見出し画像

『mid90s』:「背伸び」と「解放」

 スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回は、東京五輪で大きな注目を浴びたスケートボードを題材にした映画『mid90s ミッドナインティーズ』を紹介したいと思う。

 本作は『スーパーバット 童貞ウォーズ』『マネーボール』等の出演で知られるジョナ・ヒルの監督デビュー作品。製作は『ミッドサマー』をはじめ、ヒット作を送り出すA24スタジオが手がけている。 

〇 自身の経験にもとづく「背伸び」の物語
 物語は、誰しもが身に覚えがあるだろう、思春期の少年が抱く【背伸び】をテーマとしている。監督インタビューによれば、監督自身の自伝的な内容ではないものの、自身が育ったスケボーカルチャーを題材にしていることから、全編を通じてドキュメンタリーに近い質感を受ける描写もある。 

 主人公・スティーブンは、何とか手にしたスケボーを通じて憧憬を抱いていた年上の仲間の輪に加わることで多くの経験を積む。怖いものを知らずの若さゆえの危なっかしさを含んでいるものであるが、彼にとっては今までの生活には無かった非日常体験が刺激を与えてくれる。

〇 自身の精神を開放するカルチャーの存在  
   しかしながら、物語の本質は、彼らのやんちゃ自慢ではなく、監督の言葉を借りれば、本作におけるスケボーのような「自身の精神を解放するカルチャー」が持つ価値を伝えることだと思った。多感な時期を過ごす彼にとって、一緒にスケボーを親しむ仲間と過ごす時間は家庭内で抑圧された自分を救ってくれる存在でもある。

 自分自身はこれまでの人生においてストリートカルチャーに馴染みが無かったが、好きな音楽・映画・アニメ等のカルチャーなり、アイドルのような「推し」の存在に支えられてきた人ならば、本作におけるスティーブンの気持ちに寄り添えるのではないだろうか。冒頭に取り上げた「背伸び」の要素と併せて、本作の当事者意識が芽生える部分だと思う。監督の経験を題材にした物語だが、どこか自分の出来事のように感じられる作品。

 また、日本のティーンズ向け作品との大きな違いとも言えるが、記憶の冷凍保存のようなかたちに留めないのもアメリカの青春映画の特徴ともいえるだろう。カルチャーは社会と何かしらのかたちでコネクトし、そして少年たちは大人になることを丁寧に伝えている。ジョナ・ヒル監督が本作を作った理由に想いを巡らせた。

 有明の空を華麗に舞った選手たちが見せたパッションは、これまでの五輪では見られなかったものだった。本作から垣間見れるストリートカルチャーの中にある仲間たちの関係性を知ると納得できる部分もある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?