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1人で作る電子書籍

本来、「本」は複数の人間の共同作業によって作るものです。しかし、自分以外に頼れない場合には1人で作ることになります。


編集ワンマンアーミー

本のようなものは、チームで作るのが普通です。企画や構成、編集を行う編集者。表紙や本文のデザインを行うデザイナー。誤字脱字のチェックを行う校閲。本文を執筆する筆者。宣伝や販売を行う営業。

役割分担したほうが、それぞれの領分に専念することができますし、クオリティも上げられます。です。太陽が東からのぼる、ぐらい当たり前のことです。仕事で行う分には、作業分担を行わない書籍の現場などありません。

ですが……他人にお願いする予算がなく、自分1人だけで作るとなったらどうなるでしょう?

1人ぼっちで本を作るというのは、非常に不幸な出来事です。ライターの原稿で予想外の発見があったりもせず、表紙のデザインに一喜一憂したりもしません。向き・不向きでいえば、向いていない人のほうが多いことでしょう。

そのかわり、最初から最後まで自分の思ったとおりのものができます。

……全体の構成を行なって、必要な素材を集め、必要であれば本文を書き、レイアウトして「本」にします。自分で作った部品のとおりに完成し、自分の実力以上のものはできません

1人で作ってみよう!

どこから手を付けるかは人それぞれ。知人の編集者に聞いてみたところ、自分とはまったく違うやりかたで作っていました。

本の「テーマ」は最初に決めることでしょう。ここでは、例としてアーケードゲーム「戦場の絆」の歴史をまとめた本を書くことにします。

本のタイトルを決めます。昔からあたためてきた「僕らのn年戦争」をタイトルにします。15年続いたゲームなので、「僕らの15年戦争」でしょうか。

表紙。知り合いが撮った写真が、まるで「表紙に使ってくれ!」という出来だったのでお願いして使わせていただきました。タイトル部分は知り合いがデザインしてくれました。

本の表紙を決めます。なんかいい感じの画像を中心に構成することが多いです。フリー素材を使うこともあれば、身の回りで利用できるものを使うこともあります。このあたりでデザイナーの力を借りられないと、インパクトが減ってしまうところですが、1人なので仕方ありません。

ここで、表紙は最後に作るという人もいます。やりやすい順番で作ればよいことでしょう。自分は最初に表紙を作ります

全体の構成(章構成)を考えよう

1章 人気アニメ作品から生まれた人気アーケードゲーム
2章 戦場の絆ってどんなゲーム?
3章 「戦場の絆」の構成要素
4章 バージョンアップの歴史
5章 仲間を感じろ!こいつは、メンテナンスとの戦いだ!
6章 絆体感TV「第07板倉小隊」
7章 運営体制の変化と歴代5人のプロデューサー
8章 ガンプラとゲームの絆「模型の絆」
9章 おうちでP.O.D.伝説
10章 シンボルチャットが生んだ新言語
11章 サービス終了後のオフライン稼働
12章 PSP版「戦場の絆ポータブル」
13章 「戦場の絆」のルーツを探る
14章 「戦場の絆」次世代への模索
15章 年表、資料集

最初からこの構成になったわけではありません。途中でボツにした章もありますし、途中で追加した章もあります。

このあたり、自分が書けるかどうかを冷徹に見極めないと、「いつまでも完成しない章」というものが出来てしまいます。もうできない、と判断したらその章削除です。このあたりの「できる」「できない」という見極めができないと、永遠に完成しません

実際に使えるアプリで作ってみよう!

一般的に、商業ベースの紙の書籍はAdobe InDesignで作られています。ほぼ9割9分、そうだといって差し支えないでしょう。下手すると10割かもしれません。

InDesignは、表現力や自動化への対応度など、文句のつけようがないアプリケーションですが、毎月利用料金がかかるのと、メジャーバージョンアップすると書類の互換性がなくなる悪癖があるのと、(自分にとって)直感的にレイアウトできないという欠点があります。

自分がやると、いまひとつ「思いどおり」のレイアウトになりません。毎月Adobeに支払うのは、Acrobat分だけにしておきたいので(PDF圧縮のために必須)、縦型のページの本はAppleのPagesで、横型のページの本はAppleのKeynoteで作っています。何を使うかは、それぞれ得意なものを使えばよいでしょう。

ただ、自動化してまとまった処理ができるアプリを選ばないと苦労します。けっこうな割合の作業を自動処理で行なっているので、対応していないアプリだと作業の手間暇がかかります。

なるべく分割。ファイル名で並べ替えて連結するので、ファイル名に「仮想ノンブル」(ソート用の番号)を振っています。自動処理AppleScriptがこうした番号や章番号を読み取って「ツメ」を付けるようになっています

書類ごとの分け方にもコツがあります。数十ページも1つの書類でまとめて作ると、前後関係を入れ替えたり、差し替えたりするのに苦労するので、なるべく小分けにして作るとよいでしょう。

まえがき

まえがきを書いてみます。この本はどういう本で、誰に向けて書いたという自己紹介がないと、その先を書き続けられません。まえがきを最後に書くという人もいますが、本の方向性は最初に決めないと作れません。

奥付(おくづけ)

奥付を作ります。まだ決定していない内容はダミー文字(「□」)でもなんでもいいです。このあたりは気分なんで、どういう項目がないといけないとかはありません。本を作るのにお世話になった人や、手伝ってもらった人の名前を羅列してもいいでしょう(この本の場合には、お世話になった人が多すぎて「Special Thanks To」ページに列挙させていただきました)。

少なくとも、本を読んだ人が感想とか文句を送りたいと思ったときの連絡先ぐらいは入れておくとよいでしょう。

裏表紙 なにげない写真がぴったりはまることもある

裏表紙も作ってしまいましょう。あとから差し替えられるので、とりあえずそこにそのページが存在しているということが大事です。

トビラページ。無駄に見えるかもしれないが、意外と重要

各章のトビラページを作ってみましょう。なんとなく大きな文字でそれっぽく存在していればいいです。

ここまで、各ページはなるべく記事単位で別々の書類で作っています。トビラ1ページ分で1書類とか。あとで入れ替えたり別の場所に移動させたりすることもあるので、なるべく細かく(ページ単位で)分割するのがよいでしょう。

記事を足したら、1冊通しで眺めよう

ここまで作ったら、いったん全ページをPDFに書き出して1つのPDFにまとめます。手作業でやっていると時間がいくらあっても足りないので、このあたりはAppleScriptで全自動で行わせています。1人で作るなら、自動化できる作業はかたっぱしから自動化しないと片付きません

指定フォルダ以下のPages書類をすべて検出して、順次PDFに書き出して、ファイル名順にならべかえて連結するAppleScript。これなしでは電子書籍を作れない

本1冊分のPDFが完成したら、iPadでもPC/MacのPDFリーダーでもいいので、実際に先頭からページをめくってながめてみます。なんとなく不自然だったり、量が多すぎる/少なすぎる嫌な感じがするといった感想をメモしながらすべてのページに目を通します。文字を読まなくていいので、ページをめくってながめます。

MacのフリーPDFビューワー「Skim」で閲覧中。Mac上のイチオシのビューワー。AppleScriptによって「現在表示中のページをJPEG書き出し」などの自動処理を行える

あとは、章ごとに記事が出来上がったら、1冊分PDFをまとめて全ページをながめる作業を繰り返します。文字が詰まりすぎていないか、レイアウトがガタガタになっていないか、だいたい許せる範囲になっていたら、それでいいでしょう。

これを、1冊出来上がるまで続けます。全ページのPDF出力を自動化していないと、個別の記事だけで全体の印象を判断することになり、出来上がったあとで「こんなはずじゃなかった」と後悔することでしょう。

失敗した場合には?

うまくいけば、非常に短期間に完成まで漕ぎ着けられることでしょう。自分も1か月に8冊という記録があります。それぞれ30ページ以上はあったはずなので、けっこうな量です。2か月で1000ページぐらいの本を作ったこともあります。

1人で作るやり方では、失敗することもあります。ライターとしての自分と編集者としての自分の方針が矛盾して、いつまでたっても本が完成しないとか。

そんな時には、「塩漬け」にするしかありません。自分が本の内容をすっかり忘れてしまうまで、放置して別のことをします

チームで本を作っている場合には、チームメンバー間の意見の対立は「相談」することによって、ある程度解決できます。妥協点を見出して、前に進めることができます。本当に社会生活って素晴らしいですね。

1人でやっていると、自分を自分で許すこともできなければ、妥協点を見出すこともできません。1人だと会議もできません。なので、トラブルを起こしたプロジェクトは、しばらく放置していったん忘れるほかありません


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