Forked road 26/41

美味しかったか? と尋ねてみたが「凄く」とだけ返って来た。
素っ気ない。
高木の胸の中は前評判の高い本を読んでみたがまったく面白くなかった時の気持ちに似ていた。
まさに宛が外れた気分。気に入らなかったのか? ま、好みの問題か?と思うようにした。
金沢一泊から東京に戻った。
日常の職場である法律事務所で代表らと数人と打ち合わせをしていた。
司法試験勉強中の事務員の青年がある企業の海外進出に伴う企業内語学教育制度案件について説明していた。
「私が今の時代、英語教育は海外と取引があろうとなかろうと絶対に必要だと社長に説明していたんです、その時は大した反応は無くむしろ興味無さそうな顔をして黙ってたんですよ、それが一転、社外英語教育制度導入とか、交換留学生とか、スマホによる教育の費用一部負担とか、語学力によるポイント交付制度とか言い出しちゃってあの社長、いったい何を考えているのやらって感じですよ、まったく。」
それまで、まるで居眠りでもしているか?と思われるようにアゴを上げ目を閉じていた67才義父であり事務所所長である矢部高雄がニヤリとし話し始めた。
「みんながみんなじゃないがね、割りと人間なんてそ~ゆ~もんだと思いますよ。」
「そ~ゆ~もん?」
「ああ、これは長年弁護士商売をやって来た僕の考えですがね、人は真剣に話に聞き入った時には反応する余裕が無くなるもんですよ。」
会議室の空気が代表の話に集中した。
「面白おかしく会話してやろうと思う時はジョークで返すし笑いもする、だが本気で聞き入った時は反応する余裕がない、まさに聞き入ってしまう、話のことで頭の中はいっぱいになってしまう、反応が薄い時ほど話は相手に染みているって証、つまり君のプレゼンがクライアントを動かしたって証拠だよ。」
高木は二度うなずいた。

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