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『ヤング≒アダルト』:青春の呪縛

 今回はスポーツ関連の作品ではないが、GWに鑑賞した映画『ヤング≒アダルト』(Amazonプライムビデオ配信中)を紹介したいと思う。

 物語は、学生時代はスクールカースト最上位のプロムクイーン、現在は売れない小説家のアラフォー女性・メイビスが、妻子持ちの元カレから届いたメールをもらったことを契機に、元カレを寝取って美しい青春時代をやり直そうとするものだ。

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 主演を務めたのは、『マッドマックス 怒りのデスロード』(2015年)のフェリオサ役でも知られるシャーリーズ・セロン。フェリオサ=「戦う女性」の象徴的存在としても捉えられていたが、2020年に入って日本公開された『ロングショット』(アメリカ初の女性大統領を目指す国防長官役)『スキャンダル』(セクハラ問題を告発する女性キャスター役)といった作品で主演だけでなくプロデュースに携わるなど、彼女自身も女性のエンパワメント活動の旗振り役としても活躍中。
 近年における彼女の役回りから考えると、本作における自己チュー&サイコパスな役柄のギャップもまた凄いのでオススメしたい(笑)また、彼女が自信のフィルモグラフィの中で様々な立場の女性を演じることで、立ち位置を横断してきたことが現在の活動にも影響を及ぼしてる可能性もある。

 本作のテーマとなるのは「青春の呪縛」である。主人公の女性は、青春時代の輝かしい思い出に突き動かされる(彼女が書いているのは、若者向けのヤングアダルト小説というのも皮肉な構図である)。それは、自身が描いた未来を手にできなかったという現実から逃避するため、彼女は地元に戻って人生をやり直そうとするのである。

 映画の鉄板ネタでもあるが、若者たちは夢と現実の狭間で悩み苦しみ、選択を求められる。多くの若者たちは大きな夢を捨てざるを得ず、現実との間で妥協をつけることで大人になる。一方、選択した結果が上手くいかなかったり、人生に停滞が続いてしまうと「こうすればよかった」と自分史の修正を求めたくなる。メイビスは、そうした願望を行動に移してしまったというわけである。

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 余談となるが、「青春の呪縛」を取り扱った作品群は、リアルタイムでも多く見かけている。例えば、今年公開された岩井俊二監督の最新作『ラストレター』もそうだった。本作に登場する小説家・乙坂(福山雅治)は、高校時代に恋心を抱いた同級生・美咲(広瀬すず)のことが忘れられないまま、年齢を重ねて中年になった。彼は、美咲を題材にした小説を執筆して評価を受けるものの、同じ題材ばかりを取り上げるようになり、小説家として伸び悩んでしまう。彼もまた「青春の呪縛」に取りつかれた人物と言える。

 乙坂は、美咲が歩んだ人生の全体像を把握することで複雑な感情を抱き、改めて現実と向き合うようになる。ネタバレになるので、詳細は避けるが、青春の呪縛を振り払うためには現実と向き合う必要があることを伝えてくれるように感じた。

 こうした考察から、本記事の主題である『ヤング≒アダルト』の話題に戻していくと、失われた青春を取り戻す、ノスタルジーを消費しようとするメイビスの行動というのは「現実逃避」の延長線と考えることができる。「中年の危機」も控える年齢に達し、彼女の行動・発想は異常なモノでと考えられるが、原理自体は理解できるものだろう。そして、彼女は到底改編不可能な現実に対し、どのように向き合っていったのか。ココまでの感想を読んで気になった方は、見てほしいと思う。


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