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ひみつの時間

おひとりさまで食事をしたり観光をしたり、一人〇〇というものが巷では多く存在するようだ。私はパートナーにひみつにしていることが一つある。
それは一人和幸を楽しむことである。和幸はあの和幸で、トンカツやフライの有名なお店だ。私は、決まって「ロースかつご飯」を注文する。一食1000円越えする食事は普段、滅多に摂らないためご褒美にと自分を甘やかす至福の時間と化した。高ければ良いと言うものではない。デットラインは1500円である。大体、駅前の複合施設のレストランフロアを物色するのだが結果的に和幸に訪れることが定着し始めた。今日は外食してやる!と腹を括る時は、大体空腹で心も万全でない。あと、油っこいものを身体が欲している時だ。お店に入り席に着くや否や「ロースかつご飯」でと注文する。周りを見渡せば、婦人方がお喋りに夢中だったり、夫婦で食事をしていたり、仕事帰りと見られる人がいたりと時間の流れが穏やかであった。若い人がいないということも一人和幸で自分の時間を確立できる理由なのかもしれない。熱々のロースかつが運ばれてくる。食べやすいようにカットされたロースかつを更に小さくするように一口噛みちぎる。サクッという音を身体全体で感じる。何という幸福感。誰とも共有せず自分のものだけにしたいという独占欲さえおぼえてしまう。豚肉もジューシーでしつこくない。ソースも練りがらしもおしんこも美味しい。豚ロースには、肌トラブルの予防に良いとされるナイアシンが多く含まれているから尚更気持ちが昂る。落ち着け落ち着けと言い聞かせ白米をかき込む。和幸は、キャベツ・ご飯・お味噌汁がおかわり無料なのが加点ポイントだ。バランスよく食べ進め、このおかわり制度を程よく活用することがミッション。文章にすると全く休まっていない気もするが、この食事が何にも補填することができない、しかもきっと生きるうえで大切な何をチャージしているような気がしていた。気がするだけ。お会計で我に帰る。微々たる楽天ポイントをつけお店を後にする。後悔はない。満たされた胃袋と心を踊らせながら向かう先はお手洗い。結局、出るものは出てしまう。虚しい気持ちを抱え、空腹のパートナーと合流した。何か食べたと聞かれ、満腹であったためハンバーガーを食べたと嘘をつきその場をしのいだ。ハンバーガーには申し訳なく思う。そして、今ハンバーガーを食べながら思い出す。その日その日の気分や出会いが食事にはある。たとえ一人であっても、食べることへの思い出を増やしていきたいと感じながら、ロースかつのあのサクッとした食感を思い出す。

end.

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