ジャニーズの現場でのチケット転売について解説する

 昨今、よく目にする言説がある。それはこうだ。
「転売屋がチケットを買い占めているので、最前列の価格が高騰する。転売屋さえいなくなれば、皆が平等に欲しいチケットを手に入れることが出来るはずだ」
 まあ、これはこれで一種の正論だし、この言説を元に転売屋を排除すれば平和になる現場も一定数存在するだろう。

 しかし、ジャニーズの現場に限ってはそれは例外だ。
 なぜなら、ジャニーズの現場には「中売り」「中買い」という文化が存在し、オタクがオタク同士で高額取引をしているのである。その会場にいわゆる世間一般人がイメージする「ダフ屋」はすでに姿を見せていないのに、だ。筆者の私見ではあるが、ジャニーズに関しては未来永劫高額での取引が絶対に無くなることはない。ある程度規制されているにも関わらず、オタクたちは器用というか巧妙というかなんというか、ありとあらゆる手を使って「その席に座る権利」を売買するのである。ではなぜそのようなことが起こるのか? 拙筆ではあるが、外の世界の人間にもある程度わかるように解説していこうと考えている。

「QR」と呼ばれるデジタルチケット

 ジャニーズタレントの出演するライブ・舞台は、ごく一部の外部舞台と呼ばれるものを除いて基本的に携帯端末にQRコードを表示させ、会場入り口の発券端末に画面をかざして、レシートのように座席が印刷された紙チケットを受け取って入場する。ここで使うのがQRコードであるため、ジャニオタは取引の際、便宜的に入場権利のことを「QR」と呼称する。
 ジャニーズのチケット譲渡(もちろん大半が高額である)には、大まかに分けて
①QRごと
②同行
③番手
④ランダム
 という4種類の区分があるが、ここでは①、②の比較的単純なパターンについて解説したい。
 ①「QRごと」というのは、そのまま入場権利ごと譲渡しますという意味である。といってもジャニーズのチケットに公式リセールなんてものは存在しないのでどうやって譲るかというと、当選したファンクラブ名義の会員番号とパスワードを相手に送って教え、ログインしてもらうのである。こうして文章に書くとめちゃくちゃ原始的だ。
 ②同行はそのままの意味で、チケットを所持している人が2連番の入場権利を持っていたら、その余った1人に入れてもらうのである。ジャニーズのチケットは1つのファンクラブ名義で複数人が連番する申し込みが可能であるため、この場合QRコードは1つで2人一緒に入場する。
 では、③「番手」とは一体何であろうか?

通称「親玉」の存在

 ジャニーズのオタク界隈をウォッチングしていると、「親」「親玉」という言葉を目にすることがある。これはデジタルチケットが導入されて以降に生まれた言葉である。
 例えば、このような条件でチケット転売サイトに譲渡が出ていることがある。
「情報局先行 S席 HiHi名義 有効期限内 変更ボタン有り 3名義中2番目 すり替えなし ペイジー決済」
 これではまるで呪文である。一つ一つ解説していこう。
・情報局先行……ジャニーズJr.のファンクラブであるジャニーズJr.情報局で申し込んだチケットですという意味。
・S席……劇場の座席区分。
・HiHi名義……ジャニーズJr.情報局には、「好きなタレント」を記入する欄がある。この場合、その名義はHiHi Jetsというグループの誰かしらを好きなタレント欄に記入してありますよという意味。
・有効期限内……ファンクラブの有効期限内の名義という意味。
・変更ボタン有り……ジャニーズJr.情報局の「好きなタレント」記入欄は変更することができるが、一度変更すると一定期間は再変更をすることができない。この場合、前回に好きなタレントを変更してから6ヶ月以上経過した名義であるという意味。
・ペイジー決済……ジャニーズのチケットの支払い方法ではクレジットカードなども選べるが、この場合当該チケットをペイジーで支払っていますよという意味。

 このような呪文はチケット譲渡の際にあちこちで目にすることができるし、「変更ボタンの有無」とか「決済方法」とかそんなに気にするかという感じであるが、なぜそんなに細かい部分を重視するのかといえば、ひとえに座席が当日発券される、つまり運要素を大きく含んでいるために、できるだけ細かい部分まで購入するチケットに欠点がないかを買い手は確認しようとするのだ。もはやここまでくると、祈祷とかオカルトとか風水みたいなものに近い。「◯◯のチケットは前列が引ける」「○○したら最前が引ける」という都市伝説もひっきりなしに流布されている。混沌だ。

 さて、上記で解説しなかった
・◯名義中◯番目
・すり替えなし
 というのはどのような意味であろうか。
 この場合、売り手は複数入場に必要なQRコードを所持しており、会場外などで買い手を集合させ、それぞれの携帯に入場できるファンクラブ名義でログインさせる。そして同時に入場し、会場の隅などでコソコソとチケットを回収し、一番良い席を売り手が抜く。例えば、「2番手」とあれば、その残りから2番目に座席を選択できますよという意味だ。
 では、「すり替え」とは何なのか? それを説明するためには、「ランダム」と呼ばれるチケットの譲渡形態の解説が必要になってくる。

 例えば、入場できるQRコード(発券されるチケットは単番とする)を5個持っている「親玉」がいるとしよう。
 ランダム売りの場合、「親玉」はチケット転売サイトなどを通して、「座席はどこでもいい代わりに、比較的安く入場する」という条件で買い手を探す。全員を入場させ、発券後に一旦全員からチケットを回収する。
 比較的発券がうまくいったという想定で、このような発券結果だったとしよう。
・1階A列
・1階C列
・1階F列
・1階T列
・2階A列
 回収したチケットを確認した後、買い手たちには「開演15分前になったらチケットを渡すので、再度指定の場所に集合するように」と指示して解散させる。その間に行う作業が「すり替え」である。
 このような「親玉」を行うジャニオタは、たいてい尋常でなく特定の座席・席番へのこだわりを持つ異常者である。そのため、A列XX番を引いたとしても「XX番は上手だから嫌い!私は◯◯くんの◯◯って曲の立ち位置のYY番がいいもん!」といったことも多々ある。なので、最前を引いてもさらに上乗せして買い直したりする。
 C列とかF列とかは親玉的に需要がなくてもそこそこの値段で売れたりするので、入場してから開演するまでの1時間足らずの時間で「中売り」して小銭(もっとも単位が二桁万円になることはザラなので小銭ではないのだが)を稼ぐのだ。
 C列を2階にしたり、F列を2階にしたり、開場〜開演という短い時間の中でチケットを売りまくり、これ以上はお金にならないという席を「ランダム」の買い手に開演直前に渡す。これが「すり替え」である。
 もちろん、うまくいく日ばかりな訳はない。引きが悪くお金を全てドブに捨てるような日も多々あり、おそらく親玉をしてる人の大半は年間トータルで見ると大赤字ではないだろうかと推測する。ギャンブルと一緒である。
 ちなみに会場内でどうやってチケットを高額取引するのかというと、ジャニオタ内の口頭伝承で出回っているパスワード付きの掲示板や、Twitterなどで取引をするのが一般的だ。メールである程度やり取りをしたら、電話をして会場内のトイレや人気がない場所で落ち合い、コソコソと札束とチケットを交換する。その動きは麻薬取引並みに素早いので出くわすとかなり面白い。
 中で売られているチケットが少なく渋い日には、「今日中の出回り全然なくね?」と言ったりする。短時間で欲しい番号のチケットを購入しなければならない買い手と、「その公演は見たいけど最前で見るほどじゃないや」という考えの売り手がわずかな開演までの間に心理戦を繰り広げるため、魚の競りとかの世界に近いのではないだろうか。

 ここまで長々と書いてきたが、チケット転売を絶対になくすのが無理だと個人的に思う理由としては、上記のような「中売り」「中買い」にしても、「ランダム」にしても、全員ジャニオタがやっており、ジャニオタが自然発生的に作り上げた文化である点だ。
 「QRごと」の譲渡はまだファンクラブに入っているだけのジャニーズに興味がない転売屋もやっているのかもしれないが、「中売り」などは完全に座席に対する知識や相場が頭に入っていないと難しいし、「ランダム」に至っては前列に対する強烈な執念とエネルギーとマメな管理能力がないと難しい行為だ。
 そして、デジタルチケットになってからジャニーズのチケット相場は体感で年々上昇しつつある。これにはジャニーズがYouTubeを始めたこと、昔と違ってファンクラブ入会手続きが容易にオンラインで出来るようになったことといった要因も挙げられるが、いわゆる「中相場」も相当高く、最前列が50〜70万円で取引されるなんて話もザラに聞く。
 
 ジャニーズ事務所側も一応対策しなきゃと思っている感じはあるようなのだが、いまいちITに強い人がいないのか、新しいデジタルチケットアプリが複数できたりするなど迷走を続けている。
 最前列に異常な執着を持つオタクが消えない限りもはやどんな手を打ってでも転売を無くすのは無理なので、もういっそのことセンステ最前だけ40万円の紙チケにして抽選するとかしたらいい気がする。(適当です)

 ちなみに、今をときめく人気グループのアリーナコンサートは大体入場料(転売価格)だけで10万円近くかかるのが普通なので、オタクたちが「とりあえずいろんなファンクラブに入って申し込み、興味がないグループのチケットは売り捌いて軍資金にする」行為をしているのも相場上昇の一因ではないかと思われる。

※疑問に対する回答を書きました。


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