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90日間で今期アニメを見きれなかった男の『80日間世界一周』紹介と感想

「それにしても、ミスター・ラルフ、地球が小さくなったというのは、やはり言いすぎではないかね?いくら今では三カ月で世界を一周することができるようになったからと言って……」
「いや、八十日間だ」フォッグ氏が言った。「それだけで十分だ」

ヴェルヌ. 八十日間世界一周(上) (Japanese Edition)
(Kindle の位置No.361-364). 光文社. Kindle 版.

もう今期アニメ終わるってマジ???
まだ見始めたばかりなのですが……。

ありとあらゆるコンテンツが溢れるこのご時世、アニメ・映画・ドラマ・その他諸々、あれこれ見ているうちにあっという間に1クールが過ぎ去ってしまいます。
かつてはリアルタイムで深夜アニメを見たいがために生活リズムを調整したり人からの誘いを断ったりバイトを辞めたりといったこともしょっちゅうでしたが、ここ最近というものは「後からネットで見ればいいや」と録画予約すら怠る始末。
気づけば新アニメが始まってるのにもかかわらずいつまでも前期アニメを追いかける羽目に。

1クール3ヶ月のあいだに計画的に視聴していきたいなとは思うものの、予定外の配信物事が起こるとなかなかスケジュールどおりには運ばないのが人間の常。
しかしながら、今から約150年前、19世紀後半には3ヶ月どころかなんと80日間で前人未到のチャレンジを行った人々がいたんですね。

先日セール期間中にスターチャンネルEXに登録したので、前々からずっと見たいと思っていたTVドラマシリーズ『80日間世界一周』(Around the World in 80 Days)をようやく見ました。

なぜこのドラマが気になっていたかというと、一番の理由は原作小説が大好きだから。
19世紀に発表されたジュール・ヴェルヌの作品を現代的にアップデートした今作は、なかなか海外にも行きづらい今のご時世だからこそより一層魅力的な作品に仕上がっています。

ただ、日本だと現状スターチャンネル以外では視聴できないという制約もあり、なかなか見ている人が少ないというのが現状。
ぜひ色んな人に知ってもらいたいということもあり、今回は久々にちょっぴり真面目に紹介したいと思います。

『80日間世界一周』とは?

『80日間世界一周』は1873年に出版された作品で、『海底二万里』『地底旅行』などで知られるフランスの作家ジュール・ヴェルヌによる冒険小説です。

舞台は1872年、ヴィクトリア朝時代のイギリス。
ロンドンに暮らす英国紳士フィリアス・フォッグ氏がいつものように社交クラブで友人たちと話していると、ひょんなことから「80日間で世界を一周できるか?」という話題になります。
皆が口々に「できるわけがない」と言いますが、フォッグ氏だけは「可能だ」と断言。それを証明するべく、フランス人の従者パスパルトゥーを連れて80日間世界一周の無謀な旅に挑戦することになります。

150年以上前の小説ですが、今なお冒険活劇として色褪せない面白さがあるだけでなく、当時の世界各地の時代背景や価値観に触れながら一緒に旅行している気分を味わえるところが楽しい。

19世紀の後半は、世界が急激に狭くなった時代です。
1869年にスエズ運河が完成したことでヨーロッパとアジアが直通し、さらに鉄道網の整備によってアメリカ大陸が横断できるようになったことで、移動速度が飛躍的に上昇しました。16世紀にマゼラン艦隊が3年かけてやり遂げた世界一周を、3ヶ月で実現することも夢物語ではなくなりつつあったのです。
原作では、以下のルートによって理論上80日で世界を周ることが可能だ、と語られます。

  • ロンドン〜スエズ:7日

  • スエズ〜ムンバイ:13日

  • ムンバイ〜カルカッタ:3日

  • カルカッタ〜香港:13日

  • 香港〜横浜:6日

  • 横浜〜サンフランシスコ:22日

  • サンフランシスコ〜ニューヨーク:7日

  • ニューヨーク〜ロンドン:9日

なんと、この小説では日本も登場します。当時は明治維新期ですが、横浜は海上交通における主要な拠点だったんですね。

日本といえば、完全に余談ですが、ぼくの好きな漫画『ジョジョの奇妙な冒険』もこの『80日間世界一周』と関係しています。
第3部「スターダストクルセイダース」はDIOを倒すために50日以内にエジプトに辿り着かなくてはならない、というストーリーですが、このときの道筋はフォッグ氏が辿ったルートを日本から逆向き(西回り)に辿っています。80日間世界一周ならぬ50日間世界半周というわけですね。
荒木先生も実際この小説を基にしていたらしく、劇中でもジョセフ・ジョースターがヴェルヌに言及するシーンがあります。

しかし案ずるのはまだ早い……一〇〇年前のジュールベルヌの小説では80日間で世界一周4万キロ…を旅する話がある 汽車とか蒸気船の時代だぞ 飛行機でなくても50日あれば一万キロのエジプトまでわけなく行けるさ

荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険(14)」,集英社

このように現代の多くの作品に影響を与えてきた『80日間世界一周』ですが、これまでにも何度もメディア化されています。

アニメや舞台などもありますが、もっとも有名なのが1956年に公開された映画版です。
3時間近い大作ですが、アカデミー賞の作品賞を含む5部門で受賞し、フランク・シナトラやバスター・キートンといった当時の有名俳優たちが大勢カメオ出演したことでも有名な作品です。
もちろん横浜も通過するので、ちょっと不思議な日本の映像を見ることができます。

あと、この映画でとりわけ有名なのがヴィクター・ヤングによるテーマ曲。旅番組なんかだと必ずといっていいほど流れるので、誰しも一度は聴いたことがあるはず。

2004年にはジャッキー・チェン主演で『80デイズ』としてリメイクされましたが、こちらは大胆に改変されたアクション映画になっており、設定だけ借りた別物という感じです。
中国の謎の暗殺者集団と戦ったりシュワちゃんがトルコの王子として登場したりお手製の飛行機で空を飛んだりとなかなかのフリーダムっぷりなのでこれはこれで見応えあり。


今回のドラマは『80デイズ』とは違って忠実に原作の要素を取り入れていますが、物語やキャラクター像は大幅に再構成されており、大筋のストーリーラインはなぞりつつも全く新しい作品になっています。
ストーリーについてはネタバレになるので後半に回しますが、一番の見どころはキャラクター同士の友情と成長ドラマ。
原作を知っている人も知らない人も楽しめるように、現代の価値観に合わせて従来のキャラクター性を一新しているところが面白いポイントです。

フィリアス・フォッグ

主人公。博学で資産家、しかし世間知らずで気弱な英国紳士。
原作のフォッグはどんな事件やトラブルにもまったく動じない、機械のように冷静沈着な人間として描写されています。
ところがドラマ版のフォッグはその真逆。気弱かつ怖がりな性格で、イギリスから一歩も出たことがありません。なし崩し的に世界一周の旅に繰り出したはいいもののすぐに音を上げて逃げ出そうとします。それでいて調子に乗りやすい一面もあり、結果ひどい目に遭ったりします。
その一方で持ち前の知識でトラブルを解決したり、ここぞというところで思わぬ男気を見せたりと非常に親しみやすいキャラクターになっています。
彼が世界一周の旅に出たのにはある隠された理由があり、旅の中で徐々にその秘密が明かされていきます。
そんな新しいフォッグ像を演じてみせたのはドクター・フー役で知られるデヴィッド・テナント。ちなみに『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』では作中で一番有能ともっぱらの噂のバーテミウス・クラウチ・ジュニア役で登場してます。

ジャン・パスパルトゥー

フォッグの従者として世界一周の旅に同行することになるフランス人の青年。
パスパルトゥーのキャラクターも大きく変更されており、陽気で人懐っこい性格だった原作とは異なり、貧しい生まれで辛い経験をしてきた苦労人という設定です。そのためしたたかで抜け目なく、当初はフォッグを利用するために接近しますが、旅の中で友情が芽生えていきます。
これまでカンティンフラスやジャッキー・チェンといった有名俳優がコミカルなパスパルトゥーを演じてきましたが、今作ではイブラヒム・コーマがこれまでとは一味違ったタフな役柄を演じています。

アビゲイル・フィックス

レオニー・ベネシュ演じるフィックスは、原作からもっとも大きく改変されたキャラクターです。
原作のフィックスはロンドン警視庁の男性刑事で、フォッグが銀行強盗事件の犯人なのではないかと疑い、彼を逮捕するため世界一周の旅を妨害しようとする、という役どころです。
今作のフィックスはデイリー・テレグラフ紙の編集長の娘で、記者としての成功を夢見る女性。フォッグの80日間世界一周の冒険を取材するため、なかば無理やり旅に同行します。
かなり大胆なアレンジですが、じつは彼女のキャラクターにはモデルがいます。

ヴェルヌが『80日間世界一周』を発表した16年後の1889年、実際に世界一周に挑戦した人物がいました。
それがアメリカの新聞社「ワールド」紙の記者ネリー・ブライと、「コスモポリタン」紙の記者エリザベス・ビズランドです。
ネリー・ブライはワールド紙の女性記者で、精神病院で行われている虐待事件を取材するため患者のふりをして潜入するなど、報道業界に女性がまだ少なかった時代に先駆的に活動していたジャーナリストでした。
彼女はみずから新聞社に企画を持ち込み、小説と同じルートで世界一周の旅に挑みます。
ネリーが旅に出た直後、ワールド紙に対抗してコスモポリタン紙も同じ企画を打ち出し、同日にエリザベスを逆の西回りルートで旅に送り出ました。
二人の女性記者による本物の「世界一周対決」は当時の紙面を大いに盛り上げました。彼女たちの半生や旅の様子は、「ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む―4万5千キロを競ったふたりの女性記者」という本で詳しく知ることができます。(ちょっと分厚いですが)
ネリーは世界一周の途中でフランスのヴェルヌの自宅を訪れ、ジュール・ヴェルヌ本人とも面会したそうです。

今作のアビゲイルのキャラクターはこのネリー・ブライを基にしているとされており、勇敢で自立した女性として旅を支えます。

(CV:早見沙織)、美しい日本語

この出自も性格もまったく異なる3人組が旅の中で喧嘩したり協力したりしながらそれぞれの問題を乗り越えていく過程が見ていて楽しい。

海、砂漠、孤島、都市、荒野など、エピソードごとにガラッと景色が変わっていくのもRPG感があって面白いです。
ハンス・ジマーのテーマ曲も超かっこいい。

スターチャンネルEX、今なら99円で入会できるらしいのでご興味のある方はぜひチェックしてみてください。シーズン2も決まっているので見るなら今がチャンスです。(ダイレクトマーケティング)

果たしてフォッグたちは80日以内に世界一周を成し遂げることができるのか。
そして123sheerは夏アニメが本格的に始まるまでに春アニメを見終えることができるのか。

乞うご期待。


以下、ネタバレありです。

各話感想(ネタバレあり)

原作を知らなくてもシンプルな冒険活劇として十二分に楽しめる本作ですが、内容を比較してみると、かなり意識的に原作の展開を逆手に取っていることが分かります。
徹底してオリジナルとは「逆」を行く脚本構成が面白かったので、ここではエピソードごとに原作との差異などを振り返ってみたいと思います。

#1『いざ、大冒険の旅へ!』

日程:1日目〜2日目
経路:ロンドン-パリ-アルプス山脈

原作だとヨーロッパの旅路は特に何事も起こらずばっさりとカットされているのですが、今作ではパリでの一波乱が描かれています。
フランスでは1871年(物語の前年)に労働者による自治政府パリ・コミューンが樹立しますが、わずか3ヶ月足らずでティエール大統領に弾圧されてしまいました。今作ではそんな時代背景を取り入れ、コミューンの活動家としてパスパルトゥーの弟ジェラールを登場させ、世間知らずで大金持ちのフォッグ氏とのギャップを効果的に強調しています。
暗殺騒動のあと、フォッグたちはロームという男から気球を譲り受けますが、1870年代には実際にデュピュイ・ド・ロームというフランス人技師が飛行船の開発に成功したらしいですね。
ちなみに『80日間世界一周』といえば気球のイメージが強いですが、実は原作で気球に乗るシーンはなく、1956年の映画で独自に追加された要素です。

#2『機関車、危うし!』

日程:3日目〜
経路:アルプス山脈-ブリンディジ-スエズ運河

個人的に一番好きだったエピソード。
フォッグの人間的な弱さと強さの両面が描かれることで、一気に彼が好きになりました。モレッティ父子の関係性も良かった。
このエピソードの面白いところは、原作の終盤に登場する2つのネタを冒険の序盤に持ってきていることですね。
一つは、崩落しかけている橋を汽車で突破するシーン。これは原作だとアメリカ横断中に発生したイベントで、汽車を加速して崩れる前に一気に走り抜けるという方法でクリアーしました。本作ではその真逆で、速度を下げてギリギリのスピードで通り抜けるという方法になっています。(「動」を「静」に変えたことで生まれる緊張感が良い!)
二つ目は、燃料不足になった汽車を走らせるために車体を破壊するシーン。これも原作では最終盤のエピソードで、ニューヨークからイギリスへ向かう船が燃料不足に陥ったため、船体を燃やしてなんとか大西洋を横断しました。
終盤の展開を敢えて初っ端に持ってくる構成にしたことで、この先の展開をまったく予想できないものにしているのが巧妙。

#3『死の灼熱砂漠へ』

日程:16日目〜18日目
経路:スエズ運河-フダイダ-アデン

パスパルトゥー、フォッグと来て、このエピソードではアビゲイルに焦点が当てられます。
原作ではスエズ運河を抜けて海路でアデンへ直行しますが、今作では海賊の影響で海上交通がストップしており、フォッグたちはイエメン沿岸の都市フダイダから陸路でアデンを目指すことになります。
そのため、砂漠越えのエピソードは完全オリジナル展開です。今回のドラマではインドで象に乗るイベントがなかったので、代わりにラクダに乗るイベントを用意したのかもしれません。
明らかに絶体絶命な状況なのに微妙に悠長な雰囲気のフォッグとパスパルトゥーのやり取りが面白かった。
このエピソードに登場するスキャンダラスな女性ジェーン・ディグビーは実在の人物で、このドラマでは非常にかっこよく描かれていますが、ドラマ内での描き方ひとつでたやすくイメージを変えることができてしまうのがいみじくも劇中と同じくメディアの恐ろしさを示していますね。

#4『フォッグの秘密』

日程:28日目〜
経路:アデン-ムンバイ-カルカッタ

フォッグ氏の隠された過去が明らかになるエピソード。
このエピソードの注目ポイントは、やはりアウダ夫人の登場ですね。
アウダは原作におけるヒロイン的なポジションのキャラクターで、インドで殉死(サティー)の生贄にされそうになっていたところをフォッグに救い出され、一緒に旅をするようになります。
今作では旅で出会う登場人物の一人という扱いですが、「なぜ世界一周に挑むのか?」という作品の核となる疑問の投げかけをするキャラクターとして配置されています。
また、原作では「現地で知り合った英国軍の将校と協力して、葬儀から未亡人を救い出す」という展開だったところを、ドラマでは舞台が結婚式になり、花婿を現地の英国軍から救い出すという、徹底的に原作を裏返しにした展開になっているのがユニーク。

#5『香港の”白い竜”』

日程:41日目〜
経路:カルカッタ-香港-???

『80日間世界一周』を読んでいると、当時の大英帝国がいかに遍く世界に領土を広げていたかがよく分かります。
だからこそ、フィックス刑事は逮捕権のあるイギリス領にフォッグを引き止めておくことにこだわっており、香港はその最後の砦でした。
ドラマ版ではフォッグを追う刑事は登場しませんが、このエピソードでは同じように濡れ衣を着せられてしまい、逮捕されてしまいます。英国が略奪した宝を巡って英国人のフォッグが鞭で打たれるというのもまた因果な巡り合わせ。
ところで、このエピソードでは総督夫人がパスパルトゥーの名前を「パスポート」と呼び間違える場面があります。
フォッグと違って身分が低く、英雄でも白人でもイギリス人でもないパスパルトゥーが軽んじられているというシーンなのですが、映画『80デイズ』の方だと、ジャッキー演じるラウ・シンが咄嗟に言った「パスポート」という言葉をフォッグが聞き間違えてパスパルトゥーという呼び名になった、という設定になっています。おそらくは狙ってセルフパロディにしているんじゃないかなと思ったのですが、順序が逆転しているのが面白いですね。そういえば、あの映画も中国から英国に流れされた宝を取り戻すという話でしたが。

#6『無人島漂流記』

日程:47日目〜
経路:日本近海-サンフランシスコ

ヴェルヌの『十五少年漂流記』オマージュ回。(読んだことないけど多分)
原作では横浜行きのカーナティック号に乗り遅れたフォッグが別の船で追いかけて途中乗船するのですが、本作では反対にカーナティック号を途中で降ろされ、無人島まで流されてしまいます。
パスパルトゥーが薬を盛ったことを知って激怒するフォッグが大人気なくてちょっと可愛い。気持ちはわかりますが。ちなみに原作ではフィックス刑事が旅の妨害をするために香港でパスパルトゥーにアヘンを盛る場面があるのですが、本作では逆にパスパルトゥーが唆されてフォッグに薬を盛る展開になっていました。
旅としてはいっさい進行していませんが、フォッグとエステラの過去、そしてパスパルトゥーとアビゲイルの進展が描かれるけっこう大事なエピソード。
日本が出てこなかったのは少し残念ですが、2020〜2021年頃に日本で撮影許可が出たとは思えないし別なロケ地でヘンテコ日本が描かれるくらいなら出なくてよかったかもな、とも思う。

#7『西部を駆けろ』

日程:65日目〜
経路:サンフランシスコ-バトル・マウンテン-ニョーヨーク

大陸横断鉄道に乗るため、駅馬車でネバダ州バトル・マウンテンを目指すフォッグ一行(アメリカ到着が一日遅れたので、サンフランシスコ発の汽車に乗り遅れたのでしょうか?)が、KKKの幹部を連行中の保安官と出会います。この黒人初の連邦保安官補バズ・リーブスも実在の人物だそうです。
このエピソードでは今なお色濃く残る人種問題が描かれますが、物語の舞台である1872年は、まさに西部開拓時代の真っ只中。
原作のアメリカ編は鉄道で移動中にインディアンに襲撃されるといういかにも当時のステレオタイプ感あふれるストーリーが繰り広げられていたところ、今作では内戦の残り香を感じさせる古き良き西部劇仕立ての演出が多くて面白かったですね。
窓の外から合図するアビゲイルちゃんがかなり萌だった。

#8『クリスマス・イブ』

日程:70日目〜81日目(80日目)
経路:ニューヨーク-ロンドン

原作では12月21日が旅の期限でしたが、本作ではスケジュールを3日ずらしてクリスマス・イブが世界一周のタイムリミットという設定となっています。
香港での指名手配が取り消されておらず、当局の四角四面の対応で逮捕されてしまうフォッグ。あれだけイギリス式の規則正しさを愛していたフォッグが、最後の最後でその国民性に足元をすくわれてしまうという皮肉。世界を回ってきた後だからこそ、これまで信じていたものの別な側面が見えてくるというシーンでもありますね。
約束の期限を過ぎてしまいゲームオーバー……かと思いきや、かの有名な日付変更トリックからの逆転劇が気持ちいい。ここだけはどのメディア作品でも変わらないポイントですね。
ただ、このドラマのクライマックスは時間との対決ではなく、旧友ベラミーとの対決でした。
原作の『80日間世界一周』は男の夢とプライドの物語で、「得られるものがなくとも人は世界一周をするだろう」という科学と冒険に対するロマンを示して幕引きとなるのですが、今作ではさらに一歩踏み込んで、coward(臆病者)というキーワードから、フォッグ・パスパルトゥー・アビゲイルそれぞれの「恐怖に立ち向かう勇気」を世界旅行と重ねて描いていたのが良いメッセージだなと思いました。
しかし、世界一周に私財を投じたあとでベラミーに2万ポンドを渡す余裕のある今作のフォッグ氏は原作よりはるかに金持ちのようですね。
ちなみに、ニューヨークの路地裏でフォッグを襲うギャングを演じたタイ・テナントはフォッグ役のデヴィッド・テナントの息子。こんなところで親子共演が実現していたんですね。
タイ・テナントは『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』S1でエイゴン・ターガリエンを演じた俳優さんらしいです。


原作は当然のことながら世界一周に成功してハッピーエンドでおしまいなのですが、今作はなんとシーズン2が決定しているとのことで、続きがどうなるのかめちゃめちゃ気になる。
ラストシーンに出てきた新聞記事の内容がヴェルヌの『海底二万里』を匂わせる内容なので、次回作はまさかの海底SF……なんて噂もありますが、果たしてどうなんでしょう。その流れだと地底や月にまで行くことになりかねない。期待が高まりますね。



せっかくスターチャンネルEXに入ったんだし他に気になるドラマも見ておこうということで、グザヴィエ・ドラン監督初のドラマシリーズ『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』も見ました。
パッと見アート系っぽくて難しそうだな〜と思っていたのですが、登場人物のキャラがみんな濃くて笑えるシーンが多いし、かと思えばいきなりぎょっとするような演出が入ったりしてかなり揺さぶられました。
タイトルにもなっている「あの夜」にいったい何があったのか?というサスペンス要素で引っ張る面白さもあって、すごく見やすかったです。
家族ドラマとしてもうまく出来ていて、個人的に最終回はかなりジーンと来てしまった。おすすめです。

他には『ラザロ・プロジェクト』とか『ジャンゴ・ザ・シリーズ』とかもちょっと気になってるんだけど、残り期間的にさすがに厳しいかなという感じ。アニメや例のやつも見なきゃいけないので……。また入る機会があれば見てみたいと思います。


ぼくもフォッグ氏を見習ってそろそろ目を背けてきた問題に立ち向かわないといけないのかもしれない。

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