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七月①

 ここにあるだけの夢を川で遊ばせ、流れにまかせて、流れに逆らい、夜には静かな炎がもえ始め、君に伝えたいだけ、でもどこにも君はいない!



六月二十九日(土)

 時間というものは誰にでも平等に分けられているらしい。「UNDER25 OWARAI CHAMPIONSHIP」という、25歳以下の人だけが出られるお笑いの賞レース(正式名称、いま調べて初めて知った。)があって、私も相方も23歳なので何も疑問に思うことなく参加した。一回戦が動画審査だったので、この日はまず、その提出用のネタ動画を撮影するところから始まった。

 いつも通り昼過ぎに相方と集合してから、近況報告で一時間、(共に野球好きなので)野球の話で一時間、その後に好きな天ぷらの話で一時間半、その後もグダグダと喋っていたら夜になりかけていた。急いでネタを撮影をして、相方をパチンコ屋に押し込み、真ん中通るは中央線に乗り込む。船橋までは、電車で一本である。

「人は誰でもみんな死ぬさ」

太宰治『ダス・ゲマイネ』

 半年ぶりに、地元である千葉・船橋に帰る。こんなに長く船橋を離れたのは生まれて初めてだった。高校時代の友人たちと、邂逅。

 かつては共に死んだ魚のような目をして、教室の中心に居る陽気な人種を嘲笑し、文化祭のステージの上ではしゃぐ運動部を憎み、勉学に励むわけでもなく、スポーツに打ち込むわけでもなく、モールス信号で意思の疎通を図ることなどに時間を費やしていた日陰者の私たちも、気づけば既に23歳になってしまっていた。蝉の鳴き声も聞いていないのに2024年は折り返しを迎えている。

 お酒を酌み交わす。高校時代の友人たち、皆が皆、それなりに大人になっているのだけれど、私だけは未だにコーンフレークの食べ過ぎで家賃が払えなくなったりしている。大学院に進んで、何やら機械工学の研究をしている友人がいて、さっきまで笑顔で酒を飲んでいたかと思ったら、ふと「…大学に六年も居る?」と自分の境遇を俯瞰し始めたりして、かなり追い込まれているのだと思った。

 そのまま月明かりに照らされて母校まで歩いて、何組の女子がさあ、なんて高校時代のやるせない話を皆で蒸し返した。そんなの今さら話しても何になるんだよ、と思ったけど、私も同調して、誰々がさあ、あったよなあ、そうだよなあ、と声高に歩いた。月明かりに照らされても誰も狼男に化けることが無かったのは理系クラスの性だったのか。六年経っても、私たちはあのホコリ臭い化学教室の匂いに包まれていた。

カメラを向けられるとブレさせたくなる。

 そのままゾロゾロと住宅街を歩き続けて、私は始発電車に乗り込んで大都会・東京に帰るのであった。

(天ぷらの話の余談だが、私は、天ぷらの中でイカ天が一番美味しい、と言って、相方はえび天と鶏天が美味しい、と言っていた。シソの天ぷらも美味しいよね、と言ったら、憐れむような目で「葉っぱじゃん」と言われた。これだからお子ちゃまは、と返して、そこからは水掛け論だった。)

 

 

七月四日(木)

 新宿バッシュ!!にて開催された「ラガエルバトル!!」に出させてもらった。観に来てくださった皆様、関係者の皆様、ありがとうございました。ここで久しぶりに会った、めおしぼたん(養成所の同期コンビ・プロダクション人力舎所属)の、神崎竜生に「note書けよ」と言われて、確かに最近なにも書いていないな、と思ったので、今回この日記を書いてみることにした。

 「プルペコ」さんというコンビと初めてお会いした。失礼ながら、クレヨンしんちゃんの敵キャラみたいな見た目の人たちがいるな〜、と勝手に思っていたら、ネタが強烈で面白くて、終演後に直ぐにツイッターをフォローさせてもらった。僭越ながら話しかければよかったと思っている。

 私の高校時代の先輩がライブを観に来てくれて、相方は差し入れのタバコを(カートンで!)貰って喜んでいた。そのまま相方とご飯を食べに行ったんだけど、店に入るなり即決でうな重を頼んだので、こいつ、何かを成し遂げた人間しか許されない注文をしている、と思った。

店員さんに「うな重も、ごはんおかわり無料なんですか?」と聞いていた。たくさん、たくさんおかわりしていた。



七月六日(土)

 アルバイト。夕方から信じられないくらい雨が降ってきて、雷鳴が鳴り止まないので「ポイントカードはお持ちですか?」の声がお客さんに届かなかった。終いにはカミナリが店に直撃したらしく、爆発音のような雷鳴と共に店が停電した。先輩が「停電だ〜」と呟いて、「そう来ましたか…」とデータ派の参謀のように返してしまった。僕の計算に無いぞ。

 お客さんたちの安全を確認していたら、電気が復旧した。胸を撫で下ろしたのも束の間、停電の影響でレジが使えなくなってしまって、手打ちで勘定をすることになった。お客さんを待たせてしまって怒られたりもした。自分にあまり非が無いので、申し訳ございませんとは言いつつも、そこまで申し訳ないとは思わなかった。接客業を辞めなさい。



七月七日(日)

 相方とネタ合わせの予定だったけど、暑いので電話で済ませることにした。洗濯をして、昼にパックの寿司を食べた。

 19時から、小松海佑さんの芸人限定単独公演を観に行った。七夕の高円寺はむせ返るような暑さで、夜なのに路上に陽炎が揺らいでいるように思えた。

 公演、終わり。アンドレ・ブルトンの『溶ける魚』が読みたくなった。ショートショートの詰め合わせが一本の串で刺さっているような漫談だった。

 なんとなく、家に帰る途中で箱のアイスを買ってみた。小松海佑さんの漫談を噛み締める。内容の節々に、かすかに夏の匂いが香る気がしたし、私が「生活」の全てに夏を感じようと思って生きているだけなのかもしれない。

 帰宅。志らく師匠の、ABCお笑いグランプリの講評を目撃する。

 ああ、かっこいいなあ。好きなお笑い芸人ばかりだ。自分の考えていることを明瞭に文章に表してくれる志らく師匠、大変尊敬している。



七月八日(月)

 あまりの暑さに比喩ではなく溶け落ちそうだ。昼下がり、新宿バッシュ!!にて、「N 2, 3minutes」に出演させてもらった。MCトークを経て、なぜか出演者全員の仲が良くなった気がした。

 新宿西口、喫茶ピースでコーヒーブレイク。途中からワタナベヤマト(養成所の同期、博徒)が来店して、歓談して帰宅。人類史上最高の発明は、エアコンである。

エモーン化されたパタ、気持ちいいんだよ。

 夜。足の伸ばせる風呂に入りたい、と、家を飛び出して、銭湯に行(ゆ)く。

交互浴→スプライト一気飲み



七月九日(火)

 サイゼリヤでランチ。ハンバーグを食べる。今年になって初めて、蝉の鳴き声を聞いた。夏が始まった。

 夜。なかの芸能小劇場にて、「パワーオブフリー(S)」に出させてもらいました。窓辺のピーマン(養成所の同期、人力舎所属)も居ました。相変わらず、元気そうでよかった。湿り気はあまりありませんでした。

窓ピ



七月十日(水)

 キングオブコント2024、一回戦でした。出番が早かったので、朝の九時半に船堀駅に集合。船堀って、どこですか?(江戸川区らしい。)

 都営新宿線で向かったのだけど、普段は乗らないので、都営新宿線という電車がどれくらい混んでるか分からなくて、不安だった。結局、ガラガラだったので直ぐに座れた。

 荒川を渡って船堀駅に着いて、久しぶりに大きな水を見ることができて、とても嬉しかった。知らない電車だと、あっという間に目的地に着いちゃうな。

 出番が終わる。舞台上から見た客席が妙に暗くて、遥か昔に演劇をやっていた頃の記憶を思い出したりしていた。こういう大きい会場、なんか久しぶりだな。

キングオブコント
「お前は写んないの!?」と言っている。

 夕寝をする。目が覚めたらキングオブコントの合格者が発表されていて、落ちていた。残念!なんか、こんな努力量とかウケ量じゃあ、ダメなんだろうな。もっと頑張ります!頑張らせてください!





小林優希

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