真似事
ひとりぼっちの空に、優しい風が凪いだ。
愛の在処を探せなかった夜に、寂しげに歌う鈴虫の声を静かに聞いていた。
「何をしようとしたんだっけな。」
ベランダに凭れながら呟く、空っぽの心を埋めるように声はいつまでも聞こえていた。
想いは呪いだ。
あなたに触れてはいけなかった、それを伝えてはいけなかった、あなたを幸せにする自信を持ってはいけなかった。
心情を誤魔化すように戯ける日々に満足しなければいけなかった。
きづいてはいけない。
「中途半端な人間。」
自分を傷つける言葉ばかりが頭を埋める、ただ、そう思うことが今は心地よくて、視界が曇って思考が鈍くなっていった。
僕を見て欲しくなかった、あなたの大事な人になりたくなった、罪悪感が身体を包んで死んでしまいそうだから。
真っ暗な光をぽつんと見つめたまま、何度も逡巡した答えをもう一度脳裏に焼き付けた。
指先から揺蕩う曖昧な比翼は、片翼を探すように不安定に燻る。
次に会う時はどんな話をしようかな、なんでもない話をただひたすらしていたい、僕のことを忘れしまうくらい、なんでもない話を。
正しさの真似事を、今はただするしかないと思った。
流れ着いた心を、ただ毒にして。
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