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「厳罰主義」の背景

 今から4年前、川崎市立の中学校に勤める30代の女性教員が、市の制度である特別休暇を申請した。

 この特別休暇の制度は、コロナ禍で保育所の臨時休業や登園自粛要請が行われたことに伴い、自宅で未就学児を世話しなければならない教職員向けに新設されたものある。

 しかし、この制度を利用しながら、何日間か子どもを保育園に預けて出勤したところ、それが特別休暇の不正取得に当たるとして、市教委が給与など28万4718円の返納を求めてきたのだ。

 これを不服とする女性教員が、市の人事委員会に対して適正な措置を要求することが明らかになった。

 この女性教員は、
「業務の必要性から出勤したのに多額の返納を求められる理由はない」
 と主張し、東京新聞の取材に対しても、
「このような形になるのは本当に残念」
 と話している。

 少々わかりづらい話なので、順を追って整理していきたい。

・川崎市では2020年5月から、コロナの感染拡大防止のため、保育所の臨時休業や登園自粛要請により自宅で未就学児を世話しなければならない場合、特別休暇を取得することが認められた。

・当該の女性教員も特別休暇を申請していたが、同年5月に2日間、6月に1日間の合計3日間、生徒が写真撮影などのために1~2時間ほど登校するのに立ち会うため、出勤する必要が生じた。

・そのため、この3日間は子どもを保育園に短時間預けて勤務した。

・市教委は昨年2月、教職員29人が特別休暇を不正に取得していたと公表した。具体的には、特別休暇を申請したのに子どもを保育園に預けていたり、時間単位で申請できるのに1日分の申請をしたりしていたことなどを理由に挙げた。

・この女性教員も文書注意を受け、該当する3日間については特別休暇ではなく、本来は勤務すべきなのにそれをしなかったと認定された。

・そのことが勤勉手当の引き下げの対象になり、市教委から計28万円余りの返還を求められている。

・この女性教員は20年5月の時点では時間単位で特別休暇の取得ができることを知らされていなかった。また、いずれの日も管理職に事情を話し、了承を得て出勤していた。

・この女性教員は、「職務を全うしようと思い、保育園に頼み込んで子どもを預けて仕事に行った。久々の登園で何かあればすぐにお迎えに行ける状態にしたかった」と休暇のまま短時間勤務した理由を説明し、適正な措置を人事委員会に求める方針だという。

・今回の「処分」が是正されないと、今後の昇級にも影響し、生涯賃金にも差が出てくるという。

・代理人の弁護士は、「コロナ禍の混乱期の中、市教委の周知不足に起因する手違いで不正とは言えない。1カ月分の給与に相当する多額の返納を求めるのは法的に認められない」と批判している。

・一方の市教委は、「いろいろな検討の中で厳正に対処した」としており、この措置が適正だったと強調した。


 川崎とは別の自治体ではあるが、学校にも教育委員会にも勤務した経験がある立場として言わせてもらえば、
「たしかに違反といえば違反だが、情状酌量の余地は大きい」
 と感じる。

 肌感覚でいえば、4段階の処分(免職、停職、減給、戒告)には該当せず、「厳重注意」か「文書訓戒」あたりが妥当なところだと思われ、約1カ月分の給与に相当する額の返納というのは重すぎると言わざるを得ない。

 ・・・川崎市といえば、昨年度のことだが、市立小学校の教諭がプールの給水操作を誤り、水を出しっぱなしにしていた問題で、市が当該の教諭と校長に損害額の半額にあたる約95万円を弁済させたことで話題になった。

 他の自治体とは明らかに異なる「厳罰主義」の背景には何があるのか?

 東京新聞には、今後も継続した取材と報道を期待したい。

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