Forked road 37/41

「ポン」と電子音が鳴りエレベーターが来た。
扉が開いた。
誰も乗っていなかった。
乗り込もうとする結花。
次の瞬間、ラグビーのタックルのように結花は通路に押し倒され尻もちをつき頭も打った。
「イタッ、」
専務板長松永大作が結花の上に馬乗りになっていた。
「何ですか!」
無言のまま松永大作は結花の腕を押さえ付け血走った目で睨み付けていた。
殺される?
大作の顔が結花の顔に近付いて来た。
「ちょっと、や、止めて下さい、止めてって、
いや~!」
松永大作がキスをして来た。
キスと言うよりは口を押し付けて来たのだ。
ガチガチと歯がぶつかる音がした。
松永大作は震えていたのだ。
その瞬間、結花は冷静になれた。
不思議な体験だが白い空間になり倒れた結花に馬乗りになっている専務板長松永大作の姿が客観的に見られたのだ。
状況がすべて分かると妙に落ち着けた。
「もう大きな声を出したりしない、だからお願い、手を放して、」
その声はひどく静かで穏やかだった。
松永大作は腕を放し結花から下りた。
白い腕に赤い手形が付いた。
結花は白い太ももが露になったスカートの裾の乱れを直した。
そして専務松永大作の手を取り引き寄せて言った。
「ごめんなさい、不安にさせて、」
専務松永大作は「え?」と言う顔をした。
結花は小さな声で言った。
「せっかく勇気を振り絞って告白してくれたのに騒いだりしてごめんなさい、いきなりだったから驚いただけです。」
「すまない、俺、たいへんなことをしてしまった。」
専務松永大作38は結花のあまりにも意外で女神のような対応に堪らず声を挙げて泣き出した。
結花は専務松永大作の背中に手をまわし背中をさすった。
「何も無い、何も無かったんですよ。」
「すまない、君にこんなことをしてしまうなんて、すまない、」
「大袈裟な、大したことじゃありませんから、私ね、専務のこと好きだったんですよ、」
「え?」
松永大作は顔を上げた。
「駆け出しだった私を見て若い衆たちにマツを助けてやれって言ってくれていたの知ってました、それと一度、出汁の大鍋倒した時も誰にでもあることだ、みんなで手分けして初めからやろう、って言ってくれて、私、なんていい板場へ来たんだろうって、それなのに専務の気持ち知っててこんなに緊張させてしまってごめんなさい。」  
まるで母親と幼子のようになっていた。
「私だってドキドキなんです、」
結花は大作の手を取りおっぱいに当てた。
大作は反射的に手を引っ込めようとしたが結花が強くおっぱいに手を当てた。
「ね?」
結花は微笑んで見せた。
専務板長松永大作は長年探し求めていた母親にやっと会えた少年のような目をしていた。
「このままじゃ男として情けなく終わってしまう、そんなことはさせられない、店に戻りましょう、事務所のソファーなら誰も来ない、」
松永大作の頬にまた熱い熱い涙が流れた。
そして結花に言われるまま立ち上がった。

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