ。これは、あくまでも初任者の場合である。50代のベテランだと、それぞれの額は倍程度になるのだ。
「教職調整額」の仕組みに慣れた公立学校の教員には俄かに信じられないかもしれないが、こうした残業代の仕組みは企業や役所で働く人たちにとっては常識である(無論、企業や役所にも「サービス残業」というものはあるだろうが)。
私が教育委員会に勤めていた当時、繁忙期の人事部門では、
「残業代を含めると、20代の職員の手取りの額のほうが50代の部長よりも多い」
という「逆転現象」が起きていた。
年度末の人事異動の時期には、その「当てはめ作業」や事務手続きのために担当部署には膨大な量の業務が発生する。月の残業が「100時間」を超えるという職員も珍しくない。
当然、上司は「業務量」と「職員の心身の状態」を見極めながら超過勤務の可否を判断しなければならない。万が一のことがあったとき、労務管理上の責任が問われるからだ。だから「残業代」も勤務実態どおりに支給されていた。
一方、部長や課長などの管理職には、月に数万円の管理職手当が支給されるものの「残業代」は発生しない。そのために「逆転現象」が生じるのだ。
「残業代」とは、本来の労働時間以外に働かせたことに対する「賠償金」のようなものだろう。それに対して、「教職調整額」はあくまでも「見舞金」というレベルだ。
このまま「教職調整額」の増額によって長時間労働の問題に決着をつけようとすることは、無理矢理「示談」にもっていこうとする辣腕弁護士のやり方と変わらないだろう。
多くの教員たちが求めているのは「見舞金」ではなく、過剰な長時間労働が解消され、仕事に「ゆとり」と「やりがい」をもって取り組めるようになることなのだから。