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『キーパー ある兵士の奇跡』:敵意を乗り越えた「赦し」を考える

 スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回は、EURO2020開催中ということもあり、6月にDVD・配信でリリースされた映画『キーパー ある兵士の奇跡』を紹介したいと思う。

 本作は、第二次世界大戦後のイングランドを舞台に活躍した元ドイツ軍兵士のGKの半生を描いた実話に基づく物語である。
 主人公としてピーター・トラウトマンは、マンチェスター・シティのゴールを500試合以上守り続けてた実在の選手である。映画・サッカー好きな自分としては、日本公開前から楽しみにしていた作品でもあった。

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 戦争映画・スポーツ映画の双方において興味深い内容であった。特に主人公が周囲の敵意と自身が負った心の傷の向き合い方から、戦争について今一度考えさせられたことは印象に残った。
 本作のテーマは、負の経験がもたらす敵意を乗り越えた「赦し」を描くことだと思う。このテーマ性は民族・宗教、あるいは経済格差に伴う分断の起こる現代にも通じる内容だと思う。格差と分断は、各国を舞台にした社会派映画の多くも取り上げているところであるが、本作はその先にある相互理解と赦しについて描いており、鑑賞を進めながら大いに唸らされた。

 また、1940-50年代のイングランドフットボールの雰囲気を感じ取れる映画としてもシンプルに楽しめる。収容所の賭けPK合戦にはじまり、地域の中にあるクラブチーム、マンチェスターシティの正GKとして活躍するサクセスストーリーとしても魅力的な作品だと思う。イングランドにおけるフットボール文化の長い歴史を改めて実感させられる。

 「最高の寝不足」が続く欧州選手権であるが、こうした大会はヨーロッパのサッカー文化に触れる絶好の機会でもある。そして、本作もまた欧州の奥深いサッカー文化を知る良い作品だと思う。

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