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【短編小説】「すれ違いのチョコレート」 #あなたの温度に触れていたくて

 繊維を繰り返し、伸ばしては、縮める。やがて繊維は剥がれ、壊され、体はそれを修復しようと、血液を使って、たんぱく質を運ぶ。鍛えたい部位に効かせられるよう、意識をしながら体を動かしていく。一通りのセットを終えたので、バーベルを、元の位置に戻そうとした。
 おっ、と。
 扱える重量ギリギリでのトレーニングをしていたので、バーベルを離すタイミングを間違えてしまった。ガッッコンッ!と、施設中に歪な金属音が鳴り響いた。この施設は、24時間365日解放されているトレーニングジムだ。広くはない空間に、所狭しとトレーニング器具が置かれ、日々精進を続けるトレーニーが、自分の好きな時間に通っている。ちらほら居たトレーナー達が、何事だと僕の方を少し見て、またトレーニングに戻っていく。
 腕がプルプルしていて、これ以上は筋トレを続けれそうにない。バーベルを上手く離せなくなるくらい、自身を追い込めて、達成感でいっぱいだった。さぁ、このパンプアップした体で、家に帰って掃除をしよう。今日は、真白さんが会いに、うちに来るんだ!


 最低気温は2度を下回ると、朝の情報番組で言っていた。バレンタイン当日の今日、竹坂さんの家に、遊びに行くと約束をしていたが、人肌が恋しくなるには、寒すぎるくらいだった。
 竹坂さんとは、マッチングアプリで知り合った。プロフィール写真は、神社みたいな場所を背景にピース。短髪で小顔。華奢な見た目に、青い厚手のコートを着ていたので、写真では伝わらなかったけど、筋トレが趣味とプロフィール欄に書いてあった。あたしのマイページの、好きな男性のタイプの項目に、筋肉質な人、と書かれているのを見て、アタックしてきたらしい。実際に会ってみると、気さくに話してくれている中にも、礼儀があって、誠実で。筋肉質な人とは関係なしに、私はすぐに竹坂さんを好きになった。
 朝、早起きをして、バレンタインで贈るチョコには、プロテインを混ぜて作った。竹坂さんは筋トレ頑張ってるし、食べ物にも気を使ってるから、チョコにプロテインを足してあげよう。味見もちゃんとしたし、喜んでくれるといいけど。


 真白さんの赤いコートを預かり、ハンガーに掛ける。隣には一張羅の青いコート。自分の家のクローゼットに、女性の服があると、なんだかそわそわする。いつも綺麗なストレートヘアーなのだが、今日は少し毛先を巻いているみたいだった。凛とした顔立ちもいつも通りで、真白さんは本当に綺麗でかわいい。こんな人が、僕の彼女だなんて、未だに信じられなかったが、真白さんとのお付き合いは順調だった。
 そういえば、今日はバレンタインだ。真白さんから、チョコを渡されたが、どうせ食べないと思ったので、丁重にお返しをした。真白さん好みのプロポーションを維持するために、トレーニングと食事管理を徹底している。今日はトレーニングをした日なので、猶更、甘いものは食べてはいけない。本当に気持ちは嬉しいのだが。
 ふと顔を見ると、真白さんは、泣いていた。あれ?もっと丁寧な言い回しをすれば良かったかな。もちろん、気持ちを無下にするわけにはいかないし、食事管理を徹底したいからと、理由も説明した。それでも、真白さんは泣いている。もう知らないと、普段は物静げな人なのに、大きな声を上げながら、家から出ていった。赤いコートも着ないままで。
 世間はバレンタインとはいえ、真白さんも少しは気を遣って欲しかった。食事管理に気を付けていることは普段から言ってたし、せめてチョコ以外のものにするとかさ。
 彼女が怒って出ていった後の部屋に、渡されたチョコがポツンと置かれていた。一応、中身を確認しようと封を開けてみると、いつも筋トレ頑張ってるので、プロテインを入れて作ってみました。お体をご自愛くださいと書かれたメッセージが一緒に入っていた。
 なんて、俺はバカなんだと、猛烈な後悔に襲われた。真白さんは、ちゃんと僕のことを、分かっていてくれてたんだ。それなのに、砂糖が入ってるからどうのこうのと、抗弁を垂れて、せっかくのプレゼントを無下にするようなことを……。
 急いで、真白さんを追いかけよう。確か、今日はめちゃめちゃ寒いんじゃなかったっけ。赤いコートと最高のプレゼントを持って、僕は走って家を出た。


 つい、感情的になって家を飛び出してしまった。寒い。零れた涙も、冬の乾燥のせいで、一瞬で乾き、崩れたメイクだけが残っていた。気合い入れてきたのにな。竹坂さんが、チョコを受け取ってくれないって言い始めて、折角早起きして作ったのに、って思ったけど。でも……私も悪いか。食べ物に気を付けてることを分かっておきながら、チョコを送るのは無かったかも。
 そんなことを考えていると、ごめーんと、大声で謝りながら走ってくる竹坂さんが居た。あたしを追っかけてきてくれたんだ。
 竹坂さんは、気持ちを無下にしてしまってゴメンと、何度も、何度も謝っていた。そう言いながら、私の作ったチョコを、本当に美味しいと言って、食べてくれた。私もマッチングアプリには筋肉質な人がタイプです、と書いていたけど、そんなこととは関係なしに、竹坂さんのことが好きだと、素直に気持ちを伝えた。竹坂さんは照れながら、本当は甘いものを、すごく食べたかったんだと、笑いながら答えた。

 あれから、竹坂さんはたまに甘いものを食べるようになった。とはいえ、リバウンドしないよう筋トレは続けるそうだ。私は、もっと食べ物に気を遣えるよう勉強していこうと思います。
 あの日は、二人の気持ちが少しすれ違ったバレンタインだったけど、お互いの気持ちがもっと寄り添えたような気がする、そんな素敵なバレンタインになりました。

おしまい

あとがき

まずは、稚拙な文章なのにも関わらず、最後までお読みいただきありがとうございました。
今回は、xu❄さんとゆっずうっずさんの投稿企画、「あなたの温度に触れていたくて。」に応募するため、短編小説を書きました。
テーマは、「冬の恋」「バレンタイン」「愛」。彼女のために筋トレを頑張る愛、彼氏のためにチョコを送る愛、これが表現出来ていたら嬉しいです。

xu❄さんとゆっずうっずさん、素敵な企画を開催いただきありがとうございます。他の方の創作小説も読んでいきたいと思います。


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