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何のための、誰のためのベンチマーク?

Macのベンチマーク(性能評価)ソフトといえば、GeekbenchCinebench8K映像の書き出しなどがよく試されています。アプリケーションは、DaVinch ResolveだったりFinalCut ProだったりAdobe Premiere Proだったり。

これらのラインナップを見て分かるのは、マルチコアCPUやGPUを活用したものばかりで、

「日常的にそんなもん使ってるのは、YouTuberか映像製作者ぐらいなのでは?」

というところです。日常生活で実際に使っている感覚と遠すぎるというか、内容が違うのでほとんど指標になりません


ベンチマークソフトの処理内容が参考にならない

いつも、なんとなくそれっぽく説明を聞いてはいるんだけれど、ベンチマークの内容があんまり参考になりません。もう、話半分とか4分の1とか、そこはかとなくそんなシラけた反応をしている人間がここに1人。

だいたい、ベンチマークの「中身」というのは見たことがないですし、意味のある処理を行なっているのかもわかりません。

本当は従来機種と新機種の「差」というのは、もっと小さいのかもしれないですし、逆にもっと大きいのかもしれません。従来機種と新機種の得意・不得意の分布がまだらになっていて、等しくx.x倍というものではないのかもしれません。

自分のかつてのメインマシンは、MacBook Pro Retina 2012でした。これ以降のIntel Macは新機種になってもそれほど速度向上が体感できず、ズルズルと買い替えタイミングを逃して使い続けていました。

場合によっては(2017年の13インチMBP最下位モデルとか)、2012年のMBPRのほうが速かったりして、実に悩ましい2010年代であったのです。これでは、AppleもIntel CPUからの乗り換えを決意してしまいますよね(最近は気合いが入っているように見えるので、Intelにはもっと早く本気を出してほしかった)。

いちど、iMac Proを仕事で使ったことがあって、手元のプログラム(AppleScript)でベンチマークを行なってみたところ、

(1)全国の700箇所の位置情報と、全国の8,000箇所の鉄道駅の位置情報からそれぞれ「最寄駅」を計算し、「最も駅から遠い地点」を計算するAppleScript

(2)所定の配列の全パターンの順列組み合わせを計算するAppleScript
{"G", "T", "A", "C"}
--> {"ATGC", "ATCG", "AGTC", "AGCT", "ACGT", "ACTG", "TAGC", "TACG", "TGAC", "TGCA", "TCGA", "TCAG", "GTAC", "GTCA", "GATC", "GACT", "GCAT", "GCTA", "CTGA", "CTAG", "CGTA", "CGAT", "CAGT", "CATG"}

で、だいたいMacBook Pro 2012とiMac Proで処理時間は1.5から2倍速ぐらいの差がありました。価格差は、5倍ぐらいあったと記憶しています。

Xeonプロセッサは多数のコアを搭載することで処理性能を稼ぐ構造のCPUなので、シングルコアの処理性能は、普通のIntel CPU(Core i7とかi5とか)と比べると、下手すると低いぐらいの味付けの製品もあり……たまたまこの2機種を比べるとこんなもんだったという話です。実際、Mac Proの後継機種(Xeon搭載機)ではシングルコアあたりの処理能力は下位モデルを下回ることがありました(フォントの読み込みとか)。

もちろん、使っていて快適だとか、別の仕事をしていても影響が出ないとか、スピーカーの音がいいとか、画面が美しいとかいった上位機種には上位機種なりの「いいこと」がたっぷりあったのですが、5倍の価格差を正当化できるほどの差はなかったように感じました。

Apple Silicon Macは得意不得意な点がIntel Macとはまったく別

これが、Apple Siliconの登場でひっくり返ります。日常的に行う作業がことごとく高速。しかも、これが最下位機種のMac miniなのに。

日常的にIntel Macで「遅い」と感じていたのが、画面の外観モード切り替え処理。ライトモードとダークモードの切り替えが、MBPRではあくびが出るほど遅かったのです。それが、Apple Silicon Mac上だと、あっという間。10倍できかないぐらいの差がついていました。多くのアプリケーションを立ち上げてウィンドウを大量にオープンしていると、露骨に差がつきます

その後、Apple Silicon Mac+macOS 11の環境ではAppleScriptやshell scriptの実行が「ものすごく遅い」ことが発覚。Appleにバグレポートを書いてmacOS 12で大々的に修正されることになったのでした。これらがPコア(処理性能重視)ではなくEコア(省電力重視)で処理されていたため、「ものすごく遅い」状態。もちろん修正後は、目玉が飛び出るほど高速に。

自分でベンチマークを作るしかない?

それはいいのですが、自分がやりたい処理について、新型のMacが出てきたときに「どの程度速いのか」がわからないと不安です。そして、YouTuber様方がせっせと投稿しているビデオでは、まったく参考になりません

自分が行なっている処理では、アプリケーションからのPDF書き出しとPDFの連結あたりが「気になる」ところです。1,000ページ分のPagesの書類(複数の書類に分かれています)を自分が使っているM1 Mac miniでは7分ぐらいでPDF出力処理できるのですが、これがM2やM3になると速くなるのかならないのか。

これが、人によってはFileMaker Proのソート速度であったり、Microsoft Excelの再計算の速度だったり、Webブラウザでページをオープンする速度だったりすることでしょう。

そこで、かなり古典的な方法ではあるのですが、店頭で実機にさわって試してみました。「AppleScript 1億回単純ループ時間測定」です。

set a to current date
repeat 100000000 times
end repeat
set b to current date
display dialog (b-a) as string

これを、店頭のMacで「スクリプトエディタ」を起動して打ち込み、実行して結果を見てみるのです。

結果は、

M2 MacBook Air:2秒
M2 MacBook Pro 14インチ:2秒
M3 Max MacBook Pro 16インチ:0〜1秒

ちなみに、手元にあるM1 Mac miniで実行すると、

M1 Mac mini:3秒

だったので、これがM3 MaxのMacBook Proに乗り換えると3倍速くなる? じゃあ、1,000ページ分のPages書類のPDF書き出し+連結が2分ぐらいで終わってしまうの???

店頭でさわってみてちょっとクラっときてしまいましたが、実際にこんなペースで速くなるとはとうてい思えません。実際にアプリケーションを操作して動かしたときの、総合的な内容で判断すべきでしょう。

手元にM2やM3のマシンがあれば、さまざまな角度から検証できるのに残念です。ああ、本当に残念です。


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