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group_inouについての私見

 group_inouという音楽ユニットがいる。荒唐無稽な歌詞を、エレクトロニックな音楽に乗せる二人組である。トラック担当のimaiさんと、MC担当のcpさんの二人によって構成されている。

 私が人生に悩んだとき、苦しんでいた時に、彼らの音楽をよく聴いていた。彼らの音楽は、将来が不安でどこにも居場所のない宙ぶらりんの私を、見事に掬い上げてくれた。私にとって、生きる為の、よすがだった。

 私は大学四年生の夏休みに、精神を壊して二ヶ月ほど京都に滞在していたことがある。特にその頃に、group_inouを聴き続けていた。彼らの楽曲は、狂いきった現実に抵抗するためには、こちらも狂わなければならないと思わせてくれた。荒唐無稽であればあるほど素晴らしい、支離滅裂であればあるほど惹かれる、魂が揺さぶられる。自分の創作の方向性・指針を明確にしてくれた二ヶ月だった。

 以下では、group_inouの好きな曲について、アルバムごとに紹介する。



FAN

 まずは、ファーストアルバム『FAN』より。

「MAYBE」

 この楽曲を私が一言で表すなら「焦燥」であろうか。今にも爆発しそうな感情を、疾走感の溢れる音楽に乗せている。特に「壁に向かってる独り言 おちおち寝てられない!」の叫び方が、本当に心からの叫びに聞こえて、かっこいい。何をしても認められない、創作者になりたいのに、部屋に引きこもって消費者で居続ける自分に強烈に刺さった。とにかく、泥臭くてかっこいい曲である。


「SHIP」

 「MAYBE」が、部屋に引きこもって自意識を膨らませているような楽曲だとすれば、この「SHIP」は、実際に一歩頑張ろうと踏み出してから苦境に陥っているようなイメージがある。どこか余裕はあるが、輝けるまでは時間がかかりそうな、「前夜」のような雰囲気を感じる。



_

 セカンドアルバム「 _ 」より。(読み方は、“アンダーバー”)

「ZYANOSE」

 この曲を聴くと「肺がバグってチアノーゼ」という言葉が頭の中で止まなくなる。しかしそこだけじゃなくて、「夜中ドライブ 内部 心 気持ち だいぶナイーブ」や「暗闇の波を見ている」という歌詞にも惹かれる。無理して明るく振る舞っているような、明るく振る舞うために色々と手を出してしまっている感じが痛々しいほど伝わってくる。


「HEART」

 やはり私がgroup_inouを語る上で、この曲は外せないし外したくない。この「HEART」は好きな部分しかないのだけど、最も好きなパートは「この韻踏みちょうどいい」という歌詞の部分である。私なんかはミーハーなので、ヒップホップは韻が踏まれていればいるほど「すごい」と思ってしまうのだけど、この「韻を踏むこと」を言及してしまう自由さというか、「韻を踏むこと」を斜に構えて見ている感じ、いや、本当にどうでもいいと思っている感じが、大好きである。好きな歌詞を、小気味よさに感覚的に従って並べたいように並べているのが分かる。

 京都に滞在していたときに、鴨川の河川敷を歩きながら「神戸でゆかり 京都でなぎさ ハマでは新機軸のジュリアン」の部分をずっと聴いていた。漂うようなリズムに身を任せて歩くのが楽しかった。



DAY

 サードアルバム「DAY」より。個人的に、group_inouで一番素晴らしいアルバムであると思っている。また、私が全てのミュージシャンのアルバムの中で、最も好きなアルバムでもある。

「CRISIS」

 もう、言葉で表すなんて無粋なくらい素晴らしい曲である。私がgroup_inouの中で、最も好きな曲はこれである。この「CRISIS」を聴きながら、京都の街並みを半狂乱で叫びながら走り回った。聴いているだけで身体が自然と動いてしまっていた、我慢できなくなって、アパートを飛び出して、鴨川の河川敷を全速力で走っていた。

 特に「レモン水の領収書 ナニカノ集合体デス」から終わりにかけての盛り上がりが最高に気持ちよくて、自分の信じる道を突っ走っていけば必ず報われる、と言ってくれているような気がする。そして、group_inouにとっての、これが俺たちの創りたいものだ、という煮えたぎるような感情が投げつけられている気がする。それでいて、この曲には、そんな嫉妬や憎悪やルサンチマンを一つ超えた、類い稀なき爽やかさが、備わっている。


「JUDGE」

 この曲は聴いていて本当に心地良い。飄々としていて自然体で、どこにも穿った視点が見られない。生々しさみたいなえぐみのある部分が少なくて、純粋な作品としての完成度が非常に高い。作者の背景みたいな部分が見えにくいのが、少し残念であるが、いけるところまで行くと、こんな感じの作品が創れるのだろうな、と思える曲である。


「STORY」

 この曲も非常に好みで、「CRISIS」と甲乙つけ難いくらい好きである。この曲の特筆すべき点は、前半と後半の雰囲気のギャップである。前半では漂うように揺らいでいる曲調が、後半にかけてエンジンがかかっていくように変化する。

 特に「とろんと不思議なハーモニー」から「アイムソーリー」にかけての部分が、どうなってしまうんだ、私をどこまで連れ去ってくれるんだ、と思わせてくれるくらい超常的で、凄まじい。そんな振り落とされてしまいそうな感覚が、むしろ心地いいと思える曲である。



MAP

 フォースアルバム「MAP」より。活動休止前に出された、最後のアルバムである。group_inouは、どのアルバムもジャケットが素晴らしいのだが、この「MAP」は、特にジャケットがカッコよすぎる。近未来で最高、あゝ最高。

「EYE」

 数ある彼らの楽曲の中でも、こんなにワクワクさせてくれるイントロを持っている曲は他にないだろう。そしてイントロの期待に負けない、破壊力のある素晴らしいクオリティ。この曲は緩急が凄まじい、身体が自然と動いてしまうのはもちろんのこと、緩やかなパートでは身体が自然と落ち着いてくる。

 この曲も、最後の「できない気がしていた できると思っていた」の叫びが魂に響いてくる。去ってゆくアウトロも電子的で、人間の理から外れている雰囲気が気持ちいい。何度でも聴きたい、どんな気持ちの時も聴きたい、と思えるような素晴らしい曲である。


「BLUE」

 タイトルから歌詞から、そしてこのジャケットから、これほど青くて瑞々しい曲はない気がする。「EYE」がどんな時でも聴きたいと思えるような曲だとすれば、この「BLUE」は、疲れている時や癒されたい時に聴くのがオススメな曲だと考える。

 歌詞が、透き通っているような、それでいて丸みを帯びているような印象を覚える。繰り返される「足から飛びたいな」の歌詞に、色々な意味を考えてしまうというか、少しだけ重みを感じられるのも、「BLUE」の冷たさを感じられてよい。

 「レッツゴー レッツゴー スイミングタイム」が、この世で最も素晴らしい歌詞であることは言うまでもない。



最後に

 本当に好き勝手に書いてしまったのだけど、私が彼らの曲を聴いて感じたこと、思ったことのまとめ、というだけです。imaiさん、cpさんの創りたかったもの、表したかったものが何なのかは分からないけど、あなたたちの音楽を聴いて、生きることを続けようと思った人間が、確かにここにいます。

 再結成、なによりも嬉しい!新譜の「HAPPY」についても書きたかったけど、まだしっかりと聴けてないから書くのはやめておきました。それでも、時間を経て、さらにパワーアップしたgroup_inouが帰ってきて、とても嬉しかった。

 読んでくださった皆さんも、よろしかったらgroup_inouを聴いてください。私も、まだまだ魅力に気づけていない曲がいっぱいあることは分かっているつもりなので、これからもたくさん聴いていきたい、と思っています。読んでいただき、ありがとうございました。





小林優希

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