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【妄想ライオンズ78】 誰も経験をしたことのない道を越え

12連敗していても、1年間勝ち星がなくても、それでも先発のマウンドに向かう。彼の胸にあったものはなんだろう。この長い道の先を見ていたのか、あるいは、これまでの道を振り返っていたのか。

立ち上がりの失点、弱気になって四球を出してしまうこと、そういう1つ1つをしっかりとクリアしていった。 先制点をもらい、追いつかれてからすぐに、突き放す2ランをもらった。

勝負の5回。点を取ってもらった次の回。先頭の周東を歩かせてしまう。 球場がどよめく。 近藤は明らかに打ち損じ、フライを打ち上げる。 柳田はまだボールが上がらない。しっかりとらえた打球はファーストの正面をつく。

しかし、確実に捉えられている。
2死2塁。豊田コーチがマウンドで檄をとばす。
「おなかに力を入れて、魂込めて投げろ!」
腹を決めた。栗原には全てストレートを投げ込む。2球目も3球目もほぼど真ん中。しっかり捉えられたあたりは、しかし、センターの正面をつく。 打たれた。しかし、外野を越えさせない威力があったからこそ、正面をついた。

6回は、1死3塁から、セカンドの外崎がゴロを素早く捌き、ホームでランナーを刺す。 7回の平井は柳田に渾身のストレートを投げ込む。8回のドラフト同期の佐藤隼は150キロを超えるストレートで押し込む。9回の増田は、1点を返されるも、冷静に後続を断つ。

一人一人が、「隅田のために」と言う思いを確実に持っていた。 12連敗。全てが先発として12連敗。それでも先発を託され続けた。内容もある。期待もある。

しかし、苦しかった。その苦しさは、この道を歩いてきた彼にしかわからない。負けても負けても使ってもらうこと、負けても負けても、いつも応援があること。

それが、本当に苦しかった。
だけど、それがあるから、ここまでこの道を歩んで来れたはずだ。

ヒーローインタビューの途中で、マイクトラブルで音声が途切れる。
インタビューの途切れたスタンドからは、徐々に彼への声が飛ぶ。
「おめでとう」
「待ってたぞー」
そして、湧き上がる歓声と拍手。
選手とスタンドが一体となる。 スタンドの気持ちが、ダイレクトに選手に伝わる。 彼にとって、今日この場を共有したみんなにとって、忘れられない一戦となる。 あたかも、そのための演出、12連敗という道の先に、この長いトンネルの先に用意されていた、最高の演出のようだった。

誰も経験したことのない道を乗り越えた彼は、ライオンズの新たな左のエースとしての道を歩み始める。


#seibulions #西武ライオンズ #隅田知一郎


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