見出し画像

「スマホ」という「妖精」?

 以前、通勤電車の中で見た光景である。
 私の向かい側の席に座っている7人が、全員、片手にスマホを持っていじったり眺めたりしていたのだ。

 電車内でスマホを操作すること自体は、別に珍しくもない光景である。だが、年齢も性別もバラバラな7人が、ほぼ同じポーズでスマホに向かっている様子には、さすがに驚かされた。


 星新一の短編小説に『妖精配給会社』という作品がある。そのストーリーはこうだ。

「妖精」は10年前のある日、空から送られてきた卵から孵ったものだった。単為生殖によって次々と繁殖を繰り返す「妖精」は、愛玩動物として社会に受け入れられる。

 リスぐらいの大きさの「妖精」は、主人が残した食べ物を唯一の餌とし、どこへでも主人に伴い、けっして逆らったりしない。やがて、「妖精」の普及に伴い、それを管理する「妖精配給会社」が設立され、誰もが自分専用の「妖精」を持つようになる。

「妖精」の最大の特徴は、「主人をひたすら褒め称える」ということだった。どんな時にも側にいて、常に適切な言葉遣いでお世辞を送る「妖精」は、いつしか人々にとって唯一無二の娯楽となっていく。そして、それに呼応するように社会全体は活気を失っていくのだった・・・。


 近年のスマホは、端末自身の機械学習によって、ユーザーが求める情報を次々と表示してくれる。「主人」が好む情報は積極的に伝え、それ以外のことは覆い隠す。それは「妖精」たちがやっていたことによく似ている。
 人間が「妖精」を操っているのか、それとも・・・。

 ちなみに、星新一の『妖精配給会社』の結末が、ハッピー・エンドでないことは言うまでもない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?