ZENZA BRONICA S2、それは僕の鮮烈な中判デビュー
ZENZA BRONICA S2との出会い
急に中判フィルムカメラが欲しくなった。気が付けばInstagramのリールを見てもハッセルブラッドやマミヤのカメラの動画であふれていた。ウエストレベルファインダーを上から撮影したエモい動画にすっかりあこがれていた。無理もない、そこに映っているのは現実よりキレイな現実なのだ。こんなの見せられ続けたら中判かつウエストレベルのカメラが欲しくなっちゃうじゃん……。そして僕でも手の届く範囲で探していたところ、このカメラに出会った。
ZENZA BRONICA S2は6x6判の中判カメラで、ずんぐりむっくりなデザインがかわいい。Hasselbladと似てるから訴えられたとかいろいろあったらしいけど中身でオリジナリティを出したから差別化できたそう。
シャッターをチャージしなくてもファインダーが見えるのはHasselbladやMamiyaにも勝る個性だと思うなあ。撮る気はなくてもなんとなく目の前の景色をファインダー越しに見たくなるときって結構あるから。
ZENZA BRONICA S2には持病があって、ファインダースクリーンを押さえつけているモルトが劣化して位置がずれることでピントが合わなくなる(特に近接側)現象が起こる。ほぼすべての個体で発生しているらしく、案の定僕のS2にもこの症状が出ていた。
しかし、これは1.5mmのモルトでもスポンジでもいいのでボディとファインダースクリーンの間にかましてあげれば治る。まあそれでも心配ならバルブでシャッターを開けっぱなしにしてそこにトレーシングペーパーなんかを挟んでやればピントの確認はできるだろう。僕はこれで確かめたから間違いないはず。
仕様の面でも、1/1000秒のシャッターが切れたり、交換式のフィルムバックは引き蓋がロック機構を兼ねていたり、故吉野善三郎氏のこだわりがうかがえる。引き蓋を抜かないとシャッターが切れない仕様のせいで何度もシャッターチャンスを逃したのはいい思い出。
さて、こんなことを言っていても肝心の使用感には全く触れていないのでここからは作例とともにZENZA BRONICA S2のカタログスペックに現れない魅力を語りたい。
デカくて、重くて、うるさい
このZENZA BRONICA S2はこんな見てくれのとおり、デカいし、重いし、なにせうるさい。撮影に関わる全ての動作がうるさい。そこが好き。シャッターチャージのために側面のクランクを回し、「バキッ」という心臓に悪い音を立てたらそれがチャージが完了した合図だ。そしてシャッターを切ると,
これまた「バキャン」と特大のミラーショックとともにシャッター音が鳴る。深夜の一人の部屋で空シャッターを切ろうものならその音の大きさに近所迷惑にならないか心配になるほどだ。僕はそんなところが大好き。短所が長所に裏返ったってわけ。
しかし、分厚いボディに対して標準レンズはとても薄い。BRONICAはニッコールレンズが使えるのが強みだ。僕は75mmしか持っていないのだが、いずれは50mmや200mmも欲しい。35mm判換算で約28mmと約110mmと使いやすい焦点距離だろう。
75mmレンズに話を戻すが、このレンズは驚くほどよく写る。開放で撮ると被写界深度がとても浅いのでピント合わせに苦戦するが、その描写はとてもシャープだ。花を写せば花びらのディテールをこれでもかと表現してくれるし、人工物を写せば歪みも感じず都会のビルを繊細に描けるポテンシャルを秘めている。フイルムの大きさも関係しているかもしれないが、基本的にシャープな描写は共通している。ポートレートでも被写体の髪の毛などの解像っぷりは思わずため息が出る。
肩こりとの闘い
デジタルでもフイルムでも重いカメラは持ち運ぶときに問題になるのは体への負担だ。例によってこのカメラも長時間提げていると首が痛くなってくる。なんならリュックに突っ込んでいても肩が痛い。そして手で持とうにもグリップなんてないのでお椀を持つみたいなポジションでしか保持できない。その問題に対処するために僕は太めのストラップを使っているのだが、それはそれでボディが振り子の役割をしてとても扱いづらい。
引き蓋とレンズキャップが行き場をなくしポケットで危なっかしく保管されがちだ。フィルムバックの後ろに引き蓋入れとかついていれば使いやすくなるんだけどなあ……
僕はデジタルのメイン機としてPENTAX K-5を使っているんだけど、それに40mmのビスケットレンズを付けたときの軽量コンパクトさといったら、もしこれがBRONICAだったらと想像すると頭を抱えるレベルだ。軽いカメラは正義だ、という声もよくわかる。
総合すると、使いづらい。だけど好き
BRONICAについて自分が思っていることを書いてきたけどネガティブな成分が多めになっていることに気づいた。でも本質はそうじゃないんだよね。
雄大な景色とか都会の高層ビル群とかそういうパワーのある被写体はカメラもデカく、力強くないと写しきれない気がして。体へのダメージもお財布へのダメージも計り知れないからこそこのカメラの実力を引き出せるのだと思う。アーマードコアでいうオーバードウェポンだしパシフィック・リムでいう序盤のプラズマ・キャノンみたいなものだ。実際撮影するときも、くせでいつも息を止めて集中するのでシャッターを切った後息切れしてしまう。
アスペクト比が1:1で撮れることのメリットは、キャンバスに描いたような印象を受けることと、Instagramにトリミングなしで投稿できることだろう(実際は後者の方が重要)。
最近のデジタルカメラでも1:1の設定ができたりするのをみるに、正方形フォーマットの魅力にみんな知らず知らずのうちに憑りつかれてるんじゃない?縦にトリミングしたり横にトリミングしたり、その後の編集がしやすいのも魅力のひとつだと思う。個人的に縦にトリミングするほうがしっくりくる写真が多いかも。なんだろうね構図の取り方が影響してるのかな。
おわりに
中判フィルムカメラは35mm判と比べるとマイナーだし使っている人も少ない。極めつけは現像を受け付けているラボも少ない。その中のZENZA BRONICAなんてマイナーなメーカー、選ばれることの方が少ない。もし中判フィルムカメラが欲しい人がいたら間違いなくPENTAXの645とか富士フイルムの6x9とかをおすすめする。(HASSELBLADもおすすめかなと思ったけどレンズ交換が儀式すぎるので)
僕はこの記事が、これからS2を買おうと思っている人に届いて「あ、やっぱほかのカメラにしよう」と踏みとどまってくれるのを期待している。いったん踏みとどまって、いろんなカメラと比べてからここに戻ってきてくれたらうれしい。
僕のS2はシルバーだけど、ブラックのボディもめちゃくちゃカッコいいのでおすすめ。あとレンズフードも欲しいし、プリズムファインダーもいい個体があれば手に入れておきたいし、50mmのレンズも気になっている。フードが付くとこれまたカッコよくなる。
このカメラを買ってから半年以上が過ぎた訳だけど、いいカメラだな、という感想は今まで変わったことはない。これを読んでいるそこのあなたもZENZA BRONICA S2を持ち出して、めちゃくちゃ不便な撮影ライフを楽しんでみてはいかがだろうか。
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