【養成所】 七月・ライブなど



一人暮らし

 最近は、一人暮らしを始めようと奔走しているので、知らない番号からたくさん電話がかかってくる。


 不動産屋、電気、ガス、水道、インターネット関係まではまだ分かるのだが、先日はウォーターサーバーの会社から電話がかかってきた。


 状況をよく理解していない私が、従順に電話口に合わせて「はい、はい」と頷いていたら、そのままウォーターサーバーを契約することになってしまっていて、泣きじゃくって「やっぱり契約したくないです」と暴れまくったら、キャンセルということで受理してもらえた。


 ウォーターサーバーの会社のあの営業スタイルが合法的にまかり通ってるのって、もはや詐欺じゃないか?何も考えずに返事して契約しちゃうほうが悪いのか。


 という話を、同じクラスのサモエズ・下田くんに話したら、俺も俺も!と全く同じ経験談を話してくれた。彼も引っ越しの際に、ただ頷き続けていたらウォーターサーバーを契約する流れになっていたらしい。テキトーに「はい、はい」と言い続けることは良くないのだ、と学ぶことができた。



ライブが近い

 私たち養成所生の初舞台となる、ライブが近い。心なしか養成所内でも、ライブが近づくにつれて緊張感が高まっている気がする。


 私といえば、いつも通り夏の暑さに虐げられながら、負け顔のまま汗をたらたら、養成所内にぬらりと入り込む。


 休憩時間に、クラスメイトたちと輪になって雑談をする。一見、第三者からすると順調に見えるコンビにも、色々な思いが飛び交っているのだと知る。


 私が養成所の中をノロノロと歩いていると、カラマリソテーの千田が親しげに話しかけてきてくれる。正確には、千田は誰にでも気さくに話しかけてくれるナイスガイなのだが、彼に話しかけられると気分が明るくなるので嬉しい。


 みんな、初めてのライブを楽しみにしている。私も不安の方が大きいが、楽しみにしている。


 お笑いについて、今まで、誰かと腹を割って話せたことは一度もなかった。それが、実際に、対面で、同世代のみんなと、お笑いについて話せている。


 コロナ禍で、誰とも会えなくなって、毎日死にたいと思っていた頃に思い描いていた夢を、いま実際に叶えている。


 なんて素晴らしい日々なんだ、こんな素敵な日々がいつまでも続いてくれたらいいのに、なんて思って、私は今日も総武線の車窓から、濁り切った神田川を眺めている。


 いま頑張れない人間が、いつ頑張れるというのだろう。自分への戒めのように噛み締める。







小林優希

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