Forked road 33/41

「私、プロポーズされました。」
高木の顔が歩く結花に向けられた。
「料亭の人?」
「ええ、跡取りの板前さんです、」
「そ~か、」
「返事はしてません、」
「なんで?」
「なんで?」
結花が立ち止まった。
「私が洋ちゃんのこと以外に悩むことなんてあると思う?」
22:00  街角のデジタルが変わった。
静かな池袋の街
「迷惑だよ。」
高木は小さな声で言った。
「迷惑?」
「ああ、年は親子ほど違うし、しかも妻子持ちだ、仕事も抱えてる、君に関わってる場合じゃない、今日は懐かしさから池袋に来てしまったがもう来ない、もう君にも会うことはないだろう。」
横断歩道の信号が青から赤に変わった。
そしてまた青になった。
結花は微笑みながら、が、目はマジで言い返して来た。
「ウソ、」
「え?」
「もうちょっと上手く芝居して、」
「ウソじゃない、」
「洋ちゃん、わかりやすい、ウソつく時、目が泳いでるんだもん、バレバレよ。」
高木は大声を出した。
「迷惑なんだよ!その図々しいとこもうんざりだ!」
結花の目がみるみるうちに充血し涙が溜まり始めた。
そして5秒も経たないうちにボロボロと涙が溢れ始めた。
「そうですか、わかりました。」
声が震えていた。
「これで気持ちにケリが着きました、今夜、池袋まで追い掛けて来て良かった、新大阪から新幹線に乗り込んで偶然、車内であなたを見かけてから私の心臓は鼓動がまわりの人に聞こえるんじゃないか?と思うくらいドキドキしちゃって、ずっと息苦しくてあなただけを見てました、品川で降りない、どこへ行くの?  東京駅で新幹線を降りるあなたの後を附けました、もしあなたが五反田へ行くならこのままあきらめよう、でももしあなたがあの場所へ行くならあなたと暮らしたい何もかも捨ててあなたと暮らしたいと思いました、山手線、あなたの足は迷うことなく上野、池袋方面に向かいました、あなたの後ろ姿が涙でボヤけました、声を挙げて泣き出さないように必死に口を押さえました、そしてあなたは池袋西口駅前の植え込みの前へ、嬉しかった、すぐに駆け寄り抱き付きたかった・・・、でも、あなたは迷惑だと言う、妻子があるし、仕事を抱えていると、年も離れているし迷惑だと言う、それはそう、もっともです。」
それっきり二人の間の言葉は枯れた。
二人は肩を並べてまっすぐ駅へと歩いた。
JR池袋駅 山手線、線路を挟んで向かい合わせのホームに二人が立った。
まさにデジャブウ。
依然にもホームを挟んで結花と向かい合ったことがある。
あれだけ会いたくて会いたくて夢にも見た結花なのにこれでいいのか?
ホームに立つ結花の姿に美しかった。

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