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★ラガー箚記(5)★雨が選手をゾーンに連れて行く


3節続けて雨の週末。埼玉と静岡の一戦は、強い雨の中波乱の予感漂う。そもそもが、ここ2試合はこの2チームの試合はは1点差だ。いずれも埼玉のサヨナラ勝ち。ただそれは、逆に見れば、静岡が勝っておかしくない試合をしていたということ。

つまり、静岡は、そもそもが埼玉に対して、苦手意識を感じていない、唯一のチームだと見える。リーグの順位的に見ても、この2チームが競るというのはちょっとおかしい。

そこに、雨が加わる。静岡は、今こそ離脱してしまっているが、クワッガ・スミスに率いられて、とにかく熱い試合をしてきた。体を張る、痛いプレーを厭わない。献身的なプレー、そしてスクラムとラインアウトにこだわる。このようなチームスタイルは、雨のような状況になれば、よりいきて来る。

前半は、完全に五分五分の戦いを繰り広げた。静岡は、ハンドリングでの大きな展開ではなく、近場で強いランナーを当ててフェイズを重ねる。今日は、こんな状況でもハンドリングのミスが少なかったのは、無理をした展開をしなかった。対して、埼玉は、安定した展開をするも、やはり、ワイドな展開ではミスが目立ち、無理をして展開するのは憚れる。アンストラクチャーな展開でも、足元が緩いのが気になるのか、今ひとつファンタスティックな展開は見られない。

スクラムは静岡が終始圧倒した。前半で押されまくった埼玉は、慌てて前半のうちにフロントローのセットを変えるも、最後までスクラムは静岡が支配をした。

後半の入り口で、静岡はモールで先手を奪う。このモールが素晴らしかった、赤いユニホームは、その面積がとても小さく見えた。8人がとても小さく小さく見えた。つまり、強くパックをし1つになっていた。

すぐに追いつかれるも、もう一度引き離す。埼玉は明らかに雨とセットプレーの出来の悪さで、思うようなプレーができていない。

65分過ぎ、松田の正面からのPGがポストに嫌われ、7点差が続く。

雨は強くなる。弱まる気配はない。入ってきた、デアレンデやコロインベテが顔を顰める。

対する静岡の選手の方からは、湯気が立ち込めるように見える。前半から、密集付近で体を当て続けた。疲れているだろう。足が攣る選手もいる。しかし、勝利が見えている。その興奮があるだろう。

雨と、疲れと、興奮で、静岡の選手はハイになっているように見えた。チーム全体が、ある種のゾーンにいるように見えた。

雨は、時にプレイヤーをハイにする。これは、ラグビー経験者はきっとわかってくれると思う。

72分の、スクラムからのホールのキック、その処理をもたついたコロインベテが気を抜いているところを、14番の槙が見逃さず、走り込んだフランカーにクイックスローで決定的なトライを生んだところ。最後の、モールが崩れながら、2番がとにかく足をかいて前に出てトライにしたところ。

それぞれは、きっと「本能のまま」に動いていたと思う。ゾーンに入った選手の、本能が命じるままに動いていたと思う。

埼玉を止めたのは、思えば、最も埼玉に迫っていたチームだった。そんなチームが、順位は9位だ。ラグビーというのは、恐ろしいスポーツだ。そして、なんと感動的なスポーツか。見ている人に勇気と感動をくれる、なんと素晴らしいスポーツか。

ありがとう。

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