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【リーグワン観戦記9】クワッガ・スミス鬼軍曹

3月になり、春の訪れとともに、フライデーナイトにリーグワンがやってくる。秩父宮に夜の7時。今日のメインは、鬼軍曹クワッガ VS  ヤンチャSHデクラーク。世界NO.1、南アフリカからの現役バリバリの代表戦士がぶつかり合う。

横浜 22 ー 22 静岡

戦前のメンバー交換を見れば、TOP4から上を伺う横浜のメンバーと、特にバックスに、ツイタマも奥村も、清原も、新進気鋭の山口もいなくなってしまっていて、アーリーエントリーの大学生を2人も使わなければならない静岡は、かなり難しい試合になるかな、、というところ。

蓋を開けてみると、前半はキッキングゲームが多く、ここで静岡もしっかりとキャッチができており、固い展開に。ただ、ボールを持てば、横浜はしっかりとアタックごとにゲインができていて、デクラークが、とにかく右を左を素早く見渡して、自分でいく、FWを当たらせる、散らす、その動きが絶妙で、静岡もしっかり守っているけれども、確実に前に出ていく。また、トライを取るときの「ここを攻め落とす」という意図が、チームでしっかり共有されているように見えて、前半の終わりまでで15−3とリードをする。

後半の交代メンバーなどをみると、より横浜が有利に見えて、なかなか静岡は厳しいかな、と見えた、後半の終了間際。ようやく静岡は敵陣22mの中に入り、アタックを継続すると、ゴールライン5mでできたラックから、クワッガ・スミスが持ち出し、デクラークに絡まれたまま、彼を引きずりながら、あと2、3名のタックルを受けながら、そのままゴールラインにまで体を持ち込んでいく。

トライの雰囲気があまりなかった中で、やっぱり難しいかという雰囲気の流れる前半最後、1人で局面を変えてしまう。まさに、ワンマンアーミー。

「いいかお前ら、この試合はこれからだ。俺について来い」

とばかりに。8−15で1トライ差で前半を折り返す。

しかし、後半の出足は横浜が試合をきめにかかる。
しっかりと静岡陣内に入り、今日は静岡の10番、アーリーエントリーの大学生、家村のキックが悉く当たりが悪く、奪っても奪っても、キックが22mあたりまでしか飛んでいかない。それを超えると、タッチを切らず逆襲に遭い、全く自陣を、しかも22m付近を脱出することができない。
横浜のアタックは、とにかく、デクラークのさばきが自在で、彼にプレッシャーがあまりかかっていないのもあるけれど、なかなか捉えきれない。

が。今日の静岡は切れなかった。絶対に先に点をやらないのだ、その強固な意思が全員に浸透していて、そして、守っているチームによく見られる「ディフェンダーズハイ」的な様子が見られ、ゴールラインを足にすると、急に力が増してくるようで、何度も何度も横浜のアタックを食い止める。

15分経っても点が入らない。静岡も相変わらず敵陣へ行けない。20分になっても変わらない。
しかし、後半20分過ぎに、横浜が痺れを切らしたかのように,3回続けて反則をおかし、ようやく静岡は敵陣へ。そして、サム・グリーンが入ってきたことで、バックスに変化がつき始め、攻め疲れの見える横浜の左サイドをファリアーが切り裂いていき、同点に追いつく。

ここで後半20分をすぎ、横浜は、攻撃の核である田村とデクラークが退く。小倉がSOにたち、マレーがFBへ。それと、サム・グリーンが15番に入った静岡と。さらに、静岡は、近年の試合ではみることがほとんどない、「FWのフロントローが3人揃ってフル出場」を果たしているぐらい、出ているプレイヤーの結束を感じるようになる。

後半30分を超え、押し気味にすめていた静岡が、横浜のゴール前でのマイボールのラインアウトをロスト。静岡は、今日はラインアウトはボロボロ。ここが違えば、また結果も違ったかも。とにかく、「ああ、またか」と思ったその瞬間。ロストしたボールを、相手FWが持ったところを、クワッガ・スミスがジャッカルをする。すぐさまに敵陣5m付近でペナルティーを獲得すると、何の迷いもなくタップキックをして、単騎で横浜の赤いジャージの中に切り込んでいき、ゴールライン上に飛び込んでいく。

後半30分。ここまで9試合のほとんどをフル出場し、今日も獅子奮迅の働きをしてきた上でのこのプレー。逆転トライ。秩父宮がどよめく。

しかし、鬼軍曹は、喜びを爆発させることもなければ、笑顔もない。

そう、彼はもちろんわかっている。ここまではくるんだ。何試合も。埼玉相手にだって、ここまではきたんだ。しかし、ここからが、自分たちに求められていることだ。勝ちきる。しっかりと勝って試合を終える。そこまでは、笑顔などわけもい。笑顔など、誰にも見せては行けない。

彼のその危惧はあっという間に現実となる。キックオフからのキッキングゲームで、右サイドに蹴り出そうとしたボールが、横浜のマレーの手に入り、慌てておったサム・グリーンがかわされ、家村が絡みつくところをほどきながら、マレーは長身を生かして、タックルの上から走り込む竹澤にパスをし、竹澤は一気にゴールラインへ。

あっという間の同点劇。左サイド奥の難しいコンバージョンを、小倉が慎重に決め切ってサイド同点に。

残り5分。

どちらも同点では終わりたくない。横浜にとって、下位チームから勝ち点を取りこぼすことは、負けに等しい。そして、静岡にとっては、ここまできて勝ち切れない試合があまりに多い。

お互いに絶対に勝つんだという思いを持った残り5分は劇的な展開に。テリトリーについては、今日は静岡はとにかくキックがうまくいっていなくて、圧倒的に横浜が押し込んでくる。そして、横浜は、スニーキーに、敵陣に入ると、明らかにペナルティを取ることを意識したプレーを続け、案の定残り2分のところで、左サイド15m付近でPGのチャンスを得る。

キッカーは小倉順平。今季はここまで、ゴールキックの成功率が100%。さっきのコンバージョンに比べればより優しい位置。

風はない。ルーチンをこなしか小倉のキックは、明らかに引っ掛けてしまい、ポストの左に低い弾道で外れていく。

残り2分弱。

ここでもドロップアウトからのボールは横浜が静岡陣で支配する。ただ、そのアタックは、前半と違い、攻撃のたびにゲインを切っていく、という内容ではない。体力の問題もあるし、最後の最後、ディフェンスに集中する静岡の気迫の問題もある。
40分過ぎ、ホーンがなってから、クワッガ・スミスが自陣10m付近でジャッカルに行くところを、横浜はサイドエントリーでペナルティを犯す。さあ、最後のアタック、と思ったところで、家村のキックは完全にミスキックとなり、上にも上がらずゴロとなり横浜の選手がキャッチする。
また横浜のアタックが始まるも、攻めれば攻めるほど下がっていく感がある。静岡のディフェンスの集中力は最後まできれない。そして、42分過ぎ、再度静岡がジャッカルに成功し、ハーフウエー付近でペナルティを得る。
タッチキックからマイボールを確保しアタックに出る。勢いは静岡にあるように見える。継続していけば、トライまで行かなくとも、ペナルティをもらえる可能性は十分にあるように感じた、その2フェイズ目。タヒトゥワから家村へのパスは、いいパスだったけれど、家村は次のプレーを意識したが、少し足が止まり、手だけ出してしまいノックオンとなる。

ここでノーサイド。結果は痛み分け。

しかし、飛車角落ちの野戦病院状態の静岡が、軍曹スミスに率いられ、最高の試合をしたのは間違いない。キックもラインアウトも散々な中でここまで奮闘するのは、彼のプレーと、それに率いられる子羊たちの献身的なディフェンス。

ラグビーが、いかにメンタルなスポーツであるか。みんなでディフェンスに心を込めた時の強さと美しさ、それをまざまざと見ることのできた試合。

寒さなど関係ない。これだけ熱い試合を、金曜日の夜、1週間の仕事の後にビールと共に秩父宮で見れたお客さんは、最高に羨ましい。

毎週金曜日、こんな熱い、胸のすく試合が見たい!


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