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『フェアアイルセーター』とシングルジャカード(ニットの名前の由来〜クラフトニット②)

前回、「アランセーター」を題材に
「ある地域で生まれた民藝品としてのクラフトニットが地場産業として成功し、世界中に広まった結果、ニットのジャンルの一つとなって世界中で個人の編み手にはもちろん、アパレル製品として当たり前に模倣されている」
という説明をしました。

●固有名詞の「アランセーター」、、、、アイルランドのアラン諸島で編まれたアラン編みのハンドクラフトニット

●一般名詞の「アランセーター」、、、、個人・アパレル事業者問わず、手編み・機械編み問わず、アラン編みのパターンを使って編まれたニット全般

というような感じです。

なので、ここ数年のニットブームでアパレルの店頭にもこういうメジャーなクラフトニットを模倣・アレンジしたニット製品がたくさん並んでます。
素材もさまざまで秋冬ウールだけでなく春夏コットン、麻などでも編まれてたりします。

さらにいえば、最近はお店で本物を(本物的なモノでさえ)扱うことがほとんどなくなりました。

ハンドクラフトニットの
・生産量の少なさ
・価格が高くなりがち
・現地での産業としての衰退(メーカーの廃業、倒産)
そして
・コンピュータ編み機の進化(なんでも編めるようになってるからわざわざ本物でなくても、、)


なんかが要因だと思われます。

そんな中でもたまに扱う本物にフェアアイルニットが有名なジャミーソンズというブランドがあります。

【ファアアイルセーター(スコットランド:フェア島)】

一度は見たことのある柄だと思います。

アラン諸島はアイルランドの少し横のちっちゃい島ですが、ファアアイルのフェア島はスコットランドのさらに北のシェットランド諸島にあります。

こういう柄です。(ジャミーソンズを持ってなくて別物です、、)

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(ギャルソン定番とも言えるフェアアイル柄のニット、国内生産)

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(スコットランドのニットブランド、マカラスター:5ゲージくらい?で暑くて全然着ませんが柄が良くて処分できない。柄のピッチがこの太さになるとフェアアイルといっていいのかちょっと疑問、、、)

「ファアアイルセーター」は多色使いの横方向のこういう細かい幾何学柄の連続で全面構成されたニットです。
ニットとしては最も基本的な柄だし方法で編み方はめちゃくちゃスタンダード。

ジャミーソンズは本場フェア島にあるニットブランドであり、シェットランドウールの糸屋さんでもあります。
糸の生産からニットウェアまで手がける、一貫生産できる珍しいニットブランドです。

ジャミーソンズのフェアアイルセーターは
・伝統的なフェアアイル柄(昔から伝わるパターンがやはり無数にあります)
・ナチュラルカラーか草木染めのシェットランドウール100%
・多色使い(12色以上使うこともあるそう)
・一段(1コース)に使う糸の色は2色
が特徴です。


これが本場のフェアアイルの典型的な定義と考えてもいいと思います。
いつから始まったなど「アランセーター」ほど詳しいことはわかってないようです。

フェアアイルパターンのルーツが詳しく解説されていたのでこちらどうぞ(飛ばしても大丈夫です)


フェアアイルセーターももともと当然ハンドクラフト(編棒による)ですが、現在は手動機でもコンピューター機でも編めます。
詳しくはわかりませんがジャミーソンズも現在はコンピュータ編み機での生産中心のようです。(だからこそ今でも広く流通している。)

柄だしは機械編みでいうと「シングルジャカード」です。
複雑な柄だしですが編み地は実は天竺目です。
表の必要な場所で必要な色糸が編まれ、必要のない色糸は裏で次に表目になる場所まで飛んでます。(一段に2色の二重の糸使いですが裏糸は編まれない)

画像のニットも

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(ギャルソンの裏目です)

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(マカラスターの裏目です)

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(拡大:糸が編まれず横方向に飛んでるのがわかると思います。)

シングルジャカードニットの特徴です。
フェアアイルに限らず、柄ニットの裏を見てこうなってれば「シングルジャカード」です。

復習がてら比較してみます。普通の天竺の裏目はこうです。

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(一段一色。天竺裏目の横うねが続く組織)

こういうボーダーのニット。

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(ゴールドラメのテープヤーンっぽい糸とウールのオフ白の糸のボーダー)

表目の拡大です。

画像9

普通の天竺目。逆Vの字が縦に並んだように見える組織。

ボーダーは天竺目で一定の段数ごとに色糸の切り替えをすればOK。

シングルジャカードは一段に2色の色糸を使って表に出す色の場所をコントロールして柄を構成します。
表にでない所は編まれないで次に表にでる所まで裏で飛んでいるだけ。

飛んでる糸がしっかりおさまって編まれてないとすぐに引っ掛けの原因になります。(シングルジャカードの欠点の一つです)

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「フェアアイルセーター」も「アランセーター」同様、ルーツとなる本物が現存するものの、世界中で模倣され、ニットの1ジャンルとなってます。

アランも「アラン編み」、フェアアイルも「フェアアイル編み」として編み方も一般化しています。(普通に世界中で教えられてみんな編んでる)

<まとめ>

・「アランセーター」も「フェアアイルセーター」もルーツとなる場所、柄の特徴、編み方があるクラフトニット。

・いずれも世界中で知られて模倣されている。

・なのでニットの1つのジャンルになっていて固有名詞でもあり一般名詞でもある

・「アラン編み」「フェアアイル編み」という編み方ももちろん一般化している。

・ハンドクラフトニットはもともと真似し真似されの自由度が高いものなので線引き自体難しい

・基本的な編み地、編み柄は機械編みでも編成可能で当然既製品としては機械あみの方がむいている

・オリジナルのものはあんまり流通していない

・同じパターンで一般名称化している「有名なクラフトニット」は多数ある

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